度量がない奴には付いていけない①

 エンバイルグ大陸には大国と呼ばれる国が3つあった。

 この3大国は軍事力や経済力が拮抗している事で戦争になる事はなかった。ただし、この3大国に次ぐ力を持つ国がこの大陸の中心に存在していた。それが、ティアラ・フランフィス王女がいる国、フラディエル国である。

 他の3国は何とかしてこの大陸中心にある国を手にしようと考えていたのだが、そう簡単に手を出す事が出来なかった。

 理由は簡単だった。

 このフラディエル国は軍事力や経済力は3国に劣るのだが、唯一勝っているものがあった。それは、魔導力だった。

 フラディエル国はこれをうまく活用して、3大国からの干渉を受けずにやってこれたのだ。

 だが5年前、ティアラの父である王が亡くなった事で国内に内紛が勃発したのだ。

 本来ならば、第一王女であるティアラが王座に就くはずだったのだが、これに反旗を翻したのがいた。前王の愛妾であるアネシアが自分の産んだ男子が継承すべきだと声をあげたのである。

 これに賛同する声もあり、フラディエル国は2つに割れ、今も内紛が続いている状態だった。

 「・・・・・・で、俺に何をしろと言うんだ?」

 城の回廊を歩きながら、男は銀髪の王女、ティアラに質問した。

 「さっきも言ったでしょ? その頭脳を貸してくれればいいわ」

 「・・・・・・いや、だから」

 王女は男に視線を向け、

 「簡単に言えば、あの母親とその取り巻きを黙らせる事が出来ればいいのよ」

 言いながら城の奥へと進む。

 「お嬢が、後継者だって宣言すればいいんじゃないか?」

 足を止め大きく息を吐いた。

 「それが出来れば苦労しないし、貴方をここに連れてこないわよ? あ、そう言

えば、何て呼べばいい?」

 「何をだ?」

 「貴方の事よ? 一応、貴方の事は調べさせてもらったわ。川元悠弥。異世界の島国の裏世界の次席。類稀な頭脳の持ち主。あと、なぜか暗殺が得意」

 「そういう家系で過ごしてたからな。あと、頭だけじゃ二番手にはなれないんだよ」

 「で、何て呼ばれたいの?」

 「お任せするよ」

 「そ。じゃ、ユーヤね」

 スパッと呼び名を決めると、ティアラは奥の扉を開いた。

 部屋の中央には男性が一人、女性が一人、初老の男性が一人おり、ティアラの姿を確認すると、片膝を折り頭を下げた。

 「お帰りなさいませ、王女様」

 「ただいま戻りました。何か動きはありましたか?」

 ティアラは王座に続く階段に座り込み三人を見た。

 「戦局に大きな動きは御座いません」

 女性が言いながら、ティアラに紙の束を手渡す。

 それにさらっと目を通すと悠弥を見た。

 「三人に紹介しておきます。彼が今日から私達の味方してくれる、ユーヤよ」

 三人は悠弥の方に振り返ると、頭を下げた。

 慌てて悠弥も頭を下げる。

 「ゲイル宰相」

 「は、王女様」

 初老の男性が静かに頭を下げる。

 「ユーヤに着衣を与えて」

 「かしこまりました」

 宰相は部屋をあとにした。

 「ユーヤ。紹介しておくわ。彼女は私の筆頭秘書官のエリス。そして、そこの男性がこの国の魔装騎兵隊総司令官、ヴィゼルよ」

 「初めまして。エリスと申します」

 「魔装騎兵隊ヴィゼルです。よろしく」

 「どうも。悠弥です。こちらこそよろしくお願いします」

 会釈程度に頭を下げて見せた。

 「ユーヤ。これが私の味方よ。これだけしか私に付いて来ていないわ」

 「十分だろ? 喧嘩は数じゃない。どれだけ覚悟を決めてるか。この人の為に付いていけるか。それで覚悟は決まる。それだけの度量が無い人間には誰も付いていかない」

 「そんなものかしら?」

 「そんなもんさ」

 ティアラの質問に答えると、悠弥はエリスとヴィゼルを見た。

 「お二人はお嬢に何かを感じたから、付いて来ている。宰相殿も」

 「ふーん。じゃ、ユーヤは私に何を感じたの?」

 「何も」

 「はぁ?」

 「ただ、面白そうだと思っただけさ」

 「それだけで見ず知らずの人間に命を預けるの?」

 「十分だろ?」

 この答えに最初に笑ったのはエリスだった。それに吊られるようにヴィゼルは盛大に噴き出した。

 ティアラはポカンとしたまま笑っている二人と悠弥を見ていた。

 「いや、失礼。しかし、なかなか面白い方ですなぁ、貴方は」

 ヴィゼルは涙を拭きながらそう言った。

 「本当に。どんなお方なのかと思いましたが、かなりの命知らずなお方ですね、ユーヤ殿は」

 エリスはティアラを見ながら笑った。

 「王女様はかなり面白い方を連れて来たみたいですね」

 「ま、まぁ、人を見る目だけはあるつもりだからね」

 どこか照れた口調でそう呟いた。

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