第40話 思惑

「次はあの信号で左。その先、郵便局が見えるからその手前で右折だよ。」


須藤の案内ですでに数十分以上走っていました。比較的走りやすく、他の車が少なく思われるコースでした。元々市内の道をよく知っているのか、あるいは下調べしてくれていたのかは謎でした。


「今度は左へ行って、坂を上がって。もうすぐだよ。」


この日は市内を走っていましたが、南区のはずれの方まで来ていました。どこへ向かっているのかはわかりませんでした。


「はい、そこを左。駐車場だよ。バックで入れられるかい?」

着いたのは、重厚な外観の建物でした。


「よくここまで頑張ったね。駐車も上手くなった。お昼にしようか。」

須藤は笑顔になり、車から降りるよう促しました。


「ここはどこなんですか?カフェでしょうか?」


カフェと呼ぶには大きすぎる、美しくて豪華な佇まいでした。ヨーロッパのどこかの国に存在していそうな、プチホテルのようにも見えました。


「カフェと言うよりはレストランかな。結婚式場も兼ねていて、レストランウェディングなどもやっているそうだよ。フランス料理は好き?」


もちろん大好きでした。建物が素敵で、しばらく見とれていました。


「さあ、行こう。」


須藤は私の手を掴んで歩き出しました。私は一瞬戸惑いましたが、拒否はしませんでした。重々しい扉のそばまで来た時、そっと彼の手を放しました。


中に入り、須藤は予約名を告げました。エントランスから少し歩き、広いホール内のテーブルまで案内されました。開放感があり、華やかに美しく整えられていました。女性の好みそうな雰囲気で、確かに素敵なお店でした。


「本当に、素敵なところですね。こんな所にレストランがあるなんて。須藤部長はいろんなお店に詳しいですね。」


そう伝えると、須藤は嬉しそうに言いました。


「俺も詳しいというわけじゃないけど、グルメな友達に教えてもらってね。一度下見がてらに来たら美味しかったから、ユリちゃんを連れてきたいと思ったんだよ。ユリちゃんはこういう場所が似合うね。」


須藤は満足げに私を眺めて言いました。恥ずかしいような、でも少し嬉しい気持ちにもなりました。


「大抵の女性はこういうお店が好きだと思います。須藤部長は慣れていらっしゃいますね。」


正直なところ、会うほどに須藤は女性慣れしているように感じていました。


「そういうわけじゃないよ。こういう所に詳しくないと、ユリちゃんと付き合えないと思って。今必死で勉強中なんだよ。」


私のために努力していると彼はアピールしましたが、付き合うというのは男女としてなのか、友人としてなのか、どちらに取ることもできました。勿論どちらの意味だったのかはわかっていましたが。


はっきりと拒絶もせず、彼を利用できるならば最大限しようと、曖昧な態度を続けてきました。ですがそろそろ、きちんと話さなければならない気がしていました。いくら彼が私に好意を寄せようとも、不倫などは望んでいないことを。なるべく早いうちに、はっきりと告げるべきだったのでしょうか。


ですがこれから私を正社員にしようとしている彼に、この時どう伝えることができたでしょう?私は常套手段である、彼の気持ちを知りつつも核心には触れないという姿勢を続けるしかありませんでした。


その一方で、こんな事を続けていたら、支払いのつけが後から大きくなりかねないという恐れも抱いていました。

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