度量がない奴には付いていけない②

 それから少しして、ゲイル宰相が数人の男女を連れて部屋へ戻ってきた。男女の手にはシャツやズボン、ジャケットがあった。

 「宰相。今から仕立てるの?」

 「いえ、王女様。私の見立てが間違っていなければ、これが合うはずです」

 そして悠弥の方に向き直ると

 「失礼」

 言いながら悠弥の身体を触ってきた。

 「ち、ちょっと・・・・・!!」

 慌てて一歩下がった悠弥に対し、

 「お任せください。私、これでも目には自信があります」

 そう言うと一つ頷いて連れて来た男女に頷いて見せた。

 悠弥は思わず、何に自信があるのかと言いたかったが、そこは何も言わないでおこうと思った。

 男女は静かに悠弥の前に出て、手にしていた着衣を差し出したのである。

 「・・・・・・ここで着替えろと?」

 「流石に王女様の前では失礼にあたるかと」

 「私は気にしないわよ?」

 「いや、俺は気にするから・・・・・・」

 言って着衣を受け取り、部屋を出ようとした時、ティアラが声をかけてきた。

 「早く着替えて来なさい。あと、何か必要な物があれば今言って。準備させるわ」

 「それじゃ、口の堅い腕の立つ者と、戦略を立てるのが得意な者を十名位。出来れば、家族や兄弟がいない者がいいな。あと・・・・・・」

 言って腰の後ろから小太刀を出した。

 「これをこの世界でも使える代物にしたい」

 宰相に手渡すと、静かに鞘から抜いて小太刀に視線を落とした。

 一通り見ると宰相は静かに頷いて王女に差し出す。

 「魔装させればいいのね?」

 「頼んでおきますよ」

 「分かったわ。二日あればいいわね」

 「はい。二日もあれば十分かと」

 宰相に小太刀を返しながらティアラが言うと、そう答えたのだった。

 「じゃ、着替えて来ますね」

 悠弥は衣服を着替えるため部屋をあとにしたのだった。

 部屋に残った四人は部屋の中央にある円卓に腰を下ろした。

 「王女様」

 「何かしら?」

  エリスが一礼してから、続けた。

 「この国の戦況ですが、こちら側は人材不足です。いくら魔装騎兵隊がいるとは言え、相手側には名立たる貴族達が付いています。力は無いにしても・・・・・・」

 「財力に多大な差があるわね」

 「はい」

 ティアラもその事はこの内紛が始まった時から分かっていた事である。

 弟王子の母親は、この国でもそれなりに力を持った貴族の娘である。しかも、父親が他の貴族達を自分の方に味方するよう、色々な手段を用いている事は分かっている。このままでは、こちら側が孤立してしまうのは火を見るよりも明らかだった。

 「それを切り崩すために、ユーヤをこちらの世界に連れて来たのよ」

 「しかし・・・・・・」

 「大丈夫よ。彼はやってくれる。根拠は無いけど、ユーヤには何かそれをやってのけるだけの力量を感じる」

 言って階段から腰を上げると円卓に座る三人を見た。

 「まぁ、私の勘だけどね」

 と、おちゃらけてみせた。

 「エリス殿。王女様の勘を信じようじゃありませんか。我々はこの方を選んだのです。その大将を信じられなくなったら、終わりです。この国もね」

 ヴィゼルがそう言うと、エリスは少し考え込んだが静かに頷いた。

 「そうですね。ユーヤ殿の言葉じゃありませんが、度量の無い人には付いていけませんしね」

 「そういう事です。さて、それでは私は腕の立つ者を何人か見繕うとします」

 「私も配下の者から戦略や知力に秀でた者を見繕うとします」

 ヴィゼルとゲイル宰相は席を立ち、ティアラに一礼して部屋をあとにしたのだった。

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