第17話 持ち帰った魔物がとんでもない値段つきました

空が徐々に明るくなり始め町の様子を照らし出す。

物々しい雰囲気のまま森の方へ小さな防壁を幾つも作り、ジッと耐え続けていた冒険者達の顔を照らす。

その後方には町の入り口近くにテントを張って夜通し待機していた冒険者ギルドのサブマスターが苛立ちを抑えながら座っていた。


「被害が出てないのは良いのだが・・・」


昨夜からギルドマスターと交代でコノ場所に待機を命じられ意気込んでいたにも関わらず何も起こっていないのだ。

それでも何件か状況を知らずに数日前から森の中入っていた冒険者達が居て、帰ってきた際にベアマウンテンと戦ったと言う話が出ていたので気を張っていた。

その内の1グループが不思議な事を言っていたのだ・・・


『俺らでベアマウンテンを1匹討伐したんですが、死体がそのまま消えちゃったんですよね』


勿論これは物々しい状況を見て知り合いの冒険者に話を聞いて『ベアマウンテンの大群が町を目指している』と言う話と『討伐すれば普段の数倍の報酬が出る』と言う事を知って嘘を言っていたのだ。

だがそれを嘘と証明する事も出来ず、冒険者側も確認もこの状況ではし様が無いので騙せればラッキーと考えて付いた嘘なので謎が謎を呼び物々しい雰囲気は更に思い空気となって陣を支配していた。

そんな陣営に変化が訪れた!


