第11話 昼休みの前編なんだけどどうしよう
いつもこういう空気になった時は状況から説明してしまうので、たまには僕の感想から述べていこう。
控えめに言って非常に帰りたい。
というわけで現在の状況はこうだ。
二人目の転校生であるフランス人のシャルルさんが、僕に『よろしく』と握手を求めたのに対して、一人目の転校生であるギャルこと夏川さんが、『黒崎晶仁と仲良くなるのは自分だけで充分だ』といったような発言をし、シャルルさんを黙らせたのだ。
ちなみに他のクラスメイトは、この
さあ、これで僕がこの場に居たくない理由が解っていただけただろうか。夏川さんのアホさに打ちひしがれながら僕が頭を抱えていると、シャルルさんがゆっくりと口を開いた。
「なんでボクがマサトに話しかけたのか、分かる?」
目線からして、この発言は夏川さんに向けたものだと思われる。
夏川さんもそれを
「…一番近くに居たからじゃないの?」
「一番近くに居たのはキミじゃないか。」
「男子の中で一番近かったのは晶仁っちだったじゃん!」
「男子の中で、っていう
「はぁ? 細かいことはいいじゃんか!」
口論になりかけているこの会話の最中、夏川さんはずっと、怒っているというよりは、何かに焦っているような表情を浮かべている。ここは夏川さんからすれば怒りを
やはり夏川さんは朝から様子がおかしい。
元気よく『おはよう』と
会って二日目の人間がこんなことを言うのもどうかとは思うが、今日の夏川さんは、夏川さんらしくない。一体どうしたのだろうか。
ひとまず、この言い合いを止めなければ。
…と思ったが、僕の三席前でずっと黙っていた生野が突然立ち上がり、
「ちょっと二人とも落ち着いて。特に夏川さん。ほら、クラスの皆もどうしていいか分かんなくなっちゃってるからさ。とりあえず昼休みにでも三人で、いや、やっぱり俺を含めて四人で、ゆっくり話そうぜ?」
こんなに落ち着いて人と話している生野を久々に見たので少々
この空気がなんとかなるなら飯でも面でも食らってやるわ。
「分かった。すまない、感情的になってしまって。」
「べ、別にいーよ。ウチも悪かったし。」
「昼休み、キミも一緒に。いいよね?」
「分かった。いーよ。」
二人とも落ち着いて、その上で生野の案にも納得したようだ。
『と、いうわけだから皆、そんな緊張しなくていいよ!』
生野が皆に向かってそう言うと、クラス中から一斉に
そんなに気を張らせてたんですね、なんか、さあせん。
――――
控えめに言って帰りたい。大袈裟に言ってこの教室を吹き飛ばしたい。
デジャヴではないぞ。
というのも現在、あっという間に時間が過ぎて、昼休み開始から五分ほど経ったところなのだが、教室後方で机を四つ固め、それぞれ弁当を広げている僕らは、まだ一言も言葉を交わしていないのだ。
さらに、他のクラスメイトのほぼ全員がこちらを見ながら少し遠い所でざわざわしているため、恥ずかしくて仕方がない。
しかし、注目を集めるのも無理はない。
昨日転校してきた美人ギャルに、今日転校してきたフランス人イケメン。生野だって、シャルルさんほどではないものの、確実に『イケメン』という
机の配置は、僕から見て、前が夏川さん、左前がシャルルさん、左隣が生野だ。
僕と夏川さんとシャルルさんはそのまま自分の机を使って、小・中学校の給食時間によくやっていた班の形を作り、席の離れていた生野は、自分の机と椅子を僕の隣に持ってきた。
今はとにかくこの
「えーっと、シャルル君は初対面だし、まずは自己紹介だね。俺は生野佑馬。黒崎の一番の親友で、夏川さんとは昨日知り合ったところ。あれ、そういえば夏川さんはシャルル君が来ることを知らなかったみたいだけど、シャルル君は夏川さんが昨日来たってことを知ってたの?」
「うん、知ってたよ。山下先生が教えてくれていたからね。あと、マサトにも言ったけど『シャルル』って呼び捨てでいいよ。」
あれ、僕そんなこと言われてたっけ。最初のあの放心してたときに言われてたんかな。今度からはシャルルって呼ぼう。
「わかった、ありがとうシャルル。じゃあ夏川さんも自己紹介してくれる? 俺は知ってるけど、シャルルは初対面だし。」
「ん、わかった。…夏川唯菜、晶仁っちには昨日めっちゃ迷惑かけちゃったけど、晶仁っちはウチにとってここに来て一番最初の友達だと思ってて、えっと…。」
「ウチは、晶仁っちのことが好き。だからその、生野っちもシャルルっちも、晶仁っちに近いのが嫌だった。別に生野っちたちが嫌いなわけじゃないんだよ? その、冷たくしちゃって、 …ごめんなさい。」
涙目になって深く頭を下げる夏川さんに、生野がまた声をかけた。
「良いよ、全然。でもさ、なんで昨日会ったばかりの黒崎を、そんなに好きなの?」
夏川さんは頭を上げ、またひとつ深呼吸をしてこう答えた。
ぎりぎり周りのクラスメイトには聞こえないくらいの小さな声で。
『…晶仁っちが、死んだお兄ちゃんに、
…【カズ君】に、そっくりだったから。』
僕たちは、言葉を失った。
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