第20話 被害者の知らないままザマァが展開し始めました
冒険者ギルド内で取り押さえられたバーディ、ミスト、クリムの3人はサブマスターが読み上げるそれを聞く・・・
「まず、この場に居る冒険者達から昨日依頼を受けたのに報酬が支払われていないと言う訴えが多数寄せられたのですが?」
「ち・・・違う、あれは成功報酬だからだ!成功報酬として連れて来たやつに金貨10枚を支払うと約束したんだ!」
「っと言ってますが?」
サブマスターは振り返って周りに居る冒険者達に尋ねる。
だがその場に居る全員が首を横に振ってそれを否定する。
そう、バーディはハルクを見つけた時に言ってしまっていたのだ。
『見つけたんだから少しでも探すのに協力した者にも分け前はあるんだよな?』
と言う質問に対して・・・
『おっおうっちょっと待ってろ!昼過ぎには支払ってやるから!』
っと、金額は正確には言わなかった。
だが確実に支払うと告げてしまっていたのだ。
「俺は金貨1枚を全員に支払うって聞いたぞ!」
「俺もだ!」
「俺も!!」
「ワシもじゃ!」
実はバーディそんな事は言っていなかった。
だが人の噂と言うのは尾びれが付くものである。
バーディが分け前を支払うと言った言葉が報酬は金貨と言う言葉と混ざり次第に人伝いに広がっていった。
そして、それは『ハルクを探すのを協力した者に金貨1枚を支払う』と言う宣言と改変されていた。
問題なのはバーディがそう言ったと言うことではなく探していた者達がその話を人伝いに聞いていたという事である。
その為虚偽の確認をする魔道具を用いても冒険者達は嘘を言っているという判定にはならないのだ。
「ち、違う!俺は言ってない!」
「ほぅ、それは嘘みたいだな」
そう言ってサブマスターは左手の指輪を前に差し出す。
『真実の指輪』
それは語られた言葉が真実かどうかを判定する事が出来る魔道具。
意識的に指輪に魔力を流さないと判定できないので滅多に使用する事は無い物である。
そして、それが示すのは実はバーディが分け前を支払うと言った事に関する嘘判定だけである。
だがこの場に居る誰もがその判定を『分け前に金貨を支払う』と言っていないと言う言葉が嘘だと言う判定だと認識した事である。
「く・・・くそっ・・・」
「まっ待てよ、この場に居る全員に金貨1枚ずつ?そんな金が俺達にあるわけが・・・」
「あるだろ?」
バーディに代わりミストが金が無い事を告げるがそれをミシッドと名乗って潜入していたジャガーが否定する。
そして、取り押さえられているミストの元へ近寄って腰に装着されたボロボロの布袋を取り外す。
「お前達この町から逃げ出そうとしていたんだろ?だったらこの中に入れている筈だよな?」
「ぐ・・・ううう・・・」
ジャガーは短い間ではあるがバーディ達のパーティに参加していた。
だからこそ知っているのだ。
この袋がアイテムボックスと言う多量のアイテムを収納できる魔道具だと言う事を。
そして、ミストの趣味が特殊な魔道具集めで遠出する時は貴重な物をここに入れている事を・・・
「そいつの右手を・・・」
そう告げられ取り押さえられていたミストの右手が差し出される。
拳を握り締めて拒否しようとするミストであったが・・・
「無理矢理ってのは時間が掛かるから切り落とすか?」
ギルガメッシュのその言葉に泣きそうになりながらミストは指を開いた。
その指先を袋に触れさせてジャガーは告げる。
「収納解放」
その言葉と共に袋から次々と大量の魔道具が目の前に積みあがっていく・・・
その数実に49個。
大きいものから小さいものまで積みあがったそのアイテムの数々をジャガーが計画していた通り受付嬢が仕分けしていく・・・
そして・・・
「ギルガメッシュさんよろしく」
「はっジャガーお前俺がここに来る事まで予定済みかよ」
そう言いながらギルガメッシュはそのアイテムをスキル『鑑定』で調べていく。
ギルド内にもアイテムを『査定』する物が居るがミストが所持している物はその殆どが非売品。
言わば貴重なダンジョン等から手に入れたレア物である。
となればこの後の展開に現在の時価を表示する『査定』では都合が悪かったのだ。
「これは金貨2枚、こっちは金貨1枚と銀貨3枚・・・これは凄い!金貨18枚だ!」
「ま・・・待てよ!ふざけんな!拡張テントが金貨18枚な訳無いだろ?!」
ギルガメッシュの鑑定結果にミストは叫ぶ!
