第五章 雨の降り続く町5

「疑ってるわけじゃないんだけど、本当にあなたたちは偉い使者なの? この町からも使者として旅立った人たちがいたけれど、もっと年かさのいった、たくましい人たちだったわ。特にあなたは他の使者の人よりも随分若いし、わたしと歳もそう変わらないように見える。そんな人がセレイアに向かう大変な旅をしているなんて、なんだか信じられなくて」

「その偉いっていうのは、なんか勘違いされてるんだと思うんだけど。でも僕たちがセレイアに向かって旅をしているのは本当だよ。それがすごく大変な旅なんだってことは、僕たちも先刻承知している。その使者として僕が選ばれたのは、僕が風の声を聞くことができるからなんだ」

「風の声を?」

「うん。きみのお父さんが水の竜に会ったのと同じように、僕も小さいころ、風の竜に会ったことがあるんだ。そして、そのときから僕には風の声が聞こえるようになった」

 レミは驚きで目を見開いた。

「それは、風の竜の加護を受けたということ?」

「そうらしい」

「それじゃ、風の竜の力を見せられると言っていたのは本当のことなの? もしかして、あなたがそれを?」

「正確に言うと、僕の力ってわけじゃないんだけど、その力を見せることはできるかもしれない。ただ、今休憩中のところを起こしていいものかどうか、判断に迷ってて」

「休憩中?」

 困った笑みを浮かべるユヒトに、レミは訝しげに眉をひそめた。

「まずは前座として、わたしの弓術を披露しましょう」

 エディールは、町の人々の前の少し高い場所に立ってそう声をあげていた。ユヒトがそちらに顔をやったのを見て、レミもそちらのほうを見た。エディールは持ってきていた弓を顔の前に構え、遠くに見える高い木のほうに向けていた。

「そうですね。あの木の天辺に止まっている鳥を、ここから射落としてみせましょうか」

 言いながら、エディールは弓に矢をつがえている。

「おいおい。本当か。ここからあそこまで、相当な距離があるぞ。あんな小さな鳥に当てられるわけがない」

 その町人の言うとおり、エディールが示した木はかなり遠くに見える。しかもそこに止まっている鳥は、それほど大きな鳥には見えなかった。それに今は雨が降っていて、視界もよくない。

 レミもその町人同様、あの鳥に矢を当てるのは、内心無理な気がしていた。選ばれた使者か知らないが、所詮は人間のやることだ。そこには限界があるだろう。

 そう思いながら、エディールが弓で矢をひくところをながめていると、なんと、それはみるみるその木にまで伸びていき、そこにいた鳥を射落とした。

 わっと歓声がおきた。レミは信じられないものを見たように、目をぱちくりとさせた。

「エディールさんの弓の腕は、超一級なんだ」

 ユヒトが無邪気な笑顔で言った。

 その後もエディールは見事な弓の腕前を、町人たちに披露していった。もうすっかり、町人たちはそちらに夢中になっている。しばらくエディールの弓術披露で時間は過ぎていった。

「それにしても、ギムレさん遅いな。どうしたんだろう」

 やがてユヒトがそう口を開いた。それを聞き、レミは、はっとした

「きっと頑固なお父さんに手こずっているんだわ。やっぱりわたし、様子を見に行ってくる」

「え! 一人じゃ危ないよ。僕も行くから」

「でも、あなたは風の竜の力を、ここにいる人たちに見せなければいけないんじゃないの? それとも、あなたは関係ないの?」

 レミがそう言うと、ユヒトは困ったように頭を掻いた。

「関係はないわけじゃないんだけど、とりあえず、今のところはエディールさんに場を持たせておいてもらうしかない。ごめん、エディールさん」

 ユヒトは言うやいなや、レミに先駆けて走っていった。

「えっ、ちょっと待って!」

 レミも慌てて彼のあとを追っていった。

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