第21話 全て許す事にしました

「ちくしょー!ハルクお前俺達にこんな事して・・・」

「黙れ犯罪者!」

「うぐぁっ!」


衛兵が押さえつけている状態から無理矢理ハルクに襲いかかろうとしたミストを別の衛兵が殴りつけた。

よろけて倒れるミストはそのまま押さえつけられ睨むようにハルクを見上げる。


「つかなんで?!何でお前生きてるんだよ?!」


ミストは気付かない、ハルクが生きていると言う事は未遂に終わったと言い訳できるかもしれないのにそれを自ら潰したのだ。

毒手の籠手を使用したと自白したも同然であった。


「ハルクさん?!うそ・・・よかった・・・」


そう言いつつ涙を流しながらハルクに抱き付くリッカ。

衛兵を読んだ時点でハルクはもしかしたら死んでいるかもしれないと考えていたのだ。


「なになに、なんの騒ぎ?ってリッカ?とハルク?!」


そこにやって来たのはハルクと新しく仲間になった面々。

アベル、マリア、スズ、テラの4人であった。

泣きながらハルクに抱きついているリッカに嫉妬の表情を一瞬見せるスズであるが状況が良く分からず困惑する。

そこにバーディが叫ぶ!


「くそっ!ミシッドのヤツ・・・いやジャガーが何かしやがったんだな!ちくしょう・・・」

「残念ながらそれは無い」


バーディの言葉に返事をしたのはジャガーである。

そして語られるあの時の事・・・


裏路地にハルクを連れ込んだジャガーは止めを刺そうとした。

だが取り返しの付かない犯罪行為を行なう時に記憶が引き戻される枷が外されその場でジャガーはハルクに謝罪をした。

その為、ハルクに関してはジャガーは一切何も行なっていなかったのだ。


「じゃ・・・じゃあなんで・・・」

「パラノイアコーティングだよ」


ギルガメッシュの言葉に誰もが首を傾げる。

それはそうだろう、ハルク達も森の中でギルガメッシュから聞いた時は意味が分からなかったのだ。

そもそも世界に僅かに残る幻想級の武具に付与されていると言われている物だからそれも仕方ないだろう。

その実体はパラノイアスライムの体液であった。


現代でもナノコーティングと呼ばれる技術がある、ナノテクノロジを用いて作製する膜厚nmオーダで特長を発揮する分子構造を用いた被膜技術のことである。

簡単に言うとこれを塗るだけで紙が鉄クラスの強度を持つ事が出来るのである。

そして、パラノイアコーティングの効果は完全状態異常&全属性抵抗であった。

唯一パラノイアスライム同様、斬撃に弱いという欠点はあるがありえない程強力なものであった。

そして、実はそれがパラノイアスライムと戦った面々がその時装着していた全ての武具に付着しコーティングが完了していたのだ。


「様はハルクだけじゃなくて俺の着ているこの防具はどんな状態異常攻撃も呪い攻撃も通じないってわけだ」

「・・・はぁ?」


裏返った声を上げるのはクリム。

魔法を使う彼だからこそそのありえない事に声を上げた。

目を輝かせてそんな凄い物が目の前にある事に感動するが直ぐに今の状況を思い出して表情を真っ青に戻す。

そう、危険物所持に加え殺人未遂、その上ミストの公務執行妨害である。

しかも相手がその全てを知ってしまい訴えを起こせばこの場で死ぬまで鉱山奴隷もありえるのである。

保釈金なんて金も勿論無く3人の全財産は金貨1枚、完全に詰んでいるのを理解したのだ。


「さて、それじゃあハルク・・・こいつらどうする?」


みんなの見守る中、ギルガメッシュが尋ねる。

実際問題ハルクには恨みを買っている、3人をここまで追い込んだ上にミストの財産を全て持っているのだ。

復讐される事を考えるとこのまま鉱山奴隷に落として復讐される可能性を潰した方が良いと考えるだろう。

だが・・・


「もう、十分です。確かに酷い事も沢山ありましたが・・・僕は彼等が居なかったら今日まで冒険者をしていなかったと思いますので」

「は・・・ハルク・・・俺達を許してくれるのか?」

「許しませんよ、ですがもう十分罰を受けたと思いましたので・・・」


