3:誰もが逃げ出す大冒険? 05

「ま、そういうわけでその額さ。こっちとしても稼がせてもらったし、ありがとなー」

「こっちこそありがと。……あ、そうだ」

 ついさっきまで調べていた、ネメイエス第四惑星のことを思い出す。

「救世主とか言うなら、今あたしたちがどこにいるか知ってるでしょ?」

「ネメイエス星系だろ」

 打てば響くような答えが返ってきた。

「まだしばらくそこに居るのか?」

「それなんだけどね……」

 状況をかいつまんで話す。

「――っていうわけで、第四惑星に降りたんだけど」

「ちょっ! おまっ、あの呪われた星にかっ?!」

 情報屋の驚き方は尋常ではなかった。

「呪われた星って……何かあるの?」

「それは知らねぇ。けど呪われてるから絶対降りるなって、そこ有名なんだぞ」

「そうだったんだ」

 呪われているという言葉には、ある意味納得がいく。あんなふうに死体が放置されたまま捨てられた植民惑星など、そう言われても当然だ。

 だが、何かが引っかかる。

 理由はわからないけれど、呪われていて降りてはならない星。銀河系の正規のデータベースには、何の登録もない星。

 あまりにもいろいろ、おかしすぎないだろうか?

 ほんの少しの間考えて、エルヴィラは決めた。

「ねぇ、このネメイエス第四惑星のこと、洗いざらい調べてくれない? ちゃんと報酬は払うから」

「珍しいな、アンタがそんな依頼するのは。なんかあったのか?」

 問われてエルヴィラは、降りてみたところ死体が放置されていたことや、銀河系のデータベースに当たったが情報が一切ないことを話す。

「おかしいでしょ?」

「おかしいな。よっしゃ、受けるわこの仕事。あ、報酬はいいぜ。今教えてくれたことだけでも相当価値あるし、調べたこと自体は俺も知るわけだからな」

 言うが早いが、契約書が送られてきた。

「ありがとねー、助かる。何か他に分かったら教えようか?」

「そうしてくれたらありがたいな」

 そんな言葉を交わしながら互いにサインし、契約書をセンターに送った。これで成立だ。

「んじゃちょっと調べてくるわ、またな」

 言って情報屋が通信を切る。

 イノーラが不思議そうな声でつぶやいた。

「〝呪われた〟と言いながら、理由を知らないなんて。理由がなかったら、そんな話にならないでしょうに。そこに今まで、誰も気づかなかったんでしょうか?」

 エルヴィラにしてみれば「よくある話」でしかないが、全てに合理的な姪っ子からすると、かなり不可解なのだろう。

 いずれにしても説明しきれるものではないので、ちょっとひねった答え方をする。

「誰も気づかなかったから、こうなってるんじゃない? まぁ、その人に訊いてみなきゃ分かんないと思うな」

「それはそうですけど……」

 姪っ子はまだ不服らしいが、それでもそれ以上問うのをやめた。どこかの誰かが言ったことをここで考えても、無駄なことに気づいたのだろう。

「むしろあたしたちは、何をどうするか考えなきゃね」

「どういうことです?」

 イノーラが怪訝な声を返した。

「どういうことって、だから何をどうするかだってば」

「何をどうするかと言われても、そもそもどういう事象に対してかが分かりませんわ。そこが明確に定義されない限り、どうすると言われてもどうしようもありませんわよ」

 エルヴィラの地球人らしい言葉に対して、まるでコンピューターのような返答が来たうえ、更に続く。

「まったく、おばさまはいつもそのへんが、いい加減過ぎますわ。だから行き当たりばったりの行動が絶えないんです」

「はいはい分かった分かった、努力する」

 分かる気も努力する気も無いのだが、とりあえずエルヴィラはそう言った。そうでもしないと姪っ子のお説教(?)は、延々と続くのだ。

 エルヴィラは質問を変えてみた。

「イノーラ、あなたはさっきの〝呪われた〟って話、どう思う?」

「あの惑星の惨状がどこかですり替わって、呪われたという説明になったというのなら、一応理解できます。あまり論理的ではありませんが」

「けど、データベースにはないんだよね……」

 エルヴィラにしてみると、やはりそこが引っかかる。呪われたという言葉が口をついて出てくるほど有名なら、なぜその事件がデータベースに無いのだろう?

 それに現実的な答えを出したのは、イノーラだった。

「いずれにせよ、答えはこの惑星にあるんじゃありませんの? 少なくともここが発祥の地なのですから、回答の一端くらいはあると思いますけど。それに――」

 そこで姪っ子が一旦言葉を切り、多分そうとは知らず、エルヴィラにとって決定的な一言を口にした。

「あるとすればそれこそ、銀河政府がなんとしても隠したいほどの〝何か〟でしょうね」

「――!」

 それがあったと、エルヴィラは思う。むしろなぜ今まで気付かなかったのか、不思議なくらいだ。

 無かったのではなく、銀河政府が消した。それなら辻褄が合う。そして〝それ〟が何かは分からないが、少なくとも知られて困ること、ではあるだろう。そうでなければ、徹底的にデータを削除したりしない。

 さらに大きな権力がそういう行動に出るときは、何かのパワーバランスを著しく壊すものが関わっている、というのがよくある話だ。

 陰謀論とも言いたくなるが、火のないところに煙は立たない。そしてここは間違いなく、何かが起こった証拠だけはあるのだ。

「……調べるなら、どこがいいと思う?」

 姪っ子に訊いてみる。

 広い惑星をしらみ潰しにしていたら、一生かかったって終わらない。ならばある程度、絞るに限るだろう。

 案の定、的確な答えが返ってきた。

「建物の配置や構造を分析しましたが、とりあえずこの惑星では、この都市が最大です。そしてこの都市内では、中央の建物が行政府かその代行のようですわ。ですから、その辺りから調べるのがよろしいかと」

 正解とは限らないが、妥当な提案だ。

「じゃぁ次はそこ行くことにして、準備しよっか」

「何を準備すればいいのか、おばさまが分かってらっしゃるとは思えませんけどね」

 またもやの毒舌にエルヴィラは肩をすくめながら、用意をするために立ち上がった。

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