第50話 尋問

「優理香、その慌てぶりから察するに・・・その部長とはそれなりな関係ということなの?」


沙也は追及の手を緩めはしませんでした。昔から、おっとりしている割には、妙に鋭いところがありました。


「違うよ・・・そんな変な関係じゃないし。」

そう答えながらも、つい目を逸らしてしまいました。


「怪しいな~、変な関係でもないのなら、携帯見せてよ。」

薄く笑いながら、楽しむように彼女は言いました。かなり分が悪いのを自覚していました。私は観念しました。


「それは勘弁して・・・でもほんとに、怪しい関係ってわけじゃないの。時々運転を教えてもらっていてね。営業社員になるなら必要だからって。」


苦肉の策として、一部の事実を伝えることにしました。


「運転の・・・練習?」

沙也は訝しげに繰り返しました。


「それって、その人の車で、ってこと?」

確認され、うん、まあそうだけど、と小声で答えました。


「でも、それだけじゃないんでしょう?運転の練習をして、それから?」

彼女は容赦なく尋ねてきました。


ああ、やはり不自然だったかと思いました。いい加減にぼかして言おうとしたところで、許してくれる相手ではありませんでした。沙也は優しい微笑みを浮かべながら、尋問を続けるのでした。


私はとうとう面倒になってしまい、最初の須藤とのトラブル以外についてはある程度の話を伝えました。彼女の質問に答えながら、運転の練習をしつつ、カフェや食事に出かけていたこと。彼は私に好意があること。プレゼントをもらったことなどは沙也の知るところとなりました。


興味深げに話を聞き終えると、沙也はなるほどね・・・と言いながら合点のいった顔になりました。


「優理香ってば、そんな風におじさんを弄んでいたなんて。お姉さんは悲しい。」

悲しそうな素振りは微塵もなく、いくぶん演技がかった風に沙也は言いました。


「えっ、私が悪いの?だってあの人がなんだかんだ理由をつけて引っ張り出すんだよ。私は100%受け身なんだけど。」


自己弁護しつつも、後ろめたい気持ちがないわけではありませんでした。


「そう言えば、もらったプレゼントというのはどういう物なの?見せて。」


沙也に請求され、私はアクセサリーの箱を取りに行きました。もう彼女にごまかす気力は残っていませんでした。沙也に手渡すと、彼女は箱を開きました。


「えっ、可愛い・・・優理香にすごく似合いそうだね。センスいいじゃない。」


沙也はアクセサリーと私を見比べながら、感心したように呟きました。


「そして高そう・・・これはもう、そのおじさん本気でしょ?どうするの、この貢物?」

悪戯っぽい表情で、笑顔は崩さぬままに、沙也はちくちくと責めるのでした。


「そうだよね・・・返そうとは思ったんだけど、うまくいかなくて・・・それに正直、すごく気に入ってるの。」


私は白状してしまいました。須藤のくれたホワイトオパールをもう手放したくはありませんでした。


「なんか、いま可愛い顔になった!優理香、ほんとはその人のこと好きなんじゃないの?」

急に沙也は強い調子で言いました。彼女の思わぬ指摘に私はうろたえました。


「違う!このイヤリングとネックレスが好きなの!食事に行くのも、いつも美味しいお店に連れて行ってくれるから釣られちゃうだけで。須藤部長のことが好きってわけじゃない。」


全力で否定しました。私があの人を好きなわけではない。どんなに須藤が一方的に私を愛そうとも、私は一方的に彼から巻き上げるという関係で十分でした。


「優理香、いつからそんなに悪い子になったの?お姉さん、ちょっと心配だな・・・」


口調はふざけていましたが、沙也はいつになくしんみりと呟きました。彼女は本当に心配しているかもしれないと感じました。


大丈夫。うまくやるから。

私は心の中で返事をしました。

あんな人、都合よくあしらってしまえば良いのだから。

そう心に決めていました。

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