それはそうだろう、拡張テントとは中が拡張されており家具や魔道具で出る温水まで設置された物で査定をしてれば金貨1000枚は確実にある物である。
だがギルガメッシュはニヤリと口元を歪めて告げる。
「あぁ?だってこれ中古だぜ?しかも今すぐに換金しないと駄目なんだから手数料掛かるに決まってるだろ?」
「ぐ・・・くそっちくしょ・・・ちくしょー!!!!」
そう叫ぶミストを無視してギルガメッシュは次々と鑑定をして金額を告げていきそれを受付嬢が控えていく・・・
そして、合計金額を受付嬢が述べる。
「合計金貨79枚、端数は纏め売りって事で繰り上げさせて貰いました」
「お・・・俺の財産が・・・金貨79枚・・・」
そう愕然としながら呟くミストの顔を嬉しそうに見ながらギルガメッシュは名指しする。
「と言うわけだ、これ全部で金貨79枚になる。ハルク、元パーティのよしみで買い取ってやれ」
「えっ?・・・えっと・・・」
「ば・・・馬鹿か?!ハルクがそんな大金持っている訳無いだろ?!」
その言葉に反応を示したバーディ、そしてその言葉でミストも便乗する。
「そうだ!ハルクだったらその金額で売ってやってもいいぞ!ただし即金で今すぐ払うって言うんだったらな!」
「えっと・・・」
自らハルクがそんな大金を持っている訳が無い、冒険者ギルドがグルだとしても金の管理に関しては絶対のルールがギルドには有るので貸借は認められていないのである。
そして、この場に居る冒険者達に上級冒険者が居ない事を理解しているからこそミストは強気に出たのだ。
だが・・・
「ならこれで・・・」
「ふぇっ?」
そう言って取り押さえられた3人の前にハルクが金貨を79枚積み上げる。
ジャガーの指示で預金から100枚先程出金済みであったのだ。
「それじゃあハルク探しの依頼を受けて手伝ったやつらは1枚ずつ受け取ってくれ」
「「「「「はい!」」」」」
明らかに昨日参加していない者も居るのだがバーディ自体が誰に告げて誰が協力していたのかなんて分からないのでこの場に居る全員が挙手していた。
その中には仕事を終えたギルド職員が私服で居たりするのだが勿論それにも気付かない。
結果・・・
「全部で26人で残りは53枚だな」
「ぐ・・・ぐそっ・・・金の亡者共め・・・」
ミストの憎しみに満ちた言葉が告げられるがそれでも金貨53枚、それだけあれば別の町に行ってやり直すのは容易の金額である。
だが・・・
「んでハルク、お前短剣渡した時に金返してもらったか?」
「い、いえ・・・あの時剣先が欠けてたとかで一切返して貰ってないです」
正確にはハルクではなくスズに支払ってもらったのだが状況的にスズはハルクに金貨50枚を貸したと言う形になっている。
「あれ?欠けてても問題は無いんだがなぁ~だから金貨50枚はちゃんと返却させて貰うな」
何故ギルガメッシュがハルクが短剣を返却した事を知っているのか3人は理解できず思考が停止していた。
しかし、残りの残金の殆どをハルクに渡すという話になっているのに気付いてミストが叫ぶ!
「ちょっ待てよ!俺達は不良品渡されたんだぞ?!」
「欠けてても俺は問題なかったんだが、それにお前は俺にそれを渡さずに偽物渡そうとしたじゃねーか、文句を言う資格は無い!」
「ぐぐっひぐぐ・・・」
ミストいつの間にか涙と鼻水が流れ始めていた。
残された金貨は3枚、それでも日本円にすれば30万円にもなる金額である。
残っただけマシと言うべきだろう、何よりギルガメッシュが欲しがった短剣はまだミストが懐に所持していた。
最悪これを最後の取引に使おうと密かに隠し持っていたのだ。
「さて、それじゃあサブマスター」
「あぁ・・・お前達、Cランク以上の冒険者に対して出された強制依頼受けたよな?」
「えっあっ・・・」
「そして、集合時間に参加せずに逃亡した。つまり依頼は失敗と言う訳だ」
「うぐぐ・・・」
「だから前金として支払った金貨1枚と失敗に関する罰金で金貨1枚を納めてもらうぞ」
そう言って回収される金貨2枚。
残されたのは金貨1枚であった。
「さて、これで俺からは終了だ」
そう告げられ憎みに満ちた視線をサブマスターに向ける3人であるがサブマスターの話は終わらなかった。
「次はギルドマスターからの指示書だ。読み上げるぞ・・・」
そして、告げられるギルドマスターからの指示書。
「保険金詐欺を働いた冒険者達の2ランクダウン、上級冒険者への強制依頼の逃亡1ランクダウン、ベアマウンテンの集団の報告・・・」
そこまで言った所でバーディが叫ぶ!
