第19話 遂に取り押さえました

「なっ?!」


バーディが剣を抜いて構えた次の瞬間その剣は中央から折れて床に落下した。

魔法剣士であるバーディが所持するその剣は魔力を通す事で本来の数倍もの強度を持たせる事が出来る剣。

それが折れる事なんてありえないのである。


「ぐぁっ?!」


続いてミストが腕を捻り上げられてテーブルの上に押し付けられた。

その光景にクリムが一歩下がる・・・


「ありえん・・・ありえん・・・」


そうブツブツ言いながら目の前の光景に震えが止まらない。

それはそうであろう、3人ともBランク冒険者のメンバーである。

一対一で戦えばAランク冒険者には勝てないかもしれないが2人同時に無力化されるなんてありえない話である。

そして、バーディは叫んだ。


「こいつ人間じゃない!魔族だ!」


その言葉に反応したクリムは抑えられているミストを巻き込むように魔法を発動させる!

人間よりも遥かに強い能力を持つ魔族が稀に人間社会に紛れ込むと言う事はある。

特に今回は謎の短剣に高額報酬を提示していた。

その人物が何処からどう見ても単なる一般人にしか見えないのにも関わらず二人が無力化された。

その事実とバーディの言葉に反応してミストは暴挙に出てしまったのだ。

ここが・・・アーバンの道具屋内だと言う事を忘れて・・・


「エアボム!」


詠唱を必要としない為に殺傷力は非常に低いが広範囲に空気の爆発を起こすこの魔法、本来は相手をひるませたりする時に使用するものである。

それがギルガメッシュの目の前で炸裂した!


ドバンッ!!!


至近距離でそんな魔法を使用した為にバーディもミストもその衝撃に吹き飛ばされる。

だがそれも狙い通りであった。

そのまま2人は後ろに在った窓を破って外へ飛び出した!

遅れてミストも窓から身を乗り出して外へ逃げ出し3人は走って冒険者ギルドへ向かう。

町の中に魔族が紛れ込んでいた事を報告すれば、討伐する為にその場に居たCランク以上の上級冒険者が一斉に倒しに行く。

それが当たり前だからこそ彼等は走った。

幾ら自分達が勝てなかったとしても多勢に無勢、1人の魔族を倒すのに複数人で上級冒険者が戦えば負ける道理は無いのだ。

そして、彼等は冒険者ギルドの入り口を突き破るかのごとく中へ飛び込んだ。


「魔族だ!町中に魔族が出たぞ!」


バーディの叫び声にその場に居た冒険者達は一斉に彼等を見る。

時間も昼過ぎと言う事で午前中に終わる依頼を片付けた冒険者達が戻ってきている時間帯。

それなりに人が居たので3人は勝利を確信していた。

これだけ人が居れば一方的に倒せると確信していたのだ。

だが・・・


「それは本当か?」

「サブマスター、本当なんです!アーバンの道具屋で会った依頼人が魔族だったんです!」


受付の奥から出てきた冒険者ギルドのサブマスターが尋ねた言葉にミストが叫ぶ。

だが3人は直ぐにその異変に気付いた。

普段であれば町中に魔族が現れたとなれば名誉や報酬の為にCランク以上の冒険者は我先にと立ち上がるのだが誰一人反応を示さなかったのだ。

そう、3人は昨日勝手に金だけ貰って参加しなかったマウンテンベアを使途する謎の魔物討伐の緊急依頼にCランク以上の冒険者が全員借り出され、今現在まだ町の外で町を守る為に警戒している事なんて知る筈も無かったのだ。


「お前達、見つけたぞ!もう逃がさんからな!」

「ギャアアアアア!!こいつだ!コイツが魔族だ!全員でかかれー!!!」


バーディ達を追い掛けて冒険者ギルド内に入ってきたのはギルガメッシュであった。

その姿を見てクリムは叫びを上げ、ミストが命令を出す。

だが誰一人動こうとはしなかった。

それはそうであろう、追い掛けてきたギルガメッシュの顔を知っている者も居れば、冒険者ギルド内には昨日ハルクを探すのを手伝わされて報酬をもらってない冒険者も居たのだ。


