おのころ島の三々九度

@AL_chan

第1話おのころ島の三々九度

○おのころ村・外観(朝)

   木々の茂る小さな小島が入江に浮かんでいる。

   入江の淵に小規模な村が見える。

   村は十数件の住宅が寄せ集まっている。

   住宅はいずれも竪穴式住居であり古代の雰囲気を醸し出す。

   村の奥に高床式の住居が見える。


○首長の家(朝)

   高床式の家は広い板の間。奥には布の仕切りがある。

   仕切りの向こうに着飾った少女・ナミ(14)が、物憂げな表情で座っている。

   窓の縁に二羽のつがいのセキレイがやってくる。

   気づいたナミが食膳から米を手に取り、セキレイへと差し出す。

   セキレイがナミの掌に乗り、ご飯をついばむ。

   食膳には米や魚が手つかずで残されている。

   突如、家に入ってくる慌ただしい足音。

   ナミの傍らの、水の満たされた器が振動で揺れている。

   驚いたセキレイが飛び立つ。

   布の仕切りを割って、首長(36)が入ってくる。

首長「ナミ、とうとう来たぞ!」

   ナミ、ジッと首長の目を見つめる。

首長「それでは、粗相のないようにな」

   と立ち去る。

   ナミ、水の器に映った自分の浮かない顔を眺める。


○おのころ村・港(朝)

   村中から村民たちが集まっている。

   波止場に停まる小舟から漁師が岸に乗り上げる。

   大きな波がやってきて小舟が揺れる。漁師がふらつく。

   入江の向こうから巨大な船がやってくる。

   漁師は魚籠を落とし、逃げるように立ち去る。

   巨大船は海を割って波止場へと滑り込み、着岸する。

   巨大船に板がかかり、甲冑を着た兵士たちが降りて整列する。

   最後に煌びやかな衣装を着た使者達と、イザナギ(16)が上陸する。

   岸辺の村民たちは道をあけ、そこから首長が屈強な男たちを伴って現れる。

   首長がイザナギらの目の前に立ち、

首長「お待ちしておりました、イザナギ殿」

   と恭しく頭を下げる。

   イザナギが首長の肩に手を添え、

イザナギ「楽に、首長殿」

   と穏やかに微笑む。

イザナギ「本日は娘御をいただきに伺いました」

首長「承知しております」

   と頭を下げると、

首長「これに……」

   と、後ろに残した数人の屈強な男たちを差す。

   男たちが横へ退くと、煌びやかに着飾ったナミが佇んでいる。

   俯いていたナミが顔を上げ、イザナギの顔を見つめる。

   時が止まり、二人の間に爽やかな風が吹く。ナミ、息をのむ。

   イザナギ、ふっと微笑むと、

イザナギ「美しい娘御でいらっしゃる。これは明日の祝言が楽しみだ」

   首長、笑みをたたえて、

首長「宴席を用意しております。こちらで旅塵をお祓いください」

   とイザナミらを連れだす。

   依然、浮かない顔に戻るナミ。

 

○おのころ村(夜)

   村の奥は杭で囲まれた敷地がある。敷地の奥に高床式の建物が建ち並ぶ。

   杭の内に大和の兵士がかがり火を焚いて座り込んで酒を回し飲みしている。

   数人の甲冑を身につけたままの兵士が、屈強な村の男らと共に集会場の入口に

   立っている。


○集会場・内(夜)

