激闘


 このクラスには、特別授業と呼ばれるものが存在する。それこそが、ここが『特別クラス』と呼ばれる所以であり、誰もがそれを求めて厳しい選別試験を受ける。


 すなわち、特別教師ヘーゼン=ハイムの授業。


 校庭に集められた生徒たちは、皆一様に緊張感を持って直立不動である……アシュとリアナ以外は。


「全く……学校でもヘーゼン先生にシゴかれることになるとは」


「ごちゃごちゃ文句言わない。愚痴らない。悪態つかない」


 仲良さげな2人の言い合いを忌々しく眺めるクリスト。絶対に、ヘーゼンの前で無能を知らしめてやると固く誓うリベンジ生徒である。


 そんな中、突然、魔法陣が発生。校庭中を白い光で眩く照らし、生徒たちの視界を遮る。その光は数秒間続き、やがて止んだ頃には、魔法陣の場所にヘーゼンが立っていた。


「どうも、ヘーゼン=ハイムです」


            ・・・


 沈黙の後、爆発するような歓声があがる。突然、降って湧いたかのようにその場所から現れる。それは、完全な新魔法オリジナルでのド派手な入場シーンであり、魔法大好き生徒たちが沸かないわけがなかった。


「へ、ヘーゼン先生今のって空間転移魔法ですよね?」「いつこんな素晴らしい魔法を開発されたんですか?」「大陸魔法協会への申請と発表はいつですか?」「僕はこの特別クラスで授業を受けられることが誇りです」


 口々から漏れる賞賛の嵐を、こともなげに受け入れるヘーゼン。


「「……」」


 しかし、リアナとアシュは特に高揚するわけでもなく黙ったまま。、空間自体を移動したと見えるこの魔法。実は、ただ魔法陣を光らせて目を眩ませ、その隙にダッシュでその魔法陣に到着しただけのものだった。最強魔法使いという肩書きはフル活用され、2人以外には誰も気づくものはいない。


 ヘーゼン=ハイムの数ある宴会芸の1つである。


「さて、余興が終わったところで授業を始めようか……まだ、なにをやるかは決めてないんだが……そうだな……」


 最強魔法使いは、ニヤニヤ顔で生徒たちの前を歩き、様子をそれぞれ伺っていく。


「よし! 各々で戦って貰おう!」


 その瞬間、生徒たち全員に『!?』マークが浮かぶ


「10分間、みなそれぞれの位置に散らばって、各自敵を攻撃。仕留めたら、勝ち。手は組んでも構わないが、勝者は1人。どうだ、簡単だろう?」


 満面の笑みで提案をするヘーゼンに、おずおずと勤勉美少女のジルが手をあげる。


「あ、あの……やり過ぎて怪我をする心配はないですか?」


「ああ、死ぬかもね……でも、それで?」


 !?


「それで……って!」


「ああ、言葉足らずであったかな。怪我をした生徒は私が治療してあげよう。なーに、重傷でも一瞬で治す自信はあるよ。だから、即死しないように気をつけなさい」


 こともなげに、淡々と、話していく最強魔法使い。


「あの……即死したらどうするんですか?」


「死ぬね」


「た、助からないんですか?」


「死者を生き返らせる魔法は今のところ存在していない」


「……」


「まあ、授業中の事故として処理されるので、補償は出るよ。もちろん、私からもいくらか包ませてもらうし」


 そ、そういう問題じゃーーと生徒たちは一斉に思った。


「まあ、やってみればわかるが、即死させるってのは以外と難しいものだ。みんな、それぞれ、保有している魔力があるからね。0.1%にも満たない確率だよ」


「……その0.1%に入ってしまったら」


 生徒の1人がボソッと口にした。


「強制はしないよ、嫌ならば、帰ればいい。お疲れ様……しかし、0.1%のリスクすらも負えないで、大成した傑物を私はかつて知らないな。そんな臆病者には、特別クラスなどではなく、平々凡々に暮らしていくことをお勧めするよ」


「「……」」


 ヘーゼンの言葉に誰も返すものはいない。


「沈黙は回答とみなすよ? 黙って乗り切ろうなどと、愚者の振る舞いだ。今後も即死の可能性は上がっていく。卒業試験では……1%ぐらいは死ぬ試験を作っておこうかね。5分やろう。この特別クラスから去りたい者は、この場から去りなさい」


 重苦しいその発言に、生徒たちは一様に顔を見渡す。


            ・・・


 5分たち。数人の生徒が立ち去ったところで。


「さあ、やろうか」




 特別授業は開始された。



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