復讐の輪廻
みふね
復讐の輪廻
これはとある国の話である。
この国で最も誠実で最も賢い男、カエサルが車の運転を誤り、一人の女性を轢死させてしまった。ある夏の夜の話だ。
このニュースに誰もが耳を疑った。皆彼のことを愛していたし、彼が事件を起こすなど夢にも見ないことだった。
司法官らもまた、しかりである。彼らは如何にして彼の罪を軽減するか、そして如何にその理由を正当化するか、必死に頭を悩ませた。
こうしてこの国に、日頃の行いに応じて罪の重さを決める法が立てられた訳である。そして数ヶ月の後にカエサルは晴れて自由の身となった。
あれから何年か経ち、ブルータスという若い男の噂が囁かれるようになった。カエサルに負けず劣らずの知性と清き心を兼ね備えた好青年だと人は言う。
さて、とある夏の夜の話である。カエサルが轢死した。彼には一人の娘がいた。彼女は父の亡骸を見るや、涙を流すも、その眼差しは何とも形容できぬ、恐ろしいものだった。
ブルータスはある貧しい家庭に育った。父を幼き頃に失い、母は女手一筋で彼を支え続けてきた。僅かばかりの賃金で過酷な労働に従事し、彼に学業を授けた。
ある日、母が家に帰って来なかった。仕事が長引くことは多々あった。しかし朝日が上るも、母の姿はない。
家にはもう、自分以外に誰もいないのだと、彼は悟った。母は殺された。
犯人のことを彼は心の底から憎んだ。何度頭の中でそいつを殺しただろう。そして何度あの蒸し暑い、一人過ごした夜を夢に見ただろう。
それからというもの彼は、人一倍誠実で賢くなることを一人誓った。
そのカエサルの死に誰もが涙を流した。
否。厳密には一人を除いて皆おしなべて、と言うべきだろう。
果たして犯人は捕まった。しかし、その罪は、あのカエサルを殺害したとは思えないほど軽いものだった。そうして数ヶ月の後に犯人は出所した。
さて、それから何年かの月日が流れ、この国ではカエサル、ブルータスにも優るほどの才女が現れることになるのだが、それはまだ先の話である。
復讐の輪廻 みふね @sarugamori39
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