約束の約束
「……ええっ」
ヘーゼンから、言葉にもならないような声が漏れた。なぜ、バレているのか。演技がまずかったのか。それとも、カマをかけられているのか。どうしていいかわからず、どう返していいかわからない。そんな感情からでた声だった。
「お父さん……ごめんね。でも、ずっと前からそうじゃないかって思ってた。でも……怖くて、ずっと知らないフリしてたんだ」
「……」
確かに長期間、咳が出続けるのは神導病の兆候ではある。早く気づけば、治るという類のものではない。この病気にかかったら最後。だからこそ、リアナ自身、そうではないことを信じて生活をしてきたのだろう。
「……心配するな。私はヘーゼン=ハイムだぞ。こんな病気など、治してみせるさ」
リアナに言い聞かせるように、そして、自分自身に言い聞かせるように、そうつぶやいて、ヘーゼンは部屋を出て行った。
「アシュ……」
「……」
「ごめんね」
「……なんで、君が謝るんだ」
悪いのは君じゃない。悪いのは、世界だ。当然のように存在しているにもかかわらず、女の子の一つの病すら治せない。悪いのは、神だ。人に命を与えておきながら、哀しき死しか与えない。悪いのは……僕だ。誰よりも愛している君に……僕はなにもしてあげることができない。
「私はさ……きっと君と結婚するって思ってた」
「……」
「2年後くらいかな。君が学校を卒業して、不器用なプロポーズをしてくれて。嫌だ嫌だ言いながら、結婚式場選びとかも手伝ってくれて。嫌だ嫌だ言いながら結婚式をあげて、誓いの言葉も嫌そうに言って。娘ができて、お父さんが溺愛しちゃって毎日来るの。で、毎日アシュと口喧嘩して、たまに本気でバトルしてて。本当はアシュが可愛がりたいのに、お父さんのせいでできてなくて、むくれて、その光景を私がキッチンから見てて、苦笑いして……そんな未来が来ると思ってた……でも、ごめんね」
謝らないでくれ。
そんな哀しそうな表情しながら。
そんな悲しい言葉を言わないでくれ。
「……あり得ないな」
「え?」
「2年後に君にプロポーズ? 君にそれだけの魅力があるとでも? 言っておくが、全く僕にそんな気はないよ。断固、未来予想図の修正をお願いしたいね」
「な、な、なんですって!?」
「ハハハ……君が僕に釣り合うとでも? 僕に釣り合うにはもっともっと頑張らないといけないよ。そうだな……あと、少なくとも50年……いや、80年後だったら結婚を考えてもいい」
「……えっ?」
「それでもギリギリだな。僕はこれから神導病の治療法を発見して、大陸魔法協会最優秀賞を受賞する予定だから、モテモテだろうな。いくらでも魅力的な女性が寄ってくるだろうから、君も頑張って僕に見合う女性にならないといけないなまあ、それでも80年後だろうがね」
「……ぷっ……フフフフフフ、やっぱり、不器用。それじゃ、ヨボヨボのおばあちゃんになってからの結婚式じゃない」
「僕は年上が好きだから、なんの問題もないよ」
「フフフ……フフフフフフフ」
リアナは、笑顔を浮かべながら、瞳の近くに手を当てる。
「ククク……」
互いに笑い合い。
やがて、
闇魔法使いは、小指をリアナの前に出した。
「約束だ。きっと、君の病気を治してみせる。だから、本でも読みながら、まってなさい」
「……うん、約束」
嬉しそうに、リアナは小指を出して交差させる。
「なにも心配するな。僕が約束を破ったことがあったかい?」
「……それはたまにありましたけど」
「ぐっ……約束の約束だ。それは、破ったことがなかったろう?」
「フフフ……ええ、今回が初めてだからね」
「くっ……ああ言えばこう言うな! そう言うところだぞ!」
「ええ、言いますとも」
そんな軽口を交わした後、アシュは少し怒りながら部屋を出た。
数分後、ある一室の部屋に入る。
「……アシュか」
部屋の中で支度をしていたヘーゼンが振り向きもせずに、つぶやく。
「ヘーゼン先生……僕にも手伝わせてください」
「……ついてこい」
最強魔法使いの言葉は、深く深く響いた。
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