第30話 旧友2

「大丈夫。そうだね、貴之は選択ミスだったかな。告白してくれた人なんてほとんどいなかったけど。誰かよくわからないけど、ちゃんと言ってくれたら良かったのに。」


そうは言ったものの、学生時代、気になる人などいた試しがありませんでした。沙也の言うように、私の恋愛時代と言えば、元夫の貴之のことしか見ていませんでした。我ながら若かったと思います。


「話は戻るけど、その部長っていう人は、優理香に言い寄ってるの?結婚してる?セクハラされそうなの?」


沙也から質問攻めにされ吹き出してしまいました。

「なんで楽しそうなの?私がセクハラされてもいいの?」


「うん、家にいると刺激ないからね。赤ちゃんが産まれたら別だろうけど。独身の女性社員優理香とエロ上司の攻防戦・・・楽しそうじゃない?」

沙也はいたずらっぽく笑いました。


須藤が私に言い寄っているかと言えば、はっきりと言われているわけではありませんでした。ですが決定的な出来事もありましたから、さすがに彼の気持ちに気付かないわけにはいきませんでした。


「すごく年上の人なの。20歳ぐらい上だよ。結婚もしてる。いい人だけど・・・セクハラは困るよね。」


「20歳も上ならおじさんだね。見た目はどんな人?かっこいいならいいけど・・・ハゲてて、太ってて、エロそうで、そのうえ臭いとか?じゃなくて?」


沙也は楽しそうでした。真面目に話すときもありますが、すぐに茶化してくるようなところがありました。


「なにそれ・・・?そういう人に私がセクハラされたら面白いの?幸いどれにも当てはまらないかな。髪もあるし、太ってもいないし臭くもないけど?どちらかというと痩せてるかな?見た目は悪くない気がするけど、特に好みのタイプと思ったことはないよ。」


須藤のルックスは同じような年齢層の男性たちよりはスマートだったかもしれません。ですが年齢差もありましたから、かつては男性として意識などしていませんでした。


「まあ、正社員になれるならなったらいいじゃない。それで合わなければ転職活動すればいいんじゃない?今の会社が気に入ってて、興味ある求人もないなら、今すぐ就職活動しなくてもね。」


沙也はあっさりと言いましたが、そういう考えもあるのかと思いました。確かに今すぐ事務職に絞って正職員の口を探すのも、今の会社の営業職を試してからにするのも、就職活動をする手間は同じでした。


「でもね、結婚してる人と付き合ったりしちゃダメよ。いくら言い寄られたりしても、そういう関係になっちゃったら、優理香の方が悪者にされたり、奥さんから訴えられる可能性もあるからね。優理香だったらちゃんとした独身の人とも出会えると思うし。」


ふざけていたと思ったら、沙也は真面目に話し出しました。急な変化にまた吹き出しそうになりました。


「やっとまともな事言ったね。私も不倫なんてごめんだな。結婚してるくせに言い寄ってきたりしたら、期待させるだけさせて、振り回した挙句、スルーしようかな。」

私は須藤を思い浮かべながら言いました。


「えっ、それもどうなの・・・?優理香ってそういう事するの?なんか昔とイメージ違うけど・・・」

沙也は意外そうな顔をしました。


「ううん、例えばの話。浮気する人って嫌だから。もし近づいてきたらやっつけようと思って。」


須藤が邪な気持ちを抱いているなら、利用するだけさせてもらおうと思っていました。


「そっか、そうなんだ。嫌な思いしてたもんね。あの頃の優理香、辛そうだったけど・・・今は元気そうだから。別れて良かったと思うよ。」


沙也は思い出すような表情になり、いたわるように私を見ました。


「結婚にも男にも凝りたから。仕事と収入さえちゃんとあればね。後は自由に生きていけたらいいんだけど。やっぱり独身ってラクだなと思って。夫の世話を焼いたり、機嫌を取るのはもうたくさん。」


貴之との結婚生活を思い出し、苦々しい気持ちになりました。


「ん・・・男の人がみんな貴之先輩みたいとは限らないけどね。でも今はそういう気持ちなんだね。」


結婚している沙也にとってはもちろん別な意見なのでしょうが、彼女は考えを押し付けたり、上から目線で何か言うような子ではありませんでした。そういう人柄だからこそ、私も彼女にはあれこれと吐き出すことができました。


「沙也は幸せそうだね。淳也さんともうまく行ってるみたいだし。人それぞれとは思うけど、どの道を選んだとしても順風満帆な人もいるからね。子供も産まれるし・・・沙也はどんなママになるんだろうね。」


「これでも、不安でいっぱいなんだよ。でも、そうだな・・・赤ちゃんに会えるのは楽しみだよ。」


沙也は自分のお腹を撫でながら言いました。彼女なら、良い母になれるに違いないと容易く想像できました。

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