影に舞う者達①
次の日の夜、宰相と総司令官により選ばれた十名の男女は、城下から離れた場所へと向かわされた。
十名の内、魔装騎兵隊から選出された六名は幾度となく顔を合わせている仲で、相手の事もそこそこ知っている位である。そして宰相から選ばれた四名は補佐官として、用いられた者達だった。この六人と四人は、今夜初めて顔を合わせたのである。
そして十名は指示のあった場所へと到着した。
そこは廃墟と化した教会だった。
誰からともなく、この教会の扉を開け中を覗き込む。
そこに人の気配は無い。無いのだが、教会内はろうそくの光で照らし出されており真新しい円卓が置かれ、その上にはグラスに入った果実酒が十名分用意されていた。しかも、廃墟なのに手入れが行き届いている。
変な緊張感が部屋中に漂っていく。
一体、ここで今から何が行われようとしているのか。
何も聞かされていない彼等はとりあえず、円卓を囲んだ。そしてその時気付いた。
部屋に誰もいないと思っていたのに、人がいるのを。
「だ、誰だ!?」
一人が言いながら剣の柄に手をかけた。
その人影は祭壇の横に座っていた。
黒いコートに白スーツ。
黒のシャツを着込んだその男は静かに立ち上がると十人に挨拶した。
「初めまして、諸君。俺の名前は悠弥。ティアラ王女に加担する者だ」
「お、王女様に?」
悠弥は全員の顔を見てから、
「さて、諸君は今日この時から俺の配下になってもらうのだが、断るという者がいれば、別に構わない。ここから出て行ってくれ」
この言葉に、全員呆気に取られた。何とか自分を取り戻そうと皆がそう思った瞬間、悠弥から次の言葉が飛び出す。
「諸君は宰相殿や総司令官殿が推薦してくれた人物だ。つまり、諸君ならば俺の仕事を大いに助けてくれるだろうと思われての選出だろう」
遠回しに、宰相や総司令官の顔に泥を塗るつもりかと言った。
全員が何かを言い返そうと考えたが、それでも悠弥の方が早い。
「まぁ、今から俺が話す行動作戦を聞いてからでも良い。無理だと思ったらここから出て行ってくれ」
言って、悠弥は近くにあった木製の椅子に腰を下ろす。そしてタバコを取り出し銜えた。
「この世界、というかこの国じゃ今、紛争が起きているな。しかも、不毛な争いだ。だってそうだろう? 姉と弟で、どっちが次の王位に就くかを争うなんて、頭がイカレている奴にしか出来ない所業だ」
これをティアラが聞いていたら間違いなく怒ったであろう。
そう思いながら悠弥は続ける。
「しかも、このイカレた紛争がもう一年以上続いているというじゃないか。しかも、戦局はこちら側が不利と来ている」
煙を吐き出しながら言う。
しかも完全にその口調は、自分には全く関係無い位の口調である。
「こんな紛争に巻き込まれて、一番苦しいのは誰だと思う?」
ここで少し真面目な口調になり、全員に尋ねた。
全員が顔を見合わせる。
そんな事を考えた事がないみたいな顔である。
「では、質問を変える。諸君はこの争いを早く終結させたいか?」
全員が頷く。
その為に今まで王女の剣となり盾となってきたのだ。それは騎兵隊の誇りであり、自信にもなる。
補佐官達も自分達の考えや作戦立案を行ってきたからここまでやってこれたと、自負していた。
「では何の為に早く終わらせたい?」
「そ、それはこの国に平和を・・・・・・」
「誰のための平和だ?」
発言した人物に視線を向け、答えを聞く。
「そ、それは・・・・・・」
「王女の為か? 国の為か? それとも己の為か?」
まくしたてられ、何も答えられない。思わず下を見てしまった。
「じゃ、今日から胸を張って言え。王女の為だと。それだけを考えて生きろ。剣を持て。頭を使え」
タバコを床に捨て悠弥は言った。
「争いが無くなれば、国民も平和に生活出来る。その平和を手にする為にも王女には王位に就いてもらう」
それは、悠弥が自分に課せた目的の一つだった。
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