「なっなんだ?!」


防壁に身を隠していた冒険者の一人がそれに気付いて声を上げた。

テントの正面、町の入り口近くに魔力が突然集まりだしたのだ。

ソレを見て町の入り口に居た兵士は声を上げて行動を開始する。

そう、帰還石を使って戻ってきた者が出現する時の現象である。


「誰か帰還石で戻ってくるぞ!その場所を空けろ!」


冒険者であれば誰もが知っている帰還石、だが実際に戻ってくるところを見た者は少なかったので誰もそれがそうだとは気付かなかったのだ。

帰還石自体が非常に高価であまり使用されない事も理由の一つにあった。

慌てて魔力が集まる場所に置いてあった防壁を避ける冒険者。

そこへ担架といつもの救急箱を持って兵士がやって来る。

時間にして約30秒、帰還石での帰還の際に事故が起こらない様に設けられた猶予で開けられたスペースに彼等は姿を現した。


「「「「「えっ?!」」」」」


その光景を見た誰もが固まった。

そこに現れたのは2メートルを超える長巨大サイズの真っ黒のベアマウンテンだったのだ。

突然現れたそれに誰もが後ずさりをする中驚きの声が上がる。


「んんっ?!なんだこりゃ?!」


その声に視線が集まる、巨大な真っ黒のベアマウンテンの後ろに立っていたその人物。

そう、Sランク冒険者のギルガメッシュである。

物々しい町の入り口に用意された防壁と冒険者達に驚きの声を上げたのだ。


「ギ、ギルガメッシュ?!」


魔力の集まりに気付いて近くまでやって来た冒険者ギルドのサブマスターが声を上げてその人物がギルガメッシュだと誰もが理解した。

そして、その横に居る5人の手には大量の月の雫草が在った。


「おっ?なんか良く分からないがサブマスターが居るなら話は早いな、今帰ったぞ」


その言葉とそこに在る黒いベアマウンテンを見て誰もが理解した。

ギルガメッシュがベアマウンテン騒動を解決したのだと・・・


「とりあえず俺達だけじゃこれ運ぶの大変だから誰か呼ぼうと思ってたんだがこれだけ人数居れば大丈夫そうだな」


そう言って黒いベアマウンテンをペシペシ手で叩くギルガメッシュ。

その言葉にサブマスターは近くに居た数名の冒険者に手伝いを要請しベアマウンテンを一度冒険者ギルドまで運ぶ事となった。

その道中サブマスターはギルガメッシュから話を聞くのだが・・・


「ギルガメッシュ、アレはもしかして・・・森の中で?」

「あぁ、やばかったよ。俺1人だったら確実に負けてた。後ろの5人が居なかったら勝てなかったよ」


その言葉にサブマスターは視線を送るが余り見覚えの無い5人に首を傾げる。

いや、正確には町の冒険者だとは分かるのだ。

だがサブマスターが顔を覚えていないくらいでしかない5人なのだ。

だがギルガメッシュの言葉を信じるのだとすれば・・・


「そうか、彼等が月の雫草の?!」


その手に持っている大量の月の雫草を見れば直ぐに分かるとは思うのだが黒いベアマウンテンに目を奪われすぎていたのだ。

そして、冒険者ギルドに戻り査定部屋に運び込まれた。

運んでくれた手間賃をギルガメッシュが冒険者達に支払って冒険者達が出て行ってから鑑定士が直ぐに鑑定をした結果・・・


「な・・・なんじゃこりゃ?!」


裏返った悲鳴の様な叫び声が冒険者ギルド内に響き渡る。

それはそうだろう、鑑定士の鑑定の結果が本当にやばかったのだ。


「ぜ・・・全部丸々魔石でできとる・・・」

「「「「「え”え”っ?!」」」」」


その言葉にサブマスターも近くで作業をしていたギルド職員も裏返った声を上げた。

本来魔石とは魔物の心臓内に存在する石で魔力を秘めている。

その大きさは人間で言えば成人で約250グラムの心臓内に存在する心臓の鼓動の妨害にならないサイズなのである。

あのベアマウンテンですらその魔石の重量はせいぜい50グラムも無いくらいなのだが・・・


「測定の結果・・・重量・・・135キロ・・・」

「「「「「・・・・・はぁぁぁぁぁぁ?!!!!!!」」」」」


ダイヤモンドを想像して貰えれば分かりやすいだろうか、1カラットが0.2グラムと計算されるダイヤ。

値段にして10万円~高品質であれば200万円と言われるがそれが10カラットになると60倍以上になると言われている。

これは単に大きいダイヤモンド自体が希少だと言う事もあり値段が跳ね上がるのである。


つまり、重量100キロを超えるベアマウンテンですら50グラムでしかない魔石。

それが135キロともなればその価値は・・・


「推定金額・・・金貨・・・約4億530万枚・・・」


金貨500枚で一軒家を購入して半年は遊んで暮らせる額である。

この国の国家予算が年間金貨3000万枚と言うのは王族クラスでしかしらないのだがそれの10倍以上である。


「し・・・しかもこれは通常計算の場合です・・・希少価値を考えるとこの300倍は・・・」


金貨1000億枚超え・・・

それはこの世界に存在する全金貨の枚数を遥かに凌駕した枚数であった。

それを聞いて唖然と口を開けたまま鼻水まで垂らし始めたサブマスター。

天文学的過ぎて理解の及ばないハルク達、そしてその魔石の塊が実は神話上に出てくるSSSランクを超えるΩランクと言われる伝説の魔物『パラノイアスライム』が月の雫草によって更に進化した結果生まれた奇跡の産物だと話したら金額が兆を超えるのかワクワクしているギルガメッシュ。

勿論、手に持っている月の雫草ですら全部換金するほどの金貨が残されていない冒険者ギルドにそんな余力は無いのだが、それどころではない状況に誰一人として動けなくなっていた。

そんな状況ではあるが前もってこの状況を予測していたギルガメッシュ達は互いの顔を見合わせて頷いて告げる。


「安心して下さい、これはギルドに寄付します」


それが何を意味するのか一同は全く理解できず言葉にならない声を出しつつ発言したハルクを見る。

実際にこれを所持していたとしても邪魔な上に、月の雫草のお陰でお金には全く困っていない。

なによりパラノイアスライムを倒したハルクが、金よりも新しい仲間が無事だったのでそれ以上を望んだらバチが当たると言った言葉に誰もが感動した結果全員賛成でこうする事が既に決まっていたのだ。


「まっそう言う事だから飾るなり錬金術師に細かく砕いて売りつけるなり好きにしたら良いってさ」


ギルガメッシュのその言葉に口を開けたまま頷くサブマスター。

そして、一緒に所持していた月の雫草を提出し・・・


「こっちは換金して口座の方に入れて置いて下さい」


その言葉に口を開けたまま頷くギルド職員達。

そのままハルク達は楽しそうに冒険者ギルドを後にする・・・

彼等が立ち去った後も暫くその部屋に居た者達は口を開けたまま身動き一つする事が無かった。






「それじゃ俺はちょっと行ってきます」

「あぁ、一緒じゃなくて大丈夫か?」

「えぇ、スズも良いよね?」

「うん、金貨50枚くらいもうどうでもいいよ」

「それじゃまた後で」


冒険者ギルドを出たハルクは皆に話していた通り回収した短剣をミストに返却する為にバーディ達が泊まっている宿へと向かう。

昨夜ギルガメッシュと話をしてバーディ達に返却せずに渡すかどうするかと言う話になったりもしたのだが・・・


『だが俺はあいつ等と買い取るって約束したんだ。だから気持ちは嬉しいがそれは戻してやってくれ、冒険者をやってる側からすれば「依頼を受けて働いたのにも関わらず既に手に入れたからもう要らない」って言われたら嫌だろ?』


と言われ納得した結果であった。

そして、ハルクはもう戻る事は無いと思っていたバーディ達の泊まる宿『秘空亭』へと辿り着いたのであった。

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