「それは俺達じゃない!そこに居るハルクの仕業だ!」
慌てて叫んだのには理由があった。
バーディ達はBランク冒険者である、そして今の話では合計3ランク下がる、つまり最低のEランクまで下がる事が確定しているという事である。
そして、それ以下まで下がると言う事は冒険者ギルドを強制除外されると言う事でもあった。
強制除外をもしされてしまえば半年は別の町でも冒険者登録が出来ないのである。
だからこそバーディは最悪を避ける為に叫んだのだが・・・
「ふむ、ハルク殿に?本当に?」
「あう・・・ぅぅぅ・・・」
バーディは返答を返さない、先程は割り込む形で不意に避けんだので真実の指輪に魔力を通す余裕を与えなかったのだ。
だが今もう一度言葉を発せれば真実の指輪で真偽がバレてしまう。
しかし、ジャガーは口元を歪めてサブマスターの肩に手を置いて告げる。
「そう言うことみたいだからハルク君の責任って事で良いんじゃないか?」
「そ、そうですね・・・ではハルク君、ベアマウンテンの集団の報告の件で君の在籍するパーティのランクを1ランクアップさせて貰います」
「・・・へぁっ?!」
鼻水まで垂らしたバーディは大きく口を開けて変な声を出す。
それはそうだろう、まさかのランクアップの話だとは思いもしなかったのだ。
そして、今更それをどうこう言う事も出来ないのである。
唯一クリムが口を塞がれたままフガフガ言っているがきっとバーディを罵倒しているに違いない。
「そう言う訳で君達の処罰は終わりだ。お疲れ様」
そう言って解放される3人、彼等に残されたのは金貨1枚と最低のEランクと言う称号のみであった。
一瞬にしてBランク冒険者から最底辺まで突き落とされたバーディ達3人は千鳥足でフラフラと冒険者ギルドの外へと足を運ぶ・・・
そして、その後姿をニヤニヤと眺めながらハルクの背中に手をやって押すジャガー・・・
3人に続くように外に出たハルクはそこで目を疑った。
「な・・・なんだお前達は?!」
「もぅ・・・もう嫌だぁああああ・・・」
「離せ、ワシは何もしていない!」
冒険者ギルドを出たそこで3人は衛兵に取り押さえられていたのだ。
そして、その衛兵の後ろから叫ぶ少女が居た。
「この人達です!間違いありません私しっかりと見て聞きましたから!」
その声に反応してそっちを見てハルクは驚いた。
そこに居たのはスズの親友でハルクに告白をしたエリクサーで回復した少女リッカが立っていたのだ。
そして、リッカは続けて叫ぶ・・・
「私の命の恩人で彼氏のハルクさんをその人の装備している篭手で殺すって秘空亭の廊下で計画して実行したって話していたんです!」
その目にはハルクが殺されたと勘違いして涙が浮かんでおり悲劇のヒロイン状態であった。
そして、取り押さえた者の一人が鑑定スキルを持っておりそれを見て声を漏らす・・・
「これは?!『毒手の籠手』じゃないか?!」
それを町中で腕に装備している、簡単に言うと爆発物をむき出しで所持していると同意、それだけで危険人物としてマークされる案件である。
しかしこれは実はギルガメッシュの仕掛けた罠であった。
冒険者ギルド内でギルガメッシュはアイテムの山の中からそれを除外して隠し持ち、失意のミストにジャガーのサイン指示でバレナイように装着させていたのだ。
冒険者ギルドの前で突然起こった騒ぎに人だかりが出来、バーディ達の悲劇はまだまだ終わらないのであった・・・
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