第三章 白い友人6

 家の中にはユヒトとハルゲンだけが残り、その間にはルーフェンが静かに座っていた。

「さて、邪魔者も消えたことだし、先程言っていた金よりも価値があるというもののことを聞かせてもらおうじゃないか」

 男の問いに、ユヒトはこんなふうに答えた。

「アダル石という宝石は知っていますか?」

「アダル石? なんだそれは」

「それは、セヴォール山にしか存在しない非常に珍しい宝石です。それこそ金額で価値をつけられないくらいのすばらしい品物です」

 ユヒトがそう言うと、ハルゲンは目の色を変え、口元には我慢できなくなったように笑みが浮かんだ。

「そ、そいつはすごい。それならば確かに先程金よりも価値があるといった意味もわかる。それで、そのアダル石というのはどこにある? そいつを俺にくれるんだろう?」

「はい。けれど、それは今ここにはありません。そのアダル石のある場所を教える前に、まず先にこの子を解放してもらわなければなりません」

 ユヒトの要求に、ハルゲンはまた渋る様子を見せたが、それは先程よりもかなりの迷いを伴っているようだった。

「いや。しかし、解放してしまってからでは……」

「僕が嘘を言っているかもしれないと疑っているんですね。ですが、その場合はあなたはその剣を抜くと言いました。僕は今武器を手にしていません。先程あなたの指示に従って、そちらに剣を置いてあります。なにを心配する必要があるでしょう」

 ユヒトの言うとおり、彼の剣は今は男の後ろに置かれてある。

「確かに。この獣を解放したとして、こちらには武器がある。お前は俺に逆らうことはできないということになるな」

「そういうことです」

 ハルゲンはそれを聞いて、ようやく納得したようだった。

「じゃあ、取引成立だ。この獣を解放してやろう」

 ハルゲンがルーフェンの鎖をはずす様子を見て、ユヒトはほっと胸を撫でおろした。

 なんとかルーフェンの解放を、ハルゲンにさせることができた。

 しかし問題はこれからだ。

 ハルゲンは鎖にかけられた術を解く呪文のようなものを口にした。それにより、そこにかかっていた術が解け、鎖がはずせるようになった。

 その瞬間だった。

 突然、家の中が渦巻いた。

 ユヒトは一瞬驚いたが、すぐに自分のしなければならない行動を思い出し、動いた。

「わあ! なんだ、こいつは……っ!」

 ハルゲンが突風に驚いて尻餅をついている隙に、ユヒトは自分たちの武器を取り戻し、家の扉を開けて外へと飛び出した。

「な、なんだあ?」

「大丈夫か。ユヒト!」

 家の中から転がるようにして出てきたユヒトを見て、ギムレとエディールが目を丸くしながら近寄ってきた。

「ギムレさん。エディールさん! 早くここから立ち去りましょう! あの男が追ってくる前に!」

「え? なんだ。どういうことだ?」

「説明は後です! とにかく今は逃げるのが先決です」

 ユヒトの言葉にギムレとエディールは不思議そうな面持ちをしながらも、ユヒトに続いて自分の馬の繋いであるところへと走っていった。そして、三人は急いでそこを後にした。

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