第22話 幸せな人生を過ごしました
「さて、今回の件で君達には鉱山奴隷として働いてもらう事になるのだが・・・彼等はBランク冒険者だったんですよね?」
「あぁ、今は最低ランクまで落とされているがBランクだったという事だ」
町の入り口で再び衛兵に取り押さえられた3人はアーバンとギルガメッシュの話を、真っ青と言うか真っ黄色な顔色で伺う・・・
鉱山奴隷、それは奴隷の中でも最も過酷なモノである。
「まっ待ってくれ!俺達は心を入れ替えて心機一転冒険者としてこれからは真面目にやっていく事にしたんだ!」
「そっそうだ!俺達なら店の弁済額くらい稼いで返せる!」
「そうじゃ!特にワシなんか鉱山奴隷として働いたら数日でおっ死んじまうぞ!」
3人は鉱山奴隷に落ちるのは勘弁して欲しいと懇願する。
実際に彼らなら直ぐにCランクまでは戻せるだろうというのはギルガメッシュも直ぐに分かった。
しかし、それもアーバンとギルガメッシュの言葉で黙る事となる・・・
「それは構わない、君達には弁済額を借金して貰って金利と合わせて日々少しずつ返済してもらう形式でも良いのだが・・・返済できると思うのかね?」
「アーバン、正確な金額を伝えてやったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな、諸々の破損した物の損害額は金貨250枚なんだが・・・一つだけやばい物があったんだよな」
「やばい物?」
金貨250枚であれば借金して金利を支払いながら返済すれば元金は減らせる、そう一瞬顔色を戻した3人であったが・・・
「あぁ、実はとあるルートで入手した霊薬エリクサーが1本在ってな・・・」
「霊薬エリクサー・・・割れてしまったのか?」
「あぁ、見事に砕けて床にぶちまけられていたのさ。霊薬エリクサーの価値は分かるな?」
そう悲しそうな表情で3人を見下ろすアーバン。
勿論嘘である、霊薬エリクサーは実はアーバンの道具屋でハルク達が実際に作成したのを見て店でも試験的に作成してみた物であった。
だが実際にあの部屋に偶然ギルガメッシュの指示で1本置かれており偶然割れてしまったのだ。
実際にアーバンの道具屋には後7本の霊薬エリクサーが在るのだがそれは内緒であった。
レシピが判明しそれこそハルク達に依頼して月の雫草を引き取れば下手すれば特級ポーションより安く作り出す事も出来るのだが・・・
「霊薬エリクサーか・・・確か過去に何処かの国の国王がダンジョンから回収されたそれを買い取った額が金貨2億枚だったな・・・」
ギルガメッシュがまるで打ち合わせしていたかのようにスムーズに知識を披露する。
金貨2億枚、日本円にして20億円に相当する額である。
年末ジャンボ宝くじが前後賞合わせて4回くらい当たらないと手に入らない額であった。
そして、それが示すのは・・・
「金貨2億枚・・・金利が3%だとしたら年間金貨6百枚だな。だから一日金利だけで金貨1万5千枚は稼がないと元金が減らないな」
異様なほど暗算でスムーズに金額を述べるギルガメッシュ、まるで前もって計算した上で話しているようであるが3人はそれどころではない。
一日金貨1万枚を超える額稼ぐなんてAランク冒険者ですら不可能に近い。
鉱山奴隷に死ぬまで行くのが確定したと口から魂が抜け出ているような顔つきになる3人・・・
その顔が見たかったとギルガメッシュは嬉しそうに頷いて話を続ける。
「そこでだ、お前達に提案が在る。俺が弁済額立て替えてやるから俺の奴隷にならないか?」
「ギ・・・ギルガメッシュさんのど・・・奴隷ですか?」
「あぁ、鉱山奴隷になったとしても死ぬまで働き続けても返済は不可能だろ?なら俺の奴隷になって金利は取り外してやるから返済が終わるまで付き従うって事ならどうだ?」
3人は互いを見詰め合って頷く。
それ以外に逃げ道は無いのは理解しているし鉱山奴隷になって死ぬまでそこで働き続けるのよりはマシだと考えたのだ。
それが全てギルガメッシュの計画通りとは思いもせずに・・・
「契約は成立だな。それじゃあアーバン、こいつらはもらって行くな」
「えぇ、素晴らしい取引をありがとうございました」
アーバンにとってはどちらでも良かったのだ。
だがギルガメッシュに恩が1つ売れるこちらの方が非常に魅力的なのは間違いなかった。
こうして3人はギルガメッシュの奴隷となり、そのままギルガメッシュと共に旅立った。
彼等はまだ知らない、Sランク冒険者のみが受注する事が出来る100年クエストのダンジョン攻略に強制参加が決定した事など・・・
鉱山奴隷の方がどれ程マシだったのかと後悔する日は直ぐであった・・・
月日は流れ、あの日から5年が経過していた。
冒険者ギルドにアベルを筆頭にテラ、スズ、マリア、ハルク、そしてリッカの姿が在った。
あれから元気になったリッカはハルクと離れるのを嫌がりパーティに加わって共に冒険者となっていた。
そして、昨年ハルクの妻になったスズとリッカの薬指にはハルクから贈られた結婚指輪が装備されている。
膨大な財産を持つ彼等であるが冒険者を続けていたのには理由があった。
「それではこのクエストを持ちまして皆様はAランク冒険者である事をここに証明します」
「ありがとうございます!」
パーティでの最高ランクであるAランクに到達した面々は周囲から一斉に拍手喝采を受ける!
