影に舞う者達②

 王女を王位に就ける。

 この悠弥の言葉は、この場にいた十人を驚かせると同時に、疑念も生じるものだった。

 この国の情勢は今に王女側に傾いているわけではない。

 どう見ても不利な状況。それは間違いではない。

 「・・・・・・一つ宜しいでしょうか?」

 一人の女性が手を挙げた。

 「どうぞ。何でも答えますよ」

 「では、ユーヤ様は、この争いを終わらせると言われましたが、どのくらいの期間と、どの様な手法で行うのかを教えて頂けますか?」

 「終結までかける時間は、半年。方法は、相手の弱い部分を徹底的に叩くと同時に補給線を潰す。そして、敵側の参謀役を全員使い物にならない様にする」

 「つまり・・・・・・」

 「殺す」

 部屋の空気が一瞬にして凍り付く。

 この一言には悠弥の覚悟が込められていた。

 「そして、最後は弟王子をこちら側に抱き込む」

 「抱き込む?」

 「そう。王女の臣下になってもらう」

 血の繋がりがある者ですらも、家臣として扱う。

 立ち位置をはっきりさせる事で、王女のカリスマ性を上げる事ができる。

 「それで、上手くいくのでしょう?」

 他の男性が尋ねる。

 「俺一人じゃ無理だ。だが、諸君らがいれば可能だ」

 全員が顔を見合わせ、静かに頷いた。

 「我々は今日から貴方に付いていく事を約束します」

 片膝を折り、頭を下げる。

 「有難う。あと一つだけ付け足しておく。この部隊は裏側での仕事が主だ。つまり、誰にも褒められるような仕事じゃない。簡単に言えば、汚れ役だ。それを我々十一人は買って出る」

 立ち上がって悠弥は言った。

 「昇進も無いし、称号が貰えるわけでもない。そんな世界で今日から生きていく事になる。覚悟が出来た者は机にあるグラスを手に取り飲んでくれ」

 全員が立ち上がりグラスに手を伸ばし果実酒を飲み干した。

 悠弥を自分達の大将と決めた瞬間だった。

 「ユーヤ様。部隊の名前は決まってるんですか?」

 「いや? あった方がいい?」

 「恰好が付きますよ」

 「そうか。じゃ、闇の世界を舞う様に暗躍するって意味を込めて『闇舞(あんぶ)』と名乗るか」

 口唇を釣り上げて悠弥が部隊の名を全員に告げた。

 「さぁ、それじゃ『闇舞』諸君。王女の行く道を阻害する者、考えに反対の者を排除しながら行こうか。我々の仕事は・・・・・・」

 十人の視線が悠弥に注がれた。

 「王女の代わりに泥をかぶり、血塗られた道を突き進む事だ」

 「はっ!!」

 この先国内は勿論、大陸全土にその名を轟かせ、裏世界を牛耳る集団『闇舞』が誕生した瞬間であった。

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