第16話 恐ろしい魔物と戦いました

『コワイ・・・コノ生キ物凄ク怖イ・・・』


自身の体を次々と細切れにされ削られていくパラノイアスライムは恐怖した。

反撃をしようにも自分には爪も牙も無い・・・

なのに目の前の生き物は一方的に自分に攻撃を仕掛けてきているのだ。


『モット・・・強イ・・・アレミタイニ・・・』


キリンは高い所の葉っぱを食べる為に首を伸ばした。

象は鼻を伸ばし、鳥は空を飛ぶように進化した。

その過程で必要なのは求めると言う事。

パラノイアスライムは進化をし続け自我を持った事で恐怖を覚え進化を願った。

自分を攻撃している生き物を撃退する為に・・・


『アンナ爪ガ・・・アンナ牙ガ・・・アンナ体ガ・・・欲シイ!』


今なおパラノイアスライムの下に在る月の雫草はその体に吸収消化され続けていた。

そして、奇跡は起こった。

パラノイアスライムは体内に在る唯一の固体であるその核を変化させていった。

そして、それは自身が過去に見た最強の生物でここを縄張りとしていたアレ。

ベアマウンテンへとパラノイアスライムは自身の核を進化させたのだ!





「み・・・皆、上だ!」


ハルクの叫びに誰もが上を見上げ固まった。


「お・・・おいおい・・・嘘だろ・・・」


Sランク冒険者であるギルガメッシュすらもその有り得ないモノに目を疑った。

巨大なパラノイアスライムの中に真っ黒のベアマウンテンが居たのだ。


「きゃぁっ?!」


上を見上げていた事で足元がお留守になったマリアの悲鳴が上がった。

触手に足元を払われたのだ。

幸い引きずり込まれはしなかった。


「大丈夫?!」

「平気!それよりも急がないとアベルが!」


慌てて立ち上がって一歩下がったマリアであるが既に体内に取り込まれたアベルの事を気にする。

それはそうだろう、体内に居れば呼吸が出来ないのは当たり前なのだ。


「仕方ない、ちょっと大技行くぞ!」


焦るマリアの様子を見て急ごうとするギルガメッシュは一か八かの大技を仕掛ける事にした。

体内に取り込まれたアベルを巻き込んだらどうしようと考えていたのだがハルクの力で運よく回避してくれる事に期待したのだ。


「うぉおおおおおおおおおおお!!!!」


ギルガメッシュの宣言に合わせてテラとマリアとスズは直線状から横へ避けて魔法でパラノイアスライムを削る!

その間にギルガメッシュは何度も何度も水平に手にした大剣を切り払う!

素振りをただ行っているだけにしか見えなかったその動きであったが直ぐにそれは現れた。

見える空気の斬撃である!

空中に巨大な刀傷の様な物が出現し素振りを繰り返すたびにそれはどんどん巨大化していった!


「いくぞ!必殺『重斬飛燕烈刃』!」


最後に行なったのは下からの斬り上げであった!

水平に出来ていた斬撃は下からの斬り上げに動き出しそのまま斜め上へと飛び上がっていった!

目指すは上空にある黒いベアマウンテン姿の何か、ギルガメッシュはアレが核なのだろうと予測していたのだ。


放たれた斬撃は真っ直ぐに黒いベアマウンテン目指して飛んでいきパラノイアスライムの表面に接触した瞬間弾けた!

何重にも重ねられた斬撃がパラノイアスライムの体を切り裂きながらその体内を細切れにしていく!

恐ろしいのはその傷口であろう、表面上は横に真っ直ぐ切られただけの傷なのにその内部では物凄い数の斬撃が暴れ狂っているのだ!

もしもそれが他の魔物に放たれていたら、見た目は横に切られただけなのにその内部では筋肉から内臓、骨に至るまで内部を破壊され尽くすだろう。


「二人共適当に魔法を打ち込め!」

「ホイきた!」

「よーし!」


ギルガメッシュの言葉に合わせて横に避けていたスズとテラが魔法を打ち込む!

見ていたマリアは一体何故あちこちに攻撃をするのか疑問に思いながらも補助魔法を唱える。

唯一後ろに下がっていたハルクだけはギルガメッシュの作戦に気付いていた。


「上手い!流石だ・・・」


魔法も使えなければ飛び道具も無いハルク、一応拾った短剣を手にはしているが前に出れば逆に足を引っ張るだけなのが歯痒かった。

それでも何か出来るかもしれないと常に集中し仲間の危機には声を出して知らせるつもりであった。

そんな彼だからこそギルガメッシュの作戦に気付いたのだ。

すなわち・・・


「そう、それでいいんだ!」


スライムは正面に居るギルガメッシュだけでなく左右に分かれたテラとスズの方へ攻撃をしようと触手を左右にも伸ばした。

その結果、真正面が薄くなるこの瞬間を狙っていたのだ!

ダッシュで前へ進んで一気に飛び上がるギルガメッシュ!

大剣をグルグルとヘリコプターの様に回転させ平べったい斬撃を頭上に作り出してそのままパラノイアスライムにつけた傷目掛けて突っ込んでいく!


「これで・・・終わりだぁあああ!!!!」


円盤状に作り上げられた斬撃の中心を剣で貫くように突き上げそのままパラノイアスライムの体に突き刺した!

ソレと同時に斬撃が回転をしてパラノイアスライムの体内へ突き進む!

それはまさしく漢のロマンのドリルそのものであった!

既に中がボロボロになったパラノイアスライムの核への道をその斬撃が突き進む!