「ギルさん、こいつらがなにか?」

「あんっ?おぅサブマスター、こいつ等な俺に詐欺を働いた上にアーバンの道具屋の店内を滅茶苦茶にして行きやがったんだ」

「えぇっ?!」

「なっなにしてる!?コイツは魔族だ人間じゃないんだ!サブマスター!!!」


バーディが叫ぶが気にする事無くサブマスターはギルガメッシュと会話を進める。

勿論、入り口はバーディ達が冒険者ギルド内に入ってきたのを確認したサブマスターの合図で受付の者が封鎖を行っていた。

バーディ達を逃げられないようにした上でサブマスターは口を開いた。


「お前達、何を言ってるんだ?この人はこの町の最高ランクであるSランク冒険者のギルガメッシュさんだぞ」

「「「・・・・・・っえぇええええええええええええええええええ?!」」」


その言葉を理解するのに時間が掛かったのか、固まった3人は間を置いてから一斉に叫び声を上げた。

その隙を見逃す筈がないのはその場に居る冒険者達だ。

先程ギルガメッシュが口にした言葉、3人がアーバンの道具屋の店内を滅茶苦茶にしたと言う事。

この町の冒険者にとってアーバンの道具屋は最もお世話になっている店である。

そして、査定を担当する冒険者ギルドの受付が見ている前で犯罪者を取り押さえられたら評価が上がるのは間違いない。

バーディ達は自分達が考えた多勢に無勢をその身を持って味わう事となったのである、しかもこの場に居る全員がDランク以下の冒険者である。


「くそっなんだお前等?!離せっ!」

「止めろ!俺たちじゃない!あっちだ馬鹿!」

「止めてくれ!ワシ魔道士なんじゃぞ?!」


一気に取り押さえられクリムは魔法が使えないように口に布を巻きつけられた。

怒鳴って文句を言うバーディに対してサブマスターが近寄って睨み付ける。


「さて、君達には幾つか聞かなければならない事があるんだが・・・」


そう言ってサブマスターが右手を上げるとギルドの奥から男が1人歩いてこちらへ向かってきた。

3人はその姿を見て唖然としていた。

当然であろう、その人物は自分がハメようとした相手・・・


「ミシッド?!お前なんで?!」


奥から出てきたのはバーディ達がハメようとしたミシッドであった。

ミストが叫びバーディが続けてサブマスターに叫ぶ!


「サブマスター!こいつだ!こいつ俺達の仲間のハルクを殺した張本人なんだ!」


この場を誤魔化して何とかして逃げ出そうと叫んだ言葉だったのだがその言葉に耳を全く貸さずサブマスターは3人を見下しながら口にする。


「仲間のハルクを殺した?それは彼の事か?」


そう口にしてサブマスターが合図を送ると奥から受付嬢に手を引かれながら出てくるハルク。

まだ少しダメージが残っているのか少し歩き辛そうにこちらへ歩いてきた。

その場に全員が集まったところでサブマスターの口からそれは語らえた。


「紹介しておこう、彼はミシッドではなく『ジャガー』私がお前達へ送り込んだ冒険者ギルド査定員だ。前々から依頼者からのお前達の評判が悪かったのでBランク冒険者として相応しいかの査定の為に潜り込ませて貰っていた。彼の記憶そのものを封印していた為に気付かなかっただろ?」


それは殆どの冒険者が知らない事実。

冒険者ギルドでは上級と呼ばれるCランク以上の冒険者は貴族や王族と言った上位の立場の人間の依頼を受ける事が多くある。

その為、人間性や能力などが審査されるのが普通なのだ。

そこで行なわれるのがAランクの実力を持つギルド職員が潜入操作と言う名目で自らの記憶を改ざんし、パーティに潜入して査定する方法であった。


これの恐ろしいところは上位ランク冒険者は潜入してきた者の記憶や考えを読み取る能力を持っている場合がある。

それに備えて特殊なアイテムを使用して記憶の改ざんを行なっていたのだ。

しかし、ジャガーがミシッドとしてパーティに潜り込むまでは冒険者ギルドは彼等を信頼していた。

何故ならば依頼主からのクレームの件数は非常に多いのだが、ギルド内では評判は凄く良く、人付き合いも良いと言われていたからだ。

その一番の理由がバーディ達のパーティは依頼選択や報酬受け取りは全てハルクが行なっていた為に礼儀正しいハルクの姿しか冒険者ギルド側は把握していなかったのだ。


そして、記憶の改ざん。

これにより本人の持つスキルや知識が使えない状況を作り上げ必要最低限の補助のみで査定を行なえる様にするのが狙いであった。

この時、潜入調査をする者には一つの枷が付けられる。

それが犯罪行為を行おうとした時に記憶を強制的に引き戻す枷であった。


「さて、役者はそろったようなのでそのまま聞いていて下さい」


そう言いバーディを見下ろすようにサブマスターは受付嬢が持ってきた用紙に書かれていた事を読み上げていくのであった・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る