第8話 返信

それほどの時間を置かず、彼から返信が来ました。そのメールを見るのに、恐ろしい緊張と恐怖に耐えねばなりませんでした。


彼の返信は私の想像とは少し違っていました。彼は私のことをとても心配していたと言うのです。私が思い詰めて間違ったことをするのではないか、私が自殺したりしたら自分はどうすれば良いのか本当に怖かった。メールをくれてすごく安心した、というような内容でした。


私は少し、妙な印象を抱きました。私にとって須藤は、優しい顔をして近づき、安心させ、突然豹変し無残に私を犯した悪魔のような男でした。警戒もせず、のこのこと言われるままについて行って、みすみす乱暴されてしまうような、どうしようもなく愚かで救いようのない女だと嘲っているに違いないと思っていました。


そんな男が私のことを心配していたなどと。犯した相手のことをよくそんな風に言えたものです。こんな男の言うことなど、嘘ばかりなのだろうと思いつつ、私は彼にさらにメールを送りました。


また、間もなく返信が来ました。その内容は、私を馬鹿にしたり、あざ笑うようなことは書かれていなかったものの、私の心情を大いに逆なでするものでした。


あんなことになって後悔しています。とても後味の悪い思いをしました。ユリちゃんに嫌われてしまったと思いました。酒を飲んでいたせいか、強引な事をしてしまった。もっと時間をかけるべきでした。互いの気持ちがそうなってからにすれば良かった。私は焦って間違いを犯してしまいました。


このような内容でした。この人は何を勘違いしているのだろうと思いました。時間をかけるべきだったとか、互いの気持ちがそうなって、とか、時間さえかければ私が彼に惹かれるとでも思っているようなところがあまりにも不快でした。


私は彼のことを男性として意識したことなどなかったのに。優しい人だと思って慕っていたのに、そんな勘違いをして襲うなんて。こちらは嫌いになった、どころか、憎しみでいっぱいなのです。彼に死んでもらいたいほどに。


半ば逆上しながら再び彼に返信しました。時間をかけるとか、かけないの問題ではないし、彼は結婚しているのだし、他の女性に関心を向けるべきでもないという風なことを書きました。すると次に彼からきたメールは、彼の怒りを感じ取れるものでした。


私は少し冷静になりました。私が怒って彼を責めるだけでは、互いに傷つけ合うばかりになりかねない。自分の怒りは抑えて、彼の心情や行動を振り返って探らなければ、私は何も学べない。だから私は時間を置いて、なるべく下手に出て彼にメールを送りました。できるだけ彼を責める言葉や表現を使わずに、ただ原因を知りたい。なぜ起きてしまったのか、きちんと向き合いたいと伝えました。


あんなことは望んでいませんでした。でも何故そうなったのですか?須藤部長が望んでいたとしたら、いつ、そんな気持ちになってしまったのですか?結婚もされていて、お子さんもいらっしゃるのに。男性のことがわからないので、教えて下さい。


そのような返信をしました。私はすごく勇気を出して、起きたことに対して、前向きに取り組んだつもりです。裏切られ、ショックを受けて、ただ泣いて後悔して過ごすよりも、悪かった点を学び改めるなら今回のことは無駄にはならない。したたかであろうが、悔しまぎれで半ばやけになりながらであろうが、立ち上がろうと心に決めました。


でもそんな私の行動によって、さらなる闇を突きつけられることになりました。須藤と連絡を取ることはやはり危険だったのです。私はこの後、さらに深い闇の底へ突き落されることになります。


次の須藤の返信は、非常に長い文章でした。この耐え難い出来事を乗り越え、前向きになろうとしていた私の心を打ち砕くほどの破壊力がありました。彼の語ったことによって、私の内側で何かが壊れてしまいました。恐ろしくも彼は、すでにぼろぼろになっていた私を、さらに容赦なく襲ってきたのです。

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