第54話 激励

ユリちゃん


こんばんは。このところ仕事が忙しく、ユリちゃんの顔が見られず残念に思っていました。ユリちゃんは元気に過ごしていましたか。


明日はとうとう試験ですね。ユリちゃんは緊張などしていないかも知れませんね。結局試験を受ける人はユリちゃんだけですから、緊迫した雰囲気にはならないでしょう。ユリちゃんは勉強も頑張っていたようですから、存分に力を発揮できるはずです。


明日は面接でお会いできますね。こちらも全く緊張する必要はありません。ユリちゃんの採用は既に決まっていて、ごく形式だけなのです。私と、山村課長、社長と統括部長、人事部長が面接官になります。初めて会う人もいませんし、ごく軽いおしゃべり程度の気持ちで十分です。ユリちゃんに圧迫面接をする人はいないので安心して下さい。


体調だけは十分に気を付けて。明日は元気に出社して下さい。

お会いできるのを楽しみにしています。



須藤 裕司



須藤のメールを読み終えると、私は心から安堵しました。彼に避けられていたわけではなかったと知ってほっとしました。あるいは、実際に私を避けていたのかも知れませんが、安心して試験を受けられるよう、わざわざメールを送ってくれたのだと思いました。


彼の文章は丁寧で優しく、私の心を落ち着かせてくれました。嬉しくなって、早速彼に返信しました。



須藤部長


こんばんは。メールをありがとうございます。


ご連絡いただけてとても安心しました。実は、明日は本当にどうなるのか、不安な気持ちになっていました。会社で須藤部長のことを見かけなかったので、やや心細い気持ちになっていました。


お仕事忙しくされていたんですね。営業まわりとはどのような感じなのか、未知の世界で怖いような気もしますが、私もいずれ経験するのでしょうね。きっとひどく緊張すると思います。


明日の試験も、特に面接はどうしたら良いのかと途方にくれていましたが、面接官の方達について教えて下さってありがとうございます。須藤部長と山村課長はよく話す機会があるので緊張せずに済みそうです。他は偉い方ばかりですが、社長も統括部長も怖い方ではありませんし、人事の宮沢部長もとても優しい方ですから、ひとまず安心しました。そうですね、皆さんが圧迫面接をするようなイメージはありませんね。


おかげさまで、落ち着いて試験を受けられそうです。でも油断はいけませんね。真剣に臨むつもりです。


これまでのすべてのことに、感謝しています。

本当に社員になれたら、どんなにありがたいことでしょうか。

感謝してもしきれません。


いつも本当にありがとうございます。

大変お世話おかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。


夜分にすみませんでした。

ゆっくりお休みください。失礼いたします。



桜井 優理香



私はもう、彼に偽りのメールを書いてはいませんでした。彼に伝えた感謝の気持ちに少しの嘘もありませんでした。彼と私が近しく接触するきっかけについては複雑でしたが、過去のことでした。あの件がなかったとしたら私が正社員になるチャンスは、ないままだったかもしれません。


苦しい時もありましたが、社員になれるのならば報われると思いました。須藤は私のために力を尽くしてくれたと感じていました。


そして、彼の気持ちにこたえることのできない自分を歯がゆく感じ始めていました。彼がしてくれることに対して、何も返せないことを心苦しく思い始めていたのです。


仕方のないことでした。ですが心のどこかで、もどかしい思いを抱えていました。

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