成績
開始4時間時点。
<<気高き 隠者に 天使の癒しを>>――
その低い声と共に、アシュは目を覚ました。起き上がると、ヘーゼンがニヤニヤしながら、治療魔法をかけていた。
「目覚めたかい? 虚弱君」
「……知性派と言ってください」
不機嫌そうに反論しながらも、その見事な
「まあ、楽しく見させてもらったよ。他の生徒たちも、まだまだ修行不足は否めなかったが、才能はあるな」
その言葉に全員が湧く。もともと、ヘーゼンが重視していたのは結果ではなかった。自身の命を危険に晒してでも、学びたいと言う志を持っているか。最初に問うた覚悟こそ、彼の最も重視したことであった。戦闘など二の次で、弱かろうが強かろうが、これから鍛えていけばいい。覚悟こそ、『才能』と彼は評する。
「……まあ、その上で敢えて順位をつけるとすれば、一位は我が娘のリアナということになってしまうかな」
最強魔法使いはそう答え、少し照れ臭そうに頭をかく。唯一、この戦闘で負けなかった美少女は、このクラスで唯一謙遜を口にする。
「私は、戦う機会がほとんどなかったから。運がよかっただけよ」
「それは違う。この戦いの結果は、普段の過ごし方に大きく依存していると言っていい。もちろん、日々の魔法修練はもちろんだが、その人間関係においてもな。ちょうど、もう一人のバカ弟子が集中砲火で狙われたように」
そう言いながら、ヘーゼンは流し目でアシュの方を見る。
「ふんっ! みんな蹴散らしてやったけどね」
「こうやって普段から性格が悪く過ごしている者は、いざという時に、敵が多い。敵を作らぬ生き方も、生存確率を上げる有効な方法であると、そこのバカ弟子以外の者は知っていた方がいい」
ヘーゼンの演説に、みな一様に頷く。
「さあ、堅苦しい話はここまでにして、ランチを食べに行こう」
「「「ワーーーーーッ」」」
生徒たちが一斉に歓声を上げる中、一人ぶつぶつと下を向いて、つぶやいている男子がいた。クリスト=リチャードである。すでに、彼の愛用する鉛筆はなく、爪が拳に食い込んで血がポタポタと地面に滴りおちている。
「僕は……負けてない……負けてない……あいつが……悪魔召喚を……」
「……」
いつまでも、その場に立ち尽くしているクリストを、ヘーゼンは注意深く観察していた。
*
本日の授業が終わり、ヘーゼン、アシュ、リアナは再び校庭に集まる。
「さーて、やるかぁ……弱っちい弟子を鍛えなきゃいけないからな」
肩を鳴らしながら、ヘーゼンが魔法の詠唱を始める。
<<未熟なる者への 枷を 解け>>――
「ふぅ……魔力をここまで封じられてなかったら、楽勝でしたよ」
不満げに闇魔法使いが唇を尖らす。
「まあ、そう言うな。バランスだよ。それに、魔力が凌駕された状態で、敵にどう立ち向かうのかが重要なんだ」
「……ゴホッ、ゴホッ」
「ん? どうした、リアナ」
「ごめんなさい、ちょっと体調が悪くて」
「……そうか。なら、そこで見学しているといい」
「僕の時とはえらい違いですね、甘やかしお父さん」
「お前と違って娘は仮病を使わないからな虚弱少年。では、行くぞ!」
<<冥府の業火よ 聖者を焼き尽くす 煉獄となれ>>ーー
火・闇の二属性魔法。当たれば影すら残らないほどの黒い爆炎が、アシュに向かって放たれる。
<<漆黒よ 果てなき闇よ 深淵の魂よ 集いて死の絶望を示せ>>ーー
アシュが放った自身最強の闇魔法で、間一髪、相殺。
「ほぉ……やるじゃないか。私の二属性魔法を相殺できる魔法使いは中々いないぞ」
「……はぁ、はぁ、逆に相殺できなかったら即死する魔法を一ミリの躊躇もせずに放たないで欲しいんですけどね」
「次は三属性いってみようか」
「人の話聞いてます!?」
<<<雹雪よ嵐となりて大地と――
「くっ……どS魔法使いがっ」
<<大地よ氷雪よ鋼鉄よ脅威を退く盾とならん>>ーー
アシュが対抗し三属性魔法壁を準備し……
――鋼鉄の力となれ>ーー
!?
「どあああああああああっ」
<<絶氷よ 幾重にも重り 味方を護れ>>ーー
魔法壁が破れるギリギリのところで、もう一重魔法壁を張り直すが、それすら破られて直撃を喰らう闇魔法使い。
バタッ。
・・・
「お、おい、大丈夫か?」
ヘーゼンが駆け寄ってすぐに治療魔法をかける。
「アシュ……生きてる?」
娘もツンツンしながら、生死確認をする。
ツンツン。
ツンツン。
しかし、アシュは一向に、起き上がらない。
・・・
数分後。
「この……どS魔法使い……三属性じゃないんですか!?」
かろうじて息を吹き返した闇魔法使いは、息絶え絶えに訴える。
「ふっ……フェイントだ」
「……」
バタッ。
その日、アシュが起き上がることはなかった。
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