冒険者ギルド内での事でハルクにとっては十分であった。

それに今現在自分は生きており新しいパーティと今後もやっていける自身がある、なにより今抱きついてきてくれているリッカの前で酷い事をしたくなかったのだ。


「だから僕は彼等を許そうと思います」

「ハルク・・・」


バーディがハルクの言葉に涙を浮かべる。

今現在もリッカはハルクに抱きついたままであるが気にせずにハルクは続ける。


「ですからギルガメッシュさん」

「あぁ、分かったよ。衛兵の方々、危険物所持と公務執行妨害で罰則金幾らだ?」

「えっと・・・丁度金貨15枚ですね」

「分かった」


そう言ってギルガメッシュは金貨15枚を手にしてミストの前にしゃがみ込む。

そして、金貨を手にした手とは逆の手を差し出す。


「ほら、ハルクに感謝しろよアレを金貨15枚で買ってやるよ」

「うぐぐ・・・」


ミストは涙を浮かべて歯を食いしばる。

それはそうだろう、アーバンの道具屋で正直に渡していれば金貨5500枚になっていたのだ。

しかし、今売らなければ所持金の金貨1枚を差し引いて金貨14枚分鉱山奴隷落ちは確実。

現代日本で140万円を鉱山奴隷での労働で支払おうとするならば一日1人1000円程にしかならず、単純計算1年半以上は鉱山奴隷は確実。

バーディは肉体労働は得意かもしれないが魔道士のクリムは確実に潰れる。

その上、奴隷落ちした時に所有物は全て没収されオークションに出される。

ミストに選択肢は無かった・・・


「わ・・・わかった・・・」


ガックリと項垂れながら返事をした事でギルガメッシュは懐に手を入れてあの短剣を手に取る。

しっかりと自分の目で鑑定を行なって本物だと確認した後、衛兵に出した金貨15枚を手渡した。


「確かに、よし解放してやれ」

「「はっ!」」


ギルガメッシュの渡した金貨で全ては解決し解放される3人。

ハルクも思うところがあったが、元とは言え共に戦った仲間がこれ以上酷い目に遭うのを見たくは無かったのだ。

そんなハルクにクリムが頭を下げる。


「本当に・・・本当にすまんかった・・・」


バーディとミストは視線を合わそうとはしないが、それでもハルクのお陰で助かったのは認めたのか少しだけ頭を下げる。

それに満足したのかハルクは一度だけ微笑んで抱きついていたリッカの背をポンポンッと叩いて今の仲間の元へ向かった。

こうして騒ぎは一段落しハルクはリッカと共にアベル達と打ち上げに向かう・・・

この町で活動はまず不可能な3人はこの町を出ることは間違いない。

そう考えたハルクはいつかまた会えた時はミストに買い取った物を返そうと考えながら別れの挨拶はしないで去っていくのであった・・・







「いくかバーディ」

「あぁ、そうだな。新しい町で一からやり直しだな」

「ほっほっほっ、なーにワシ等3人なら大丈夫じゃよ」


ハルク達とは逆方向に歩き出すバーディ、ミスト、クリム。

まるで憑き物が落ちたようにスッキリとした表情の3人は初心に返り頑張る事を胸に誓って町の入り口へ向かった。





そして、町の入り口の門を潜ろうとしたその時であった。


「ちょっと待て、お前達!」

「へっ?なんすか?」


門番の1人に声を掛けられて振り返るバーディ。

その顔をジロジロと見ながら近寄ってくる門番の後ろには数名の衛兵・・・


「お前達アーバンの道具屋で魔法をぶっ放した冒険者だな?!アーバンの道具屋の店主から指名手配が出されてるぞ!」

「「「・・・・あっ?!」」」


驚く程スムーズな連携で周囲を囲まれたバーディ達、そこに歩いてやって来たのはギルガメッシュだった。


「まさかお前達、自分達のした事を忘れたわけじゃないよな?」


ギルガメッシュの後ろを付いてくるアーバンの道具屋店主であるアーバンが発した言葉に3人は真っ青を通り越して真っ黄色な顔を浮かべるのであった。

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