   板の間の広い部屋に男たちが車座に並んで飯を食う。半数以上が村の地位のあ

   る者で、残りが大和からの使者達とイザナギ。彼等は比較的上座の方にいる。

   ナミとイザナギの間には、首長、使者らが挟まれている。

   車座の中心には踊り子の女らが村に伝わる伝統的な舞を賑やかに踊る。

   また人々の膳に酒を注いだり給仕する女も見える。

   ナミは浮かない顔をしている。

   ちらりとイザナギを見る。そして目線が首長に移る。


(回想)○首長の家

   首長とナミが膝を突き合わして話し合っている。

首長「ナミ。お前には我が国の第一王女として、大和の嫁にいってもらう」

   ナミ、驚きで息をのむ。

首長「ワシとて、亡き妻と遅くに儲けたお前をこのような形で失いたくはない。しか

 し仕方のないことなのだ。大和は西方より力を伸ばし、近隣の国を次々と傘下に収

 めている。出雲には無血の開城を迫り、拒んだ熊野は争いの末葬らされた」

   ナミ、ジッと首長の目を見る。

首長「この淡路の地は海の拠点として財を成した国だ。周辺の国に大和に対抗しうる

 国はもうない。この要求を拒んでも、ワシらを助けてくれる者はもう存在しない。

 大和は皇子との血縁を求め、拒めば武をもって制圧すると宣言した」

   ナミの表情は変わらない。凛としている。

首長「村のために、国のために、我慢してくれるな、我が娘よ……」

   悲痛な面持ちの首長。ナミは一瞬顔を逸らす。

ナミ「……私は淡路の地の王女ですもの。謹んでお受けいたします」

   凛とした表情に安堵のため息を漏らす首長。しかし再び表情を引きしめて、

首長「しかし、相手はあの恐ろしい大和の国の皇子だ。イザナミ殿は眉目秀麗と名高

 く、若くして一旅団を率いる武臣としても知られておる傑物だ。武人とはもれな

 く気の荒いものが多い。その刃にかからぬよう、くれぐれも粗相はするなよ」

   と念を押し、立ち上がる。窓から遠くの景色を眺めている。

首長「口は災いの素というからな……信頼関係が気づけるまで、イザナミ殿の前では

 口は閉ざしておいた方が良いかもしれぬ」

   ナミは黙って首長を見つめている。

                       (回想・終わり)


○おのころ村(深夜)

   月が熾っているように明るい。

   村のかがり火は大半が消されている。残る火も勢いは弱々しい。

   杭の内の男たちのほとんどが酔いつぶれている。


○首長の家(深夜)

