第6話 婦人科

その日は会社を休みました。電話をするのもやっとでした。家にいると後悔に襲われるばかりでした。なぜ須藤はあのような野蛮な行為ができたのか、そしてなんと自分は浅はかで愚かであったか、自分とあの男を責めては涙にくれるばかりの時間でした。


絶対に許さない。あの男を殺してやりたい。待ち伏せをして後ろから刺してしまいたい。どす黒い憎しみが体中を駆け巡っていました。


その日、病院へ向かいました。婦人科です。こういった被害にあった後、行くべき場所だという認識がありました。外出するのは辛かったのですが、これ以上望まない展開にしたくはありませんでした。


行きつけの病院はありませんでした。自宅から少し遠い病院を調べて出向きました。泣き腫らした、やつれた顔をしているのを周りの人に気付かれないかとびくびくしていました。待合室で問診票を渡されました。診療の目的を書く欄がありましたが、何も書くことができませんでした。


名前が呼ばれ、先生と看護師さんのいる診察室へ入りました。

先生は淡々とした様子でどうされましたか、と尋ねました。

私は迷いましたが、勇気をだして口にしました。


「実は、問診票には書かなかったのですが、昨日、乱暴されました。妊娠していないかとか、病気とか、心配で・・・」


言葉に出してしまうと、もう抑えることができませんでした。声が震え、それ以上話せませんでした。家でたくさん泣いたはずなのにまだ涙は枯れておらず、溢れて止まらないのでした。


そうでしたか、と先生は答えました。

「妊娠と性病の検査をしましょう。警察へ届ければ、検査や緊急避妊用のピルを服用するための費用を負担してもらえますが、どうなさいますか?被害届を出しますか?」

そう尋ねられましたが、私は断りました。警察になど行きたくはありませんでした。これ以上、私が犯されたことを他人に知られるのは耐えられませんでした。


「わかりました。検査をして、ピルを処方します。検査の結果はこちらに来ていただかなくても結構です。約1週間後、電話を下されば結果をお知らせします。それで終了です。」


先生は、終始淡々と話して下さいました。それがどんなに有り難かったことでしょう。あの場で先生や、看護師さんに慰められでもしたら、憐れみをかけられたりしたら、私はもうどうしようもないほどに泣き崩れ打ちひしがれたことでしょう。ですが、それで終了です、という言葉に希望を見出しました。


この苦しさも、悲しみも、恥ずかしさも、終わる。この絶望とやりきれなさがすぐに終わるはずもないのですが、少しだけ救われるような思いがしました。

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