第12話 突然告白されました

民家のベットの上に横たわったまま目を少しだけ開けてこちらを見ている少女が居た。

スズに連れて来られたハルクは自己紹介を行いそれに小さく頷くだけの少女。

彼女がスズの親友リッカであった。

病気の進行を遅らせる為に調合された薬の影響で一日の殆どをベットの上で過ごす彼女は痩せ細っていた。

そんなリッカにスズは今回の冒険の話を聞かせアーバンの道具屋で調合して作り出した霊薬エリクサーを取り出した。


「おばさん、いいですよね?」

「それはこっちの台詞だよ・・・そんな貴重な物を本当に良いのかい?」

「これはスズの為に用意した物ですから」


部屋のドアの前に立つリッカの母親に確認を取る。

霊薬エリクサー、国宝級とも言われている瀕死の者まで完治させるという伝説の回復薬である。

その価値は計り知れず、本来であれば王族クラスが条件付で使用を認められる程の品である。


「ほらっリッカ、ゆっくり飲んで・・・」


小さく開いたリッカの口に霊薬エリクサーをスポイトの様なモノで少しずつ飲ませていく・・・

その効果は直ぐに現れた!

殆ど開かなかったリッカの瞳がゆっくりと開き口の中を湿らすだけであった霊薬エリクサーをコクンっと飲み込んだのだ。

青白かった顔色が徐々に赤みを増していき痩せて骨だけにしか見えない手が少しずつ浮腫んでいくように膨らんでいく・・・


「けほっ・・・えほっえほっえほっ・・・」


仰向けのまま液体を飲み込んだ事で気管に入ったのか突然咽だすリッカ。

だが直ぐにそれも落ち着きリッカは自らの両手を顔の前に持ってきて見詰め涙を浮かべる・・・


「治って・・・治ってきてる・・・治ってるよ・・・」

「リッカ、良かった本当に良かった!!」


持ち上げられていたその手をスズが上から握り涙を浮かべながら告げる。

そして、そのリッカの側によって泣きながらリッカの頭を撫でるリッカの母親。

幸せに包まれたその空間に1人居心地が悪いハルクであったがスズから近くに居て欲しいと言われていたのでその場に立ち尽くしていた。

そんなハルクにスズは振り返って突然抱き付いた!


「ちょっ?!スズさん?!いやっほらっちょっと待って?!」

「ありがとう・・・本当にハルクさんに会えて良かった。ありがとう!本当にありがとう!」

「ふぇっ?!」


突然告げられるお礼の言葉に混乱するハルク。

実はスズ、リッカの所へ行く時にはハルクを同行させるようにテラから言われていたのだ。

ハルクの持つスキル『加護の恵み』それは近くに居る仲間全てにその影響を与える。

その効果の中には自己治癒力超上昇と超速自然回復というものがあった。

霊薬エリクサー、確かにそれを使えばリッカの病気は治療へ向かうだろう。

だがリッカの病気を徐々に治すだけでリッカの病気の進行を遅らせる為に服用されている薬の影響は残ったままだ。

体力面でも霊薬エリクサーが回復させても直ぐに減少を始めるのだから完治には本来であれば日数を必要とする。

それ以外にも身体的に長い間ベットの上で生活をしていたリッカは筋力が衰えてまともに立つ事も出来ないだろう。

だがそれすらもハルクがそこに居るだけで自然回復するのだ!

まさにチート!他人に対してはまさに神掛かったチートスキルである!


「ス・・・スズ?随分と大胆になったわね」

「えっ?あっあはははははは」


リッカの言葉に慌てて耳まで真っ赤にして離れるスズ。

だが直ぐにスズからリッカの体が物凄い速度で回復しているのはこの場にハルクが居るからだと聞かされ親子揃って驚愕に包まれる。

リッカだけでなくその母親も長年のリッカの療養の為に心身ともに疲労していたのが気が付いたらすっかり癒えていたのだ。

そして、リッカの母親に手渡される金貨が大量に詰まった袋・・・


「えっ?スズちゃんこれは?」

「うん、今回ね・・・彼のお陰でとんでもないお金持ちになっちゃったの。だからこれはリッカの快気祝いって事で受け取って下さい」

「だ、だめよ!これは受け取れないわ・・・こんな大金・・・」

「おばさん、これはね冒険者である私の大事な親友をずっと延命させて頑張ってくれた報酬です。だから受け取って下さい!」


冒険者、それは依頼を受けてそれを達成し報酬を得る職業である。

であればそのお金は受け取るのがマナーだと言うのはリッカの母親も理解していた。

だが・・・


「で・・・でも・・・」

「リッカさんのお母さん、実は俺・・・スズが森の中へリッカさんの為に出掛けていなかったら1人で死んでいたんです。俺が助かってここにこうして生きているのも言い方が悪いかもしれませんがリッカさんのお陰なんです。だから受け取って下さい」


そうスズに続けて語るハルク、その言葉の通り渡された袋の中身の半分はハルクから出ていた。

だがそれが受け取る理由には全くなっていないのだがそれに突っ込みを入れるものは居ない。

正直、リッカの家庭は病気の治療の為に借金があったのだ。

それがスズから手渡された金貨を使えば全部返済しても全然余るのである。


「ねぇ・・・ハルクさんはスズと付き合ってるんですか?」

「「えっ?」」


上体をベットの上で起こしたリッカの言葉にスズとハルクが同時に聞き返す。

そして、リッカの顔を見て二人共・・・いやリッカの母親も気付いた。

赤みが戻ったどころではない、先程のスズと同じように照れて真っ赤になっているリッカ・・・

その目は真っ直ぐに先程と違う形で潤んでハルクを見詰めていた。

その顔を見てスズは思い出す。

小さい頃からいつも同じ男性を好きになっていた事を・・・


「私、スズと一緒だったら構わないので一緒に彼女にしてもらえませんか?」


突然の告白に目を見開いて固まるハルク、開いた口が塞がらないスズ、そして物凄く嬉しそうなリッカの母親・・・

大金を手にした将来性のある信頼の出来るお買い得な男性だとリッカの母親は理解し、自分と母親を治療した事からも感謝と不思議な魅力のある男性と感じ取ったリッカ。

昔から同じ男性を好きになっていた事を理解しているリッカは以前から考えていたのだ。

どうせだったら二人一緒に彼女にしてもらえばいいじゃん・・・と。

そんな桃色の修羅場空間が繰り広げられているその時、ハルクを探し回るDランク以下の冒険者達の姿が町中に溢れていた。

バーディとミストがハルクから短剣を回収しようと街中の手の開いたDランク以下の冒険者を集めて探させていたのであった・・・

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