   ひっそりと静まり返った室内。

   布の仕切りを挟んで首長とナミが分かれて寝ている。

   首長からは寝息が聞こえるが、ナミは目を開け天井を眺めている。

   青白い肌を窓から射す月光が照らし出す。

   窓から人影が現れる。

   静かに降り立つ影。ナミは驚き、尻をついたまま奥の壁に身を寄せる。

声「シッ……ナミ殿、お静かに」

   影が月光に照らされる。それはイザナギの姿だった。

   ナミ、驚いて息をのむ。そしてか細い声で、

ナミ「……イザナミ様」

   イザナミ、穏やかに微笑む。

ナミ「いかがなされたのです?」

イザナギ「寝付けなくてな、貴殿のもとへ遊びにまいった」

ナミ「そんな……どうしましょう。困ります」

   ナミ、掛物で胸元をギュッと抱きしめる。

   イザナミ、声を殺して笑う。

イザナギ「何を感がえておられる?」

   と可笑しそうに笑う。ナミ、顔を真っ赤にする。

イザナギ「実はナミ殿にお願いしたいことがあって参りました」

   と床に膝をつき、手を差しだす。

イザナギ「ここじゃ話にくい。私と共に外を歩きませんか?」

   ナミ、思わずその手を取る。


○おのころ村・村の端

   イザナギに手を引かれてナミは村の外の林を歩く。

ナミ「いけません。これ以上は……」

   イザナギ、振り返る。

ナミ「何も支度もなしに……」

イザナギ「外の空気を吸うのに、どのような支度がいるのですか?」

ナミ「要りますよ。女性は何かと……」

   ナミの足は泥で汚れている。

イザナギ「そちらへ座って」

   と岩を指差す。ナミは座る。

   イザナギは手拭いを取り出し、ナミの足を拭う。

   ナミ、驚きの表情。

イザナギ「それは失礼仕った。とりあえず私のものを使ってください」

   と、イザナギは靴を脱ぎ、ナミに履かせる。

   イザナギは裸足のまま二、三度ぴょんぴょん跳ねる。

イザナギ「うん、堅苦しくなくなった」

   ナミ、少し頬が緩む。

ナミ「それだけではありません、着の身着のままで参りましたもの。今は暗がりでよ

 く見えないでしょうけど、私、村娘みたいな恰好をしているの。とてもあなた様に

 見せられた姿ではありませんわ」

イザナギ「よいではありませんか。これから私たちは夫婦になるのです」

   と、ナミの光る眼を見つめる。

イザナギ「着飾らないあなたを知っておきたいと思っていました」

ナミ「着飾らない……」

イザナギ「はい。この村にしてもそうです。村人は私たちのことを恐れている」

   と、木立の間から見える村を見渡す。

イザナギ「私はこれからこの村を治めていかねばなりません。そのためには、忌憚の

 ない、ありのままの村の姿を目に治めておかねばならないと思っております」

   再びナミを見つめる。

イザナギ「今日はどこを案内されても余所余所しくされてしまいました。私達にはま

 だ、日の明るいうちにこの島のありのままの姿を見せてはくれないのです」

   ナミの手を取る。ナミは立ち上がる。

イザナギ「ナミ殿。どうか慣れない土地に不安がる哀れなこの私に、村のことを教え

 ていただけませんか?」

   ナミ、困惑した表情。

ナミ「それにしても、なぜ、今、私に?」

   イザナギ、ナミの目をジッと見つめて。

イザナギ「もちろん、あなたのことももっと知りたい」

   ナミ、顔を赤くする。

イザナギ「ですから、人目のないときに散歩でもしながらと思ったのです」

   と、ナミから手を放し、1人先に歩き始める。

   ナミも慌てて後を追う。

   二人は林を進む。

ナミ「それにしても、そのようなお願いだとは思いませんでした」

イザナギ「おや、それではどのような目的だと思ったのですか?」

   ナミ、言葉が詰まる。イザナギ、笑う。

イザナギ「失敬。まさか婚前の娘御を傷物にするようなことはいたしませんよ」

ナミ「ううう……」

   二人は林を抜ける。


○入江・葦原(深夜)

   葦の生い茂る入江の淵にたどり着いた二人。

イザナギ「これは何と豊かな」

ナミ「屋根を葺く葦の収穫場所なのですよ」

   イザナギ、身の丈を越える葦をあおり見る。

イザナギ「葦は家の屋根や簾、小物に使える他、魚や鳥の恰好の住み家となる。葦の

 生える水辺では漁業や狩猟の獲物に困ることはない……」

   イザナギ、腰に下げた小袋の中身を取り出す。

イザナギ「ナミ殿。ご覧ください」

   袋の中身を手のひらに開ける。中から籾殻に入った米が一握りほど出てくる。

イザナギ「私たちの国で育てている米です。大和は元々『葦原の中つ国』と呼ばれて

 いました。葦の生い茂る豊かな国という意味です。この地は豊かな土壌に道ていま

 す。翌年には、黄金に揺れる稲穂の海をご覧にいれましょう」

ナミ「黄金に……?」

   と、ジッとイザナギの顔を見つめる。

イザナギ「はい。二度と飢えに苦しむことのない楽園を築くのが私の使命なのです」

   と、穏やかに微笑む。ナミもつられて微笑む。


○入江(深夜)

   二人は小船の停まる入江の淵へとやってくる。

イザナギ「何とも壮麗ですね」

   と、入江に浮かぶ小島を眺める。

ナミ「あれは『おのころ島』と呼ばれているのですよ」

イザナギ「おのころ……変わった呼び名ですね」

ナミ「えぇ、自ずから固まったという意味ですわ」

イザナギ「それはどういう意味です?」

   ナミ、目を細め遠くを眺める。

ナミ「その昔、この島は天地の別れていなかったころ、神が海をかき混ぜられ、滴り

 落ちた土塊が固まり、この島の形を成し、この世界に地が生まれました」

   ナミ、振り返りイザナギを見つめる。

ナミ「この島の起源とされる、私たちの持つ神話ですわ」

イザナギ「それはおもしろい……」

   イザナギ、辺りの小舟に腰をかける。

イザナギ「私はその手の話は大好きです。遠征のためにあらゆる国を回りましたが、

 どの国も自身のルーツとなる神話を持っていました。とても神秘的です」

   ナミはイザナギの隣に腰掛ける。

イザナギ「あの島へは行ってはいけませんか?」

   と、おのころ島の方を眺める。

ナミ「どうでしょう……? 一応神域ですから村人以外を入れたことがありません」

   イザナギ、俯く。ナミ、バツの悪い顔をする。

ナミ「でも、たまに漁師が休息したりもします」

   と、笑顔で取り繕う。

イザナギ「それでは、近くまで近寄ってみてもかまいませんか?」

ナミ「それなら、構わないでしょうけど……」

イザナギ「それでは決まりだ。この船を拝借しましょう!」 

   と、ナミを両手で抱える。

ナミ「ひゃっ……!」

   そして小船の中に座らせられる。

   イザナギは小船の尻を押して、入江に浮かぶ寸前に自分も乗り込む。

   二人の乗った小舟はおのころ島へと進む。 


○入江・中(深夜)