Aランク冒険者と言えば全国の冒険者リストにその名前が掲載されるくらい凄い事なのである。
しかも・・・
「そして、アベルさんは今日からSランク冒険者として活動していただきます」
「ありがとうございます」
再び大きな拍手が沸き上がる!
ギルガメッシュと同じSランク冒険者にリーダーであるアベルは遂に到達したのだ。
付いた二つ名が『不死鳥アベル』であった。
状態異常は一切効かず、怪我はや減った魔力は直ぐに回復し多種多様な魔法や剣術を扱う事から付いたその名前・・・
それら全てはハルクの能力のせいでもあるのだがそれを告げる事はしないのは皆との相談の上であった。
「そして、本当にやるのですか?」
「えぇ、パーティで参加したいと思います」
アベルが告げたそれはSランク冒険者を加えたメンバーのみが参加する事が出来る100年クエスト・・・
夢現の迷宮攻略に参加したいと言う事であった。
実は半年前にギルガメッシュ率いるパーティが最下層と思われる999階に到達したと言う話が上がっていたのだが、そこから先へ全く進めていないのが現状だったのだ。
アベルがSランクになれば全員でギルガメッシュに協力出切ると話し合った結果この決断に至っていたのだ。
「分かりました。それではこの地図をお持ち下さい」
冒険者ギルドの受付もアベル達が夢幻の迷宮に挑戦したいと話していたのは知っていたので前もってギルドマスターへ申請を出していたのだ。
そして、彼等はギルガメッシュが居る夢幻の迷宮入り口へとやっていていた。
「ん?ををっ?!懐かしい顔ぶれだな!」
「ギルガメッシュさんもお元気そうで」
アベルの挨拶に堅苦しいのは無しだとギルガメッシュは嬉しそうに野営地のテントへと案内した。
そして、そこに居た3人にハルクは驚いて身を硬くするが・・・
「あっ?!ハルクさん!お久しぶりです!」
「ご無沙汰しておりますハルクさん」
「元気そうでなによりですハルクさん」
バーディ、ミスト、クリム・・・
3人ともまるで人が変わったかのように目をキラキラさせて別人の様になっていた。
その様子に驚いて固まっていたハルクを見てギルガメッシュが嬉しそうに・・・
「あぁ驚かせてしまったな、こいつらは俺のパーティに参加して迷宮攻略の手伝いをしてもらってるんだ。その途中で500回ほど死に掛けたから何か悟ったみたいでな、随分と礼儀正しくなってしまったんだよ」
ケラケラと笑うギルガメッシュであるが最早人が変わったどころのレベルでない程変化した3人に誰もが恐怖を覚えていた。
そして、ギルガメッシュはハルクの両肩に手を置いて頭を垂れる。
「良く来てくれたハルク、お前が居てくれれば999階はクリア出来るかもしれない」
「もう半年ほどそこで止まっていると聞きましたが?」
「あぁ・・・あそこは・・・地獄だ・・・」
その言葉に礼儀正しかった3人は吐き気を覚えてテントの外へ吐きに出て行った。
余りにも酷い仕様の恐怖に精神が完全にやられていたのだ。
しかし、それも仕方の無い事であった。
「ずっと5つの分かれ道が続く階層ですか?」
「あぁ、しかも当たりは1つだけで残りの4つに入ったら出れなくなる上に当たりが変わるんだ・・・」
一応帰還石を使用して脱出は出来るが、元々貴重な帰還石を湯水の如く使い続けてもクリアには届いていなかったのだ。
だが・・・ハルクの『加護の恵み』が在れば上昇した運の効果で当たりを引き続ける事が出来るかもしれない!
それに気付いたアベル達は翌日ギルガメッシュ達と共に999階攻略を目指して夢幻の迷宮へと足を踏み入れた・・・
その先に待つのは一体何だったのか・・・
全てを知るのは彼等のみであった・・・
「あらあら、もう寝てしまったのね」
「懐かしい話だったな」
「そうね、私達とアナタの物語ですものね」
大きなベットに5人が横になっていた。
中央にハルク、両端にスズとリッカ、その間には2人の子供が寝息を立てていた。
おやすみのキスを二人にして明かりの魔道具を消すハルク。
幸せの真っ只中に居るハルク達はゆっくりと夢の世界へと旅立つのであった。
完
女神から能力を授かった筈なのに俺YOEEEEEEEEEEEEEEEEE!!! 昆布 海胆 @onimix
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