戦い
30分間の自由時間が与えられ、各々生徒が散らばっていく。タッグを組む者、隠れる者、魔法の
ボッチ魔法使いはと言うと……
「アシュ……何やってんの?」
森林の奥で。なにやら地面に色々描いている。
「ああ! こっからは、入ってきちゃダメだぞ」
リアナから数メートル先を指差して、牽制する。
「な、なんでよ! あなた、絶対に的になるから私とタッグを組んでーー」
「組むわけないだろう! いいか、君と僕は敵だ。と言うか、足手まといだね。しっ、しっ……」
「むーっ……」
明らかに邪魔者扱いされ、膨れっ面を見せる亜麻色ロングの美少女。「ふーんだ、知らないんだからねっ」と可愛すぎる捨て台詞を残して、早足で去っていく。
「……」
数秒、その後ろ姿を見送りながらも、すぐに作業に戻る。
「フフ……フフフフ……フフフフフフフフフッ」
なにかを妄想しながら、手際よく罠を作っていく性悪魔法使いであった。
一方、クリストはグループを作り始める。リーダ=ロウとバズ=ルールー。彼らは実践魔法が得意な上位3人である。こんなに早くアシュを排除できる機会ができるとは思わなかったと、クリストは心の中で小躍りする。たとえ、殺しても罪には問われない。全くもって千載一遇。内心でほくそ笑みながら、仲間同士で偽りの絆を確かめ合うことに自由時間を費やした。
そして、もう1つの勢力。それは、クラスのカーストでも中の中。中堅の実力を持つ生徒たち。彼らは、そこそこの実力を持ち、何よりチームワークが得意。そうやって、今まで、この世知辛い世界を渡り歩いてきた。チームプレイこそ、我らの武器。1位になるのは1人だが、上位に残れば、この特別授業でいい成績を納めれば、もしかしたらヘーゼンの目に留まることができるかもしれない。そんな淡い期待を笑顔いた集団だった。彼らは、結託までが異常に早く、作戦を立てることに時間を費やす。天性の才能は少ないが、綿密に練られた行動をするのは大得意な彼らであった。
それぞれ思いを巡らして時間を過ごしている中、ひたすら逃げ惑っている生徒が1人。勤勉美少女のジルである。実践魔法は大の苦手で、どの集団グループにも入れなかった、いわば狩られる側。そんな絶望感を抱きながら、あてもなく森林を走る。
「はぁ……はぁ……もう、嫌っ……あああああああああああっ!」
突然、漆黒の縄が足元に巻きついて、雁字搦めにされる。
「くっ……まだ、30分経っていないと言うのに。誰だ、マヌケは……っと、ジルじゃないか」
林から出てきたのは、アシュだった。
「な、なんなのよこれは!?」
「フフフ……これは、
「と、とにかく! 早くこの縄を解いてよ」
「……はぁ。仕方がないな。まだ、時間まで3分あるし。あーあ、貴重な罠が無駄になってしまったじゃないか」
ブツブツとつぶやきながら、アシュがジルの縄を解き始めた時、
なにかを思いつき、不敵な笑みをうかべる。
「そうだ、ジル。もし、よければ僕と組まないかい? どーせ、開始のゴングがなれば、君など一瞬にして負けてしまうんだ」
「なっ……失礼ね……そんなこと……あるけど」
勤勉美少女は諦めたように、下を向く。
「それならば、僕と組んで上位になれる方がいいだろう? 1位は譲ってはやれないが、僕の言う通りにすれば2位にはなれるよ。いい提案だろう?」
「……」
確かに、今のままでは下位ベスト5は固いだろう。そんな成績を繰り返していけば、いずれ特別クラスから外される可能性も出てくる。しかし、目の前の性悪生徒を果たして信用してしまっていいものか。ジルはしばし、悩む。
「まあ、君がいなくても、僕は全然構わないが。仮に断ったとしたら、開始早々で君に魔法を喰らわせて終わりにさせてもらう。開始1秒で負けると言う伝説を作ってしまうね」
愉快そうに、アシュが笑う。
「ひ、卑怯よ! そんなの脅しで強制じゃない!?」
「どう捉えるかは君の自由だが。どうする? 開始1秒でやられるか。僕と組んで上位を目指すか?」
「う゛ーーーーーーーーーーーーっ……わかった! 組む。一緒に組む」
あきらめるようにジルが叫んだ時、遠くから、戦闘開始の合図が鳴った。
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