   イザナギが櫂を漕いでいる。水面が波紋で揺らめく。

   二人の乗る小舟がおのころ島の手前に近づく。

   イザナギ、漕ぐのを止めておのころ島を仰ぎ見る。

   ふと水面を見る。満面の星が映っている。

イザナギ「これは……」

   二人の小舟は水面に映る星の川の上に浮かんでいるように見える。

ナミ「星の川を渡っているみたい……」

   イザナギ、天を仰ぎ見る。

イザナギ「私の国の神話では、この星の川が恋人たちの逢引を妨げるといいます」

ナミ「まぁ……それでしたら何とも験が悪く感じますね」

イザナギ「いぇ、ですが今時分の夏の蒸し暑い夜。渡り鳥がやってきて、その川に橋

 を掛けるというのです。それで恋人たちは、長く会えない時を乗り越えて愛し合う

 というお話なんですよ」

   ナミ、ため息をついて、

ナミ「それだと、この小舟が天に掛ける渡し舟みたいですわね」

   イザナミ、虚を突かれ照れて、赤くなる。

   すると一匹の小鳥が高速で滑空し、船の縁に頭をぶつけ、倒れ込む。

ナミ「きゃっ!」

   鳥はもんどりうって羽をバタバタ動かすが、飛び立てそうにない。

ナミ「大変、大丈夫かしら?」

イザナギ「見てみよう」

   イザナミはバタつく鳥を手に取り、羽や頭を調べる。

イザナギ「もしかしたら羽を痛めているかもしれない」

ナミ「えっ……、なんとかならないかしら?」

イザナミ「なんとかしてみよう」

   と手拭いを裂き、包帯のように鳥に巻きつける。

イザナミ「これで何とかなればいいが……」

   しかし積極的に羽ばたこうとはしない。

ナミ「私が手の内で温めてみますわ」

   と、鳥を手に取り、ふわりと包み込む。

   鳥の様子を覗き込むイザナミ。

   二人が体が触れるぐらい近づいていることに気づき、お互い飛びのく。

   お互い照れて気まずくなり、空を眺める。

イザナミ「それは何という鳥ですか?」

ナミ「きっと、セキレイですわ」

イザナミ「セキレイ?」

ナミ「はい。この島ではよく見かけるんですよ。今朝もつがいが窓辺で睦まじく遊ん

 でいるところを見かけましたわ」

イザナミ「つがいを作るんだね」

ナミ「はい。もしかしたら、私が今朝見た鳥かもしれませんわね。お前、連れの子と

 はぐれてしまったの?」

   と、語り掛けるために手を広げる。

   するとセキレイは船の縁に乗り、そのまま羽ばたき飛び立とうとする。

   しかし上手く飛べず、水面に落ちてしまう。

ナミ「ああっ!」

   しかしそのまま水面をバタつかせ、おのころ島へと向かっていく。

ナミ「追いましょう!」

イザナギ「いいのですか?」

ナミ「このまま死んじゃったら元も子もありません」

   セキレイを追いかけ、おのころ島へと船をこぎ出す。


○おのころ島・畔(深夜)