だが、そこで異変は起こった。


「なっ?!」


それはギルガメッシュも予想していなかった。

パラノイアスライムは願い進化をするための条件が全て揃っていた。

その結果・・・パラノイアスライムはその体を完全に液状化させたのだ。

目の前でゲル状であったパラノイアスライムが突然完全な液体となって重力に従って下へと潰れる。

全長何メートルあるのか分からないその体の全てが突然液体化したのだから、まるで津波の様に一気に周囲へ流れ出る!

直ぐ近くに居たギルガメッシュも左右に分かれていたスズとテラも、そして魔法で障壁を生み出していたマリアすらも巻き込まれ押し流された!


「み・・・みんなぁあああ!!」


1人離れた場所で観察しているだけだったハルクのみが咄嗟に近くの木に登って直撃は避ける事が出来たのだが・・・

あまりにも悲惨な状況にハルクは木にしがみついたまま愕然とする・・・

押し流された仲間は木々に叩きつけられその場に倒れる。

液体化したとはいえスライムの体液をモロに食らったのだ。

下手をすれば体内にまで侵食されて中から溶かされる事も・・・

眼球に掛かれば視力を失うのもありえるその状況にハルクはただただ仲間の安否を目視することしか出来ない。

そして、そいつはズーン!と言う大きな音と共に降り立った・・・


「ぐごぉおおおおお!!!!」


そこに居たのは全身が黒いベアマウンテン。

パラノイアスライムの核が進化を遂げた魔物である。

周囲の地面には浸るくらいのパラノイアスライムの体液が残り下へ降りれば自身も溶かされるのは明白。

だがこのままでは意識を失っている仲間が死ぬのも間違いない。

ハルクは意を決して木から飛び降りた!


「くそっ!やるしか・・・やるしか無いんだな!」


手にしたあの短剣を握り締め黒いベアマウンテンに向かって走り出した!

パラノイアスライムの体液でぬるかみの様になった地面は非常に走り辛く、ただでさえ低いステータスのハルクは非常にゆっくりと黒いベアマウンテンへと駆けていく!

今ココで自分がやらなければ仲間が全員殺される、バーディ達とは違い本当の仲間だと自分の事を認めてくれた彼等を失うなんて・・・


「いやだあああああああ!!!」


Sランク冒険者のギルガメッシュすらも勝てなかったΩランクの魔物相手に自分が何か出来るわけも無い。

普通ならそう考えるが自分の力を信じてくれた仲間の為にハルクは命を賭けたのだ!

そんなハルクに向かって黒いベアマウンテンの手が振り上げられ・・・一気に降ろされた!


「がっ?!」


地面へと叩きつけられるように攻撃を食らったハルクは地面をバウンドして転がる。

全身にパラノイアスライムの体液が付着するがもうそんな事を気にする必要もなかった。

何故ならば、ハルクのHPは今の一撃で一桁まで減少していたからだ。

もう立ち上がる元気すらも残っておらず仰向けになりながらハルクは朦朧とする意識の中考えた・・・


「せ・・・せめて・・・一度くらい言っておけば良かったかな・・・スズ・・・実は僕・・・君に一目惚れしてたんだよって・・・」

「・・・本当?」

「えっ?」


全身にあったダルさがマシになっているのにハルクは気付いて目を開くとそこには・・・ハルクを覗き込むスズの照れた顔が在った。

直ぐ横にはマリアがハルクに回復魔法を使用しており全身の痛みは殆ど取り除かれていたのだ。


「あれ?・・・生きてる?」

「うん・・・暫く意識失ってたみたいだけど・・・ハルク凄いよ・・・」

「へっ?」


そう言われハルクがゆっくりと上体を起こして正面を見ると・・・

そこには振り下ろした腕に短剣が突き刺さった黒いベアマウンテンが立っており動かなくなっていた。


「どうやらこいつはパラノイアスライムの核で間違い無かったみたいだな」


そういうギルガメッシュはハルクが意識を失っている間に分かった事を教えてくれた。

そもそもスライムの核とはスライムの体内にあるだけあって非常に脆くスライムはそこを攻撃されると死ぬ。

そして、パラノイアスライムは進化の過程で多分ここを縄張りとしていたベアマウンテンに憧れてそうなりたいと進化を望んだ。

だが全身がゲル状の生態であるパラノイアスライムがその姿になる為には体の中の唯一の固形である核を進化させるしか無かったのだ。

その結果、パラノイアスライムは核を黒いベアマウンテンへと進化させたのだが・・・それでも脆いスライムの核には違い無かったのである。


「ハルクに攻撃を仕掛けた腕に短剣が刺さってお陀仏って事みたいだな」


納得がいかない、だが皆が無事ならそれでいいやとハルクは横にいるスズに微笑みかける。

そして、その直ぐ後ろに居るアベルに気付いて驚きの声を上げた!


「あっアベルさん?!大丈夫なんですか?」

「あー・・・うん、なんか取り込まれたんだけど・・・不味かったのか反対側に吐き出されてさ・・・何とも無かったんよ」


そう、ハルクの能力が関係しているか分からないがこのパラノイアスライムは変異種で・・・完全なベジタリアンだったのだ。

その結果、人間は食べれないという事で消化せずに排出されたのであった。

それを証明するように地面にまだ残るパラノイアスライムの体液は地面の草は消化しているが人間は一切消化されて居なかった。

この場に居る誰も気付いては居ない。

ハルクがこの場に居たから女神の加護で全員が生き残れるように運が良かったという事は・・・

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