第15話 短剣を回収したら恐ろしい魔物が現われました
月の雫草の群生地、本来であればここはベアマウンテンが縄張りとしている為に他の動物も魔物も寄り付かない。
だがハルク達によってベアマウンテンが倒されてしまった為にそれが崩れていた。
「ウジュル・・・ウジュル・・・」
偶然にもそこへ辿り着いたのは1匹のスライムであった。
本来最弱の魔物とされるスライムであるが偶然にもこのスライムは変異種と呼ばれる特殊固体であった。
基本的にスライムは木の実や動物の死骸を消化吸収する事で栄養を摂取する。
だがこの固体は植物を摂取する事で栄養を取り込む特殊固体なのであった。
「ウジュル・・・ウジュル・・・ウジュ?!」
本来であればそこに生えていた月の雫草には目もくれないスライムであるがそのスライムはそれを取り込んだ。
その結果奇跡的な確率でスライムは進化を開始したのだ。
しかも群生地というだけあって月の雫草の本数はとんでもない。
一定数取り込んだ事で月の雫草の効果でこのスライムは進化を次々と行い続けた・・・
過去に見た魔物の中で最も強かったベアマウンテン、そいつを見た時に理解した姿形へと変化していった。
一方その頃、ギルガメッシュを含むアベル一同は森の中を進みながら改めてハルクの能力に驚愕していた。
なんとここへ到達するまでに魔物に殆ど遭わなかったのである。
それでも何度か遭遇したとしても手負いだったりこちらに気付いていなかったりしていたのだ。
更にはまるで一同をそこへ誘導するかのように枝分かれしているルートの中で最も歩きやすいルートを運よく選択していたのだ。
「すげーな・・・これは本物だぜ」
「えぇ、全く・・・ハルク君を追放したメンバーは一体何を考えていたのかと思うね」
普段は他人を悪く言うことなんて滅多に無いアベルが口にした言葉に誰もが頷く。
最初に口にしたギルガメッシュも奇跡の連続の様な出来事に珍しく興奮していた。
長年冒険者をやっていて探索も数え切れないほど行なっているからこそラッキーなんてレベルではない事を理解しているのだ。
「うわっ?!」
「大丈夫ハルク?」
「うん、ごめんスズ」
パーティの幸運と比例して不運がハルクに襲い掛かっているかのようにも見える些細な出来事が何度かあった。
木の根に躓いたり振り返った時に顔面に葉っぱがぶつかったり。
だがその結果スズがハルクに優しくしているので決して悪い事ではないのだ。
「ス・・・スズ・・・ちょっとくっつきすぎじゃないかのぅ?」
「お爺ちゃんは前見て進んで」
「う・・うぬぅ~」
解せぬ!と言わんばかりの表情を浮かべながらマジックアンカーの方向を目指して先頭を進むテラとアベル。
道案内として先頭を歩かなければならないので護衛としてアベルが横に歩いているのだ。
その直ぐ後ろにギルガメッシュ、そしてハルクとスズ、最後尾にマリアと言う隊列で進む一同はそのまま目的地へと僅か8時間ほどで到着した。
「もう着いてしまったのぅ・・・」
「流石ハルク君の能力ですね、それであっちでしたよね?」
月の雫草の群生地近く、ハルクとアベル達が出会った場所は草むらに入らずに奥へと進んだ場所である。
そちらに向かって一同は進みハルクはあの時に折れた枝を遂に発見した。
「あっありました!ありましたよ!!」
「おっ良かったじゃないか!さて、俺は群生地の場所を知るわけには行かないだろうからこの辺りで素材採取でも・・・」
そこまで言ってギルガメッシュはハルクが手にして持ち上げた短剣を目にして開いた口が塞がらなくなった。
それはそうであろう、遠めで見てもその短剣の柄に描かれたマークが分かったからである。
それこそが自分が探して町まで来た理由なのだから・・・
「お・・・おいそれ・・・」
「在って良かったね」
「あぁ、これでスズの金貨50枚も回収出来るからね」
「別にそれは良いだけどね」
ハルクの手から取り上げてじっくり観察したい衝動に駆られるがSランク冒険者としてギルガメッシュはルールをしっかりと守る。
幾ら自分が探していた物だとは言っても、とりあげるなんて事は絶対にしないのだ。
そして、今までの会話からハルクの置かれている状況やバーディ達の事も頭の中で話が繋がった。
だがギルガメッシュはそれ以上踏み込まない、短剣がハルクを通じてバーディ達に渡ったとしてもそれを買い取ると約束した以上は手に入るのだから。
自分は依頼した立場なので別ルートで手に入るとしてもそれを行なわない紳士なのであった。
「まっいっか、とりあえず俺はこの辺りに居るから帰る時は声を掛けてくれよ」
「分かりました。それじゃ行こうか」
短剣を無事に回収した一同はギルガメッシュと分かれ、その足で来た道を戻って草むらの中へ足を踏み入れていく・・・
予定よりもかなり早く来れたのでゆっくりと月の雫草を採取出来る、なので夕飯は何処かで美味しいものでも食べようかと考えていたアベルであったが突然それに襲われた。
「えっ?」
気の抜けたたった一言。
足首に巻きついた何かに気付いた次の瞬間アベルの足は強く引っ張られ転んだ状態で一気に草むらの奥へと引きずられて行く。
「あ・・・アベル?!」
慌てて名前を叫んで追いかけようとするマリアであったがそれよりも先にテラが動いていた!
年の功か慌てずに呪文を唱えてアベルが引っ張られた方向へ風の刃を放つ!
その魔法がハルクのお陰で予想以上の威力を持っているというのは理解しているので無詠唱で素早く放つのを意識したのだ。
ブギュッブジュッ!!!