   船を着け、イザナギとナミが降り立つ。

イザナギ「見て下さい」

   地面には何かが上陸して濡れた後が点々と残る。

   ナミはその方へと向かって駆け出す。

イザナギ「ちょっと!」

   二人は林の方へと消えていく。


○おのころ島・山中

   坂を上るナミ、息が切れ、立ち止まる。

   楽々と上ってきたイザナギが、ナミの肩に手をやる。

イザナギ「きっともう、大丈夫ですよ」

ナミ「……でしょうか?」

   と、不安げな目で振り返る。

イザナギ「途中で見失ったと言うことは、もう僕たちの手の届かないところへ行って

 しまったのですよ」

   ナミ、ゆっくりと頷く。

   二人は並んで腰を下ろす。

   眼前は拓けていて、水面に映る星の川や村の影が見える。

   ナミ、イザナギに寄りかかる。イザナギ、意外そうな表情をする。

ナミ「私、誤解していましたわ。大和は恐ろしく、強い国だ。その皇子のあなた様

 も、失礼なお話ですが、血も涙もない方かと勝手に思っておりました」

   イザナギ、苦笑する。

ナミ「それが、その……これほどお優しい方だったなんて……」

   イザナギ、マジメな顔をして村を見つめる。

イザナギ「私達の望みは一つ。豊かさ、そして争いのない国造りなのです」

ナミ「……」

イザナギ「たしかに私達の国は強国だ。しかし武による屈服を決して良しとしない」

ナミ「……」

イザナギ「大和と他の国との結びつきは夫婦のようでありたい。お互いを尊重し、

 しかし一つの土地に住まう家族として、共に平和を守っていきたいのです」

   ナミ、イザナギを見る。二人が見つめあう。

イザナギ「共に、歩んでくれると誓いますか?」

   ナミ、頷く。

イザナギ「私が遠き地へ赴いて、天の川に遮られた恋人同士のようになかなか会えな

 かったとしても、待っていてくれると誓いますか?」

   ナミ、頷く。イザナギが微笑み、ナミの手を取る。

イザナギ「苦労をかけるでしょうが、共に歩んでまいりましょう」

   ナミ、イザナミの胸に顔をうずめる。

   イザナミ、ナミの肩を抱き、そのままにしておく。

   空が白みはじめ、視界に彩りが返ってきた。

   二匹のつがいのセキレイが目の前の岩の上に並んで止まる。

イザナギ「おぉ……」

ナミ「さっきのセキレイかしら?」

イザナギ「包帯をしていないが、取れてしまったのかもしれないな」

   つがいのセキレイはお互いの頬を突っついたり、左右に飛んだりしている。

   見ていたイザナギ、ナミがクスクスと笑う。

ナミ「愛おしい舞ですね」

イザナギ「本当に……」

   一羽が口から落とした木の実を、お互いが突っつく様子を眺める二人。

イザナギ「もしよろしければ、あの二匹のマネを、今日の婚儀でしてみませんか?」

ナミ「えっ?」

イザナギ「よろしいではありませんか。お酒や供物を、お互い同じ杯で小鳥のように

 突っついたりして、愛嬌があって。何より、この二羽のマネをすれば、いつまでも

 仲睦まじくいられそうな気がします」

   ナミ、微笑んでイザナギの胸元の襟をキュ~っと握りしめる。

ナミ「えぇ、素敵ですね」

   一羽が木の実を咥え直し、もう一羽がその木の実をつつく。

   イザナギとナミは、お互いの口元を見つめる。


○おのころ村・首長の家の前(早朝)

   首長が家から梯子を下りてくる。杭の内では村の男や大和の兵士たちが不安げ

   な表情でそこらを行ったり来たりしている。

首長「娘は見つかったか⁈」

村人A「いぇ、村中探しましたが見当たりません」

大和の使者「我が皇子もです。よもやどこかへお隠しになったのではございません

 な⁈」

村人A「何を言う、無礼な!」

首長「まぁ、二人とも落ち着きなされ!」

   大和の兵士が駆け寄り、首長の前で膝をつく。

大和の兵士「報告します、村人の中に、皇子と首長の娘御様が、入江の島に向かうの

 を見たとか!?」

首長「おのころ島へか⁉」


○おのころ島・湖畔(早朝)

   首長と村人、大和の使者と兵士の乗る船が2,3隻岸辺に着ける。

   首長らは一気に山へと分け入る。


○おのころ島・山中(早朝)

   首長らは一気に坂を上る。兵士の中には剣に手をかける者もいる。

首長「ナミ、そこにいるのか⁈」

大和の使者「皇子、いらっしゃったら返事をくだされ!」

   すると目の前にイザナギ、ナミの姿が。

   二人はお互い寄り添い、接吻をしていた。

   ため息が出る首長たち。

村人A「水を差さないでおいてあげましょう」

   首長らは頷き、退散する。


○伊弉諾(いざなぎ)神社

   現代の伊弉諾神社。拝殿では神式の結婚式が執り行われている。

   婿と花嫁が交互に盃に口をつけ、三々九度をする。

   夫婦杉の梢に腰掛けその様子を眺めるイザナギとナミ。体が透けている。

   ナミは宙に手を差しだすとセキレイがとまり、手のひらで三々九度のポーズを

   する。クスクスと笑うナミ。

   イザナギがナミの肩を抱く。

   二人は下界の結婚式を見守りながら、ふわりと天へと舞い上がる。


終わり



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