第27話 公園
土地勘がないので須藤がどちらへ向かっているのか見当もつきませんでした。一瞬不安になりましたが、例の件以来、須藤はごく紳士的に接してきてくれましたから、疑わずにいようと思いました。この日も私の言ったことを尊重して、夕方までに戻ろうとしてくれていましたから。
それにしても車はどちらかと言えば閑散とした方向へ向かっている気がしました。メインストリートから遠ざかり、だんだんと建物や人通りの少ない方面へ来ているように思えました。いぶかしんでいると、これといった特徴のない、やや広いだけの公園のそばへ来ました。
「このへんが良いかもしれない。」
そう言いながら須藤は車を停めました。公園としては大きすぎず、小さすぎるわけでもなく、少しの遊具がありました。周辺に家がまばらにあり、良く言えば解放感があり、悪く言えば淋しい雰囲気の場所でした。
なぜ須藤がこのような公園に来たがったのか不思議でしたが、私を見ると、悪戯っぽい表情になりました。
「ユリちゃん、ここは車も人通りも少ないから、ちょっとだけ運転の練習をしてみないか。」
思いがけない彼の言葉に驚いてしまって、すぐに返事ができませんでした。
「そんな・・・練習って、この車でということですか?そんなの無理です。何かあったら困ります。ぶつけたりしたら大変です!」
私は焦って言いました。軽自動車すら運転したこともないのに、車種はわかりませんでしたが、明らかに高級そうな、それでいて大きめの彼の車を運転しろなどと言われてパニックになりそうでした。
須藤は慌てている私を、むしろ楽しそうに見つめました。
「そんなに大げさに考えなくて大丈夫。アクセルを踏めば動いて、ブレーキを踏めば止まるだけだよ。免許は持っているんだよね?」
簡単そうに言われても、抵抗感でいっぱいでした。
「あるにはありますけど、本当に辛うじて免許を取っただけで、まともに運転したことがないんです。もう全て忘れてしまいました。何をどうして良いのかまったくわからないんです。」
「ユリちゃん、そんな顔しないで。普通の路上ってわけじゃないんだから。ここは車も人もあまりいないから、この公園の周りをぐるぐる回ってみるだけでも最初の練習としては良いんじゃないかな。まずはその苦手意識をなんとかした方がいい。」
助手席に座ったまま、私は途方にくれてしまいました。
「5分でも、10分でもいいから、まずは車を走らせてみたらどうかな。思っているほど難しいことじゃないと思うよ。ユリちゃんが練習するまでは俺も運転しない。このまま帰れなくても俺は構わないけど、いいかい?」
いくぶん挑発するような口ぶりにしてやられたと思いましたが、私は決意しました。
「そこまで言うのでしたらやってみます。この車がどうなっても私のせいにしないで下さいね。」
私は助手席のドアを開けて外に出ました。彼も運転席から外に出ながら、お手柔らかにね、とつぶやきました。少し申し訳なさそうな顔をしつつも余裕の笑みを浮かべていました。
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