第16話 再会

遅くなってすみません。近くにいましたが、なかなか勇気が出ませんでした。これから向かいます、と返信をしました。


公園まで、のろのろと歩きました。頭がぼんやりして、なぜそこへ向かっているのかもよくわかりませんでした。なぜわざわざあの人に会おうとするのか。会ってどうなるのか。怖くて不安でたまらないのをお酒でごまかしてまで、なぜ行かなくてはならないのか。


公園の中を少し歩くと、ベンチに座っている彼を見つけました。私の足は止まり、また体が凍りつくような、それでいて血が逆流するような感覚に身を締め付けられました。逃げ出したくても、体が動きませんでした。

須藤の目が私をとらえた時、気が遠くなりました。また記憶をなくすのだろうかという不安がよぎりました。必死で自分を保とうと努めていました。


彼がゆっくりと歩み寄ってくるのをどうすることもできませんでした。私は何も言えず、顔を覆ってその場にしゃがみ込みました。彼を直視することができませんでした。


大丈夫ですか、そこのベンチに座ることはできますか、と彼は言いました。彼が私に近づき起こそうとしたので、すぐに自分で立ち上がりベンチへ行きました。彼の顔を見ることができませんでした。


私達は座って、しばらく気づまりなだけの時間が過ぎていました。彼も私も、何も言い出せないのです。やはりメールとは違いました。私はメールでは聞こえの良い言葉を並べることができましたが、実際に彼を前にすると身がすくんでどうすることもできませんでした。


「こちらを見てもらえませんか。」


沈黙を破ったのは須藤でした。なんとも酷な、容赦ない申し出でした。

私は彼へ顔を向けると、激しい怒りとやりきれなさで全身がいっぱいになりました。


「あんなことは嫌でした。すごく恥ずかしかった。やっぱり須藤部長を憎んでいます。」


正直に口にすると、涙があふれ、声が震えました。私はそのままあの日まで戻されてしまいました。恥ずかしくて、苦しくて、誰にも言えなくて、自分を責めることしかできなかったあの日に。どうか許して、助けて下さいと神様へすがりついた日に。私は顔を覆いました。やはり彼になど会いたくありませんでした。


「辱めようとしたわけじゃない。愛したかった。こんな風に傷つけるつもりはなかった。」

低くて暗い彼の声が聞こえました。彼のやりきれない思いも伝わってきました。

私はどのぐらいの時間泣いていたのかよくわかりませんでした。気付けば彼も泣いていたようでした。


「俺にできることがあったら言って下さい。ユリちゃんをこんな風にしてしまって後悔しています。もっと俺を責めて、憎んでくれたらいい。殴られたってかまわない。」

弱々しく、沈んだ声でした。彼などまるで無力のように思えました。


殴ることなど望んでいませんでした。私は彼に死んで欲しいと願っていたのですから。ですがいつしか私は、彼に対して別の気持ちも抱き始めていました。これまで彼と連絡を取り続けていたのも、私達の間にあるつながりが芽生えていたからです。心の底から彼を憎み切れない自分に気付いていました。


「明日また、同じ時間にここに来て下さい。」

私は彼に命じました。


「今日はお酒を飲んでから来ました。そうじゃなければ来られませんでした。明日は飲まずに来たいと思っています。泣いたりせずに会えるようになりたいです。」


私はとうとう彼の顔を見ました。もうこの人を怖れたくないと思いました。

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