第19話 夏川家の家族写真に僕がいるんだけどどうしよう

 「おい、まじか、これ。」

 「うん、マジマジ。」


 あれからしばらくして僕たちは、執事さんの声掛けにより車を降りた。そこから見える建物は、多分、家というより城と形容した方が正しい。

 そして、一瞬 何かの施設かと勘違いしてしまうくらい広い家を執事さんに案内されながら歩いてきた僕たちの前には、アニメや漫画でしか見た事のないような、とんでもなく美しい料理の数々が並べられていた。

 最高級ホテルのビュッフェですかここは。何の冗談ですかこれは。


 「お、君たちが唯菜のお友達の子たちだね!」


 後方から若い男性の声が聞こえてきたので、咄嗟とっさに振り返った。そこにいた男に今すぐにあだ名を付けるとしたら、真っ先に浮かぶのは『チャラ』。身長は生野と同じくらいか少し高く、白いスーツと赤いネクタイが包み込んでいる身体は、割と細め。顔立ちは非常に良く、紛れもないイケメンだ。

 だが問題はここからだ。尋常じんじょうじゃない数のピアスは舌にも一つ着いているようで、ネックレスやブレスレット、腕輪に指輪。絶対この人、『とりあえず着けれるもん着けとけ』みたいな感じで着けたんだろうな。という印象。

 髪型は所謂いわゆるホストのようで、金髪の毛先をかなり遊ばせている。

 察するに、唯菜のお兄さんだ。きっと、亡くなったお兄さんとは別に、もう一人 兄が居たのだろう。


 「あ、そ、そうです。唯菜のお兄さん…ですよね?」


 僕はギャルも好きではないが、こういったチャラい男性にもあまり良い印象を持っていない。少しおびえながらの僕の問いに、お兄さんは何故か吹き出した。


 「ぷっ、ははは!」

 「ど、どうされたんですか…?」

 「違う違う、俺は唯菜のお兄さんじゃなくて、お父さんだから!」


 「「「「えっ」」」」


 衝撃の事実に、しばらく黙っていた生野、シャルル、雪乃も驚愕きょうがくの声を放つ。

 いやいや、お父さん若すぎるだろ。つかチャラすぎるだろ。


 「めちゃめちゃ…お若いですね…?」

 「まあね、よく言われるよ。それにしても…。」


 そう言って唯菜のお父さんは、僕の顔をと見つめる。


 「…本当にカズにそっくりだなあ。」

 「だよね? お父さん。」


 カズ。唯菜の呼び方では、【カズ君】。唯菜の兄である。

 お父さんまでそう言うということは、本当に僕は唯菜のお兄さんにそっくりなのだろう。

 そこまで言われると少し見てみたいものがある。


 「よかったら、カズ君…さんの、お写真を見せていただけませんか?」

 「んー、構わないけど、その前に皆、お腹空いてるでしょ? 先にご飯食べなよ。」

 「あ、そ、そうですね。すみません。」

 「いやいやいいよ。っていうかそんなに緊張しなくて良いよ? 見た目はこんなんだけど普通の人間だからさ。」

 「と、とは言っても。」

 「いいっていいって。もはやタメ口でも構わないから、名前も呼び捨てでいいから! あ、ちなみに名前は寧朗ねおね。呼びやすいっしょ。」


 もともとの柔らかい喋り方に、少し唯菜と重なるような軽い口調が混ざっている。その喋り方は、チャラチャラとした印象は与えるものの、不思議と嫌な気分にはならない。むしろフレンドリーで接しやすい印象。

 しばらく話しているものの、やはりこの人が妻子さいしを持っているという事実にはもうしばらく違和感を覚え続けるだろう。


 「じゃあ、寧朗ねお。そしてお兄ちゃん。おなかすいた。」


 当然のように寧朗さんを呼び捨てしだす雪乃に、反射的に注意をする。こいつのこういうところは昔からマジで治らん。父の友人の警察官、池田さんのことも最初っから呼び捨てだったし。礼儀を知れちくしょう。

 雪乃に注意する僕の様子を見て、寧朗さんが口を開く。


 「大丈夫 大丈夫、本当に呼び捨てでいいから。」


 にこやかにそう言うと、寧朗さんは僕らをテーブルに招いた。歩く姿もマジで絵になるイケメンだ。僕の周りイケメン多すぎんか。


 「さあ、どうぞ食べて食べて。」

 「あの、本当にありがとうございます。んじゃあ皆…」


 「「「「「いただきまーす」」」」」 













 豪華すぎる料理と部屋の雰囲気に緊張しながらも食事を楽しんでいると、寧朗さんが立ち上がり、部屋の壁際にある棚から何かを持ってきた。つかテーブルと壁の距離やばすぎだろ。どんだけ広いんだこの部屋。

 どうやら寧朗さんが持ってきたのは写真立てのようだ。


 「こいつがカズ。漢字で書くと和食の『和』だよ。」


 そう言った寧朗さんがゆびさしている写真には、寧朗さんと唯菜、そして唯菜のお母さんと思われる綺麗な女性と、僕が写っている。


 …僕が写っている。

 これは夏川家の家族写真であるはずだ。更に、僕にはこんな写真を撮った覚えなどない。困惑と少しの恐怖に襲われ、ついそれを口に出す。


 「え…。なんで僕が…。」


 すると、寧朗さんより先に、雪乃が口を開いた。


 「お兄ちゃん。それ、お兄ちゃんじゃない。」

 「ん、妹ちゃんの言う通り。これは君じゃなくてかず。」

 「え、似すぎじゃないですか…?」

 「「だからそう言ってんじゃん」」


 唯菜と寧朗さんが口を揃えて言う。

 まあ、言ってたけど。ここまでとは。

 最初に唯菜が泣きながら僕に抱きついてきた理由が、解ったような気がした。


 「いやあ、それにしてもそっくりだな…。黒崎にしか見えんぞ。」

 「ボクも、これがマサトではないとはにわかには信じられないな…。」


 イケメンコンビもそのそっくり具合に唖然あぜんとしている。そりゃそうなるわ。


 と、そんな会話を交わしながら、僕たちは楽しく食事を続けた。




 「…つか、それにしても雪乃、よく すぐにわかったな。とうの本人の僕ですら判んなかったのに。」

















 「…当たり前じゃん。お兄ちゃんの一番近くに居るのは雪乃なんだから。」


 雪乃はそう言っている最中、ずっと唯菜の方を見ていた。何故かは分からないが、雪乃の表情が穏やかのものではなかったので、ひとまずこれは見なかったことにしておこうと思う。

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