まるで液体を斬りつけたような音が聞こえハルク達はそれに気付いて言葉を失った。
見えてない、いや見えているのに見えていなかったそいつは直ぐ目の前に居たのだ。
殆ど無色で透き通って見える巨大なスライム。
あまりにも巨大で分からなかったのだ。
「あ・・・あ・・・べ・・・る・・・いや・・・いやぁああああああああああああ!!!」
マリアの叫びが響き渡る。
そこに居たのは巨大なスライム、その体内へ一気に引きずり込まれたアベルは叫び声を上げるまもなく取り込まれた。
基本的にスライムはその体内へ獲物を取り込んで消化吸収して獲物を捕食する。
それが意味するのは・・・
「スズ!全力で一気に削るぞい!」
「うん分かったお爺ちゃん!」
『フレイムリングショット!』
『ストーンバレット!』
叫ぶマリアを無視してテラとスズが同時に呪文を唱え始める。
基本的にスライムは物理攻撃が効かない、なので魔法で攻撃するのが基本となるのだ。
更にその巨大なスライムの正体が全く分からない以上は基本に従って戦うしか方法は無かった。
しかし・・・
「なんじゃと?!」
「うそっ・・・」
テラからは火の魔法が、スズからは土の魔法が放たれたのだがどちらもスライムの体内に打ち込まれたと同時に消化されてしまったのだ。
そして、スライムは攻撃を仕掛けてきたテラとスズへ向かって足元の草の中を通って触手の様な物を伸ばしてきていた。
「スズ!飛べい!」
「えっ?あぁ?!」
咄嗟に飛び下がったテラは回避したのだがスズは足を捕まれて引っ張られてしまった。
だがスズの足に巻きついた触手は次の瞬間細切れに切断された。
「大丈夫か?!なっ?!こ・・・こいつは!」
風と音を後から追いつかせるように突如現れたのはギルガメッシュであった。
マリアの叫びを聞き音速を超えた速度で駆けつけたのだ。
そして、ギルガメッシュは目の前に居る巨大なスライムを目にして驚き目を疑う。
「ギルさん・・・アベルが・・・アベルが・・・」
マリアが泣きながらギルガメッシュに話しかけるがギルガメッシュの耳には届かない。
それはそうであろう、ギルガメッシュは初見の魔物と対峙した時でも対処を行なえるように『ライブラリング』と言う装備を着けていたのだ。
そして、ギルガメッシュは目の前のスライムを見て口に出して語る・・・
「神話上に出てくるSSSランクを超えるΩランクと言われる伝説の魔物・・・パラノイアスライム・・・」
それはかつて神と神が争った時に信者を滅ぼす為に生み出された神話の魔物。
誰もがその話を一度は耳にした事がありその恐ろしさを瞬時に理解した。
ありとあらゆる生命を取り込んで巨大化し続け世界を滅ぼすとされる伝説の魔物。
魔法も殆どの属性をその身に取り込み栄養とする事から神すらも手を焼いたと言われるその存在が今目の前に居るのだ。
だが・・・
「風の刃は通じるみたいじゃ!手が無いわけでは無いぞ!」
テラである、最初の無詠唱の魔法攻撃やギルガメッシュの攻撃が通用した事から突破口はこれだと確信し声に出す!
神話上では世界を覆い尽くす程の大きさになったとされているが今ならばまだ・・・
そのテラの言葉にスズも戦意を再び持ち叫ぶ!
「マリア!まだアベルが死んだわけじゃないよ!」
そうである、スライムは獲物をゆっくりと消化する。
いくら体を溶かされ始めていたとしても自分達にはハルクの能力と月の雫草がある。
最悪死んでなければなんとか出来るかもしれないのだ。
だからまだ間に合うかもしれない!
「うん!」
手にした杖を握る手に力を込めてマリアも立ち上がる。
本来であれば絶望の2文字しかありえない状況にも関わらず誰一人として諦める者なんて居なかった。
その様子をチラリと見たギルガメッシュは口元を大きく歪め手にした剣に魔力を込める!
「パラノイアスライムだと言っても体内の何処かに核が絶対にある筈だ!それを破壊できれば俺達の勝ちだ!いくぞ!!!」
ギルガメッシュが目にも止まらぬ速さで斬撃を行い最後に突きを放つ!
まるで空間に固定されたかのように物凄い数の斬撃が一つの塊と成りそれがパラノイアスライムに突っ込む!
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!!!!!
まるで中央をくり貫くようにその一撃はパラノイアスライムの中心を細切れに抉り取りながら突き抜けていく!
それに続くようにテラとスズが風属性の斬撃魔法を放つ!
抉り取られた部分へと飛び込んだ魔法は中で真空の刃と化してその中を蹂躙するように切り刻む!
パラノイアスライムもただやられているだけでは無いとばかりに触手を再び向かわせるが・・・
「無駄です!バリアウォール!」
マリアが杖を地面に突き立てて魔法を唱えると目の前に薄い壁が生まれた。
触手は構う事無くその壁を貫こうとするのだが・・・
次の瞬間触手は細切れになって地面へと次々落ちていく・・・
「風の障壁魔法を出来るだけ細かく網目状に作った壁です!」
4人が風属性の魔法を上手く駆使して攻撃を仕掛けていく中、一番後ろで短剣を手にしたハルクはどうする事も出来ずオロオロとするだけであった。
だが誰もがハルクの能力によって全力で魔法をぶっ放しているにも関わらず、リアルタイムで魔力が回復している事に驚き感謝をしているなんて夢にも思わないハルク。
そんな中、戦っているメンバーよりも離れていたからこそハルクはそれに気付いた。
巨大なスライムの上部、そこにベアマウンテンの姿の黒い塊がある事に・・・
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