異世界統一異聞録
たにやん
プロローグ
男はここじゃない世界の日本という国にいた。
二十歳を過ぎた頃には、ヤクザと呼ばれる世界に足を踏み込んでいた。
別に何かに惹かれた訳でもない。
ただ、全てを流れに任せた生き方をしてきた結果、そこに辿り着いただけだった。そして、この日本最大の広域指定暴力団『鳳神会(ほういんかい)』の若頭に就任したのが、この世界では最年少記録だと言われ、色んな意味で世間を驚かせた。だが、本人にはその自覚は皆無だった。
「会長に言われたから、やるだけです」
そう言って、頭を下げると自分の事務所へと入った。
無感情で何を考えているか分からない。そのくせ、判断力は組織幹部の誰よりも早く、的確な指示を下部組織に伝達する。
使えないと思えば、容赦無くその場で切り捨てる。かと思えば、長い懲役で帰ってきた者には手厚くもてなす。
ムチとアメを無意識に使いこなしていた。
そんな男なのだが、何故か人望はあった。
上も下も関係無く、男は人付き合いが良かったのだ。呼ばれればどんなに忙しくても、どんな下部組織の会合でも参加した。
「ほら、お高く留まってるなんて思われたくないし。それに、こういう場の雰囲気は好きですから」
と、答えたこともあった。
だが、そんな男にもやはり、敵はいた。
男の事を面白くないと思う者達は大勢いたのだ。
若くして会の№2という立場。
人望も金も権力もある。
そこで、持ち上がったのが暗殺計画。
実はこの計画は、男の耳に入っていた。にもかかわらず男はこの計画に乗ったのである。
その日、男はある取引の為に廃工場へと足を運んだ。
普通、若頭ならば、お供を多く連れてくるのに、一人だけしか連れていなかった。しかも、車から降りるとそのまま帰したのである。
そして、
「さぁ、俺一人だぞ? 殺る度胸が無い奴はこの場から去れ。俺と殺り合う器量のある奴だけ来い」
言うとズボンの後ろから拳銃を引き出し廃工場へと駆け込んだのである。慌てたのは計画を考えた連中だった。
一瞬の判断が命取りになる。
そんな殺り取りが始まった。
何人殺しただろう。スーツは返り血で赤く染まり、顔にも付いている。近くの物陰に隠れ肩で息をする。拳銃から空になった弾倉を抜き新しい弾倉を探す。
「あ、弾切れか」
拳銃を足元に転がし、懐からタバコを取り出してくわえた。
「ヘヘッ。人生最後の一服かもな」
口唇を釣り上げながら煙を吐き出す。
だんだんと足音が、死期とともに近づいてくる。
腰の後ろに隠していた小太刀を取り出して鞘から抜く。
鳳神会の会長から頂いた小太刀。
「面白かったような、そうでも無かったような・・・・・・」
タバコを吐き捨てると、刃を自分の喉元へ突き付けた。
「ここで人生終わらせるの?」
その声にハッとした。そして声が聞こえてきた方に視線を投げるとそこには、銀髪の女性がいた。
歳の位は10代半ばから20前半くらいに見えた。
「どうせ、死ぬなら私と来ない? そしてその頭脳を私の為に使いなさい」
言って手を差し伸べてきた。
「私の世界を統べる為に、私に仕えなさい」
男は一度視線を女性から外すと大声で笑った。
多分、産まれて初めてではないかという位、大笑いした。
「面白いな。いいぜ。アンタの狗になってやる。どんな世界か知らないが、そっちに行ってやるよ」
男は女性の手を握り、日本という世界からその痕跡を消したのだった。
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