第57話 面接

中会議室では、須藤に聞いていた通りのメンバーが面接官でした。社長、柴統括部長、人事部長、須藤と山村課長が横並びに座っていました。


彼らと向かい合わせになるように椅子がひとつ置かれていて、そこへ座るように人事の宮沢部長に促されました。


確かに少しは緊張しましたが、もともと見知った顔であることや、つい先ほども面接官の方達と言葉を交わしていたこともあり、改まった状態が少し照れ臭いような気もしました。


提出していた履歴書を眺めながら、宮沢部長が質問しました。趣味に関する部分で、英語の勉強が楽しみのひとつであると書いていました。実際にどの程度話せるのかと尋ねられましたが、独学がメインで実践経験は乏しいことを伝えました。


須藤から営業職への志望動機を尋ねられました。最初から積極的に営業職を志望したわけではなかったので、もっともらしい受け答えを考えるのはたやすくありませんでしたが、須藤から聞いていた営業という仕事の魅力的な部分や、この会社で社員として働きたいという思いを率直に伝えました。


山村課長からは実際の営業活動、営業事務に関する仕事内容を伝えられた上で問題はないかと確認され、人事の宮沢部長からは社員になった場合の土日出勤の当番制に関する事項などを確認されました。いずれも問題ないと答えました。


面接の後半になると、柴統括部長や社長からは、雑談に近い内容の質問や、励ましの言葉を頂いて全体的には終始和やかな時間でした。既に勤めている会社内であるため、少しもぴりぴりすることもなく面接を終えることができました。


午前中のうちに試験はすべて終了しました。自分の部署に戻ると、斉藤課長や他の同僚の方達から試験の様子を尋ねられました。結果はわからないものの、ベストを尽くしたつもりだと伝えました。実際のところはまず落ちることはないだろうと思っていました。


その後の展開は早いものでした。その日の夕方には、斉藤課長から試験に合格したことを口頭で伝えられました。書面での通知はまだ先になるとのことでしたが、翌日から業務の引継ぎを進めるように言われました。


その日から、日々がめまぐるしく感じられました。自分が正社員になれることをかみしめる間もなく、これまでの部署や須藤の部署、人事部の方との調整事項が多くなりました。


統括部長と人事部長、須藤を交えた昼食や飲みの席に呼び出されるようにもなりました。最初はどのような場なのかといぶかしく思いましたが、ごく普通の仕事の話や雑談をするコミュニケーション目的の飲み会でした。これまで接点の少なかった柴統括部長や宮沢部長との距離感が少し近づいたように感じられました。


須藤からは、同じ部署で働くことになる他の営業社員の方達や事務の方との食事の席に頻繁に誘われました。須藤は人数が多くなりすぎない形で少しずつ他の方と私を交流させてくれました。異動した後の関係がスムーズになるように気遣ってくれていたのだと思います。


須藤のはからいは率直に有り難いものでした。事前に食事等の席で言葉を交わす機会があったことは、何もなく他の部署に入って行くよりも緊張の度合いがまるで異なったはずだと感じました。


この時期、それまでの日常とは、明らかに変化しつつある時間を過ごすようになっていました。

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