第11話 バーディ達はアーバンの道具屋で困りました
「傷薬3つ頂戴!」
「こっちは錆び防止の粉を3つだ!」
「ありがとうございます。こちらは銀貨1枚、こっちは銅貨8枚です」
アーバンの道具屋では冒険者達が次々と買い物に来ており店員達は忙しそうに動き回っていた。
丁度その時に買い取りカウンターの方に到着したバーディ達は受付に出した月の雫草の査定を待っていたのだが・・・
「銀貨2枚だな」
「・・・はぁ?!」
騒がしかった店内にその声が響いて一気に静まり返る。
客達はガラガラの買い取りカウンターの前に居るバーディ達に視線をやってやりとりを眺める。
基本的に買い取りカウンターは夕方に訪れる人が多い。
依頼を受けて出掛けて帰ってきた時に要らなくなった物を売り払うのに訪れるのが普通なのでこんな朝早くから訪れるのは珍しいのである。
夜に帰ってきて依頼を完了したのであれば冒険者ギルドで売れるものは売ってそのまま宿に戻るのが普通であるから尚更であった。
「おかしいだろ?!月の雫草だぞ?!金貨2枚の間違いじゃないのか?!」
「おいおい、こんな並品質の月の雫草なんて本来ならもう価値なんて無いんだぜ。それでも低めの効果が欲しいって人も居るかもしれないと考えて買い取るって言ってるのに何言ってるんだ?」
「お前じゃ話にならん!店長を呼べ!」
バーディの怒声にアーバンの道具屋店長であるアーバンは忙しい中呼び出された事にイライラしながらも笑顔で対応に回る。
「どうしましたか?お客様?」
「どうしたもこうしたもないだろ?!月の雫草の買い取り金額がおかしいって言ってるんだ!」
「そう申されましても・・・現在の買い取り価格はもっと低いんですが・・・」
「馬鹿な事を言うな?!」
騒ぐバーディ、だが周囲の目は冷たいものでヒソヒソと会話が聞こえる・・・
「馬鹿だろアイツ、今朝月の雫草が群生地で見つかって価格が大暴落したってのに・・・」
「それよりも冒険者ギルド以外で月の雫草を売るのは御法度なのにあんな大声で・・・」
「しっ聞こえるよ」
そんな声が耳に届いたのかバーディは客の1人に視線を向けて詰め寄る。
「おいっ!今の話どう言う事だ?!」
「なっなんだよお前?!知らないのか?今朝方帰ってきた冒険者達が月の雫草の群生地を発見したって事で価格が大暴落したって話題になってるじゃないか」
そう言って客の1人が指を刺した先には先程冒険者ギルドが売りに来た大量の月の雫草が置かれていた。
それを見たバーディは唖然と固まる・・・
頼りにしていた月の雫草が高く売れない、それはつまり今回の依頼で準備に使うはずのお金が無いという事であった。
冒険者ギルドから支給された金貨を使って贅沢してしまった結果である。
森から逃げ出す時に用意していた回復薬等は全て使い切って居たので補充しておかないと困るのは目に見えていた。
「し、仕方ない・・・銀貨2枚で買い取ってくれ・・・」
「毎度あり~」
「っでその金で傷薬を買えるだけ暮くれ・・・」
「傷薬なら6つだけどそれは販売カウンターに並んで下さいねお客さん」
そう言われて銀貨2枚を受け取ったバーディであったが販売カウンターの方へ移動して再び唖然とする・・・
それはそうだろう、先程から引っ切り無しに冒険者達がギルドから支給された金貨で支度をする為に買い物に来ているのだ。
そこには傷薬と書かれた札だけが置かれた状態で残っていた。
「おっおい傷薬は?」
「あぁん?もうねぇよ、そっちのポーションにしておきな!すみませんねお客様」
別の客の対応をしている店員の肩を掴んで質問をしたバーディに不機嫌そうに返す店員。
その顔を向けられた方を見てバーディは固まる・・・
ポーション:銀貨3枚
「そっそうだ!」
バーディは慌てて店から出て表で待たせていた仲間の中からシーフのミストを連れて店内へ戻ってきた。
「どっどうしたんだよバーディ?」
「お前ハルクにあれ売った金まだ持ってるだろ?」
「ん?あぁ、銀貨30枚な。在るけどどうした?」
「すまん、何も言わず貸してくれ」
「はぁ?」
バーディに突然言われた言葉に疑問を抱くミスト。
それはそうだろう、月の雫草を売れば金貨2枚は最低でも手に入るからと先程贅沢に飯を食いに行ったにも関わらず突然のこれである。
それでもバーディの真剣な様子に違和感を覚えたミストは何も言わず金を渡す。
「ほらよっとりあえず早めに返せよ」
「恩に着る」
そう言ってバーディはポーションを幾つかとその他に必要になると思うものを買い揃える。
本来であればこれはハルクにやらせていた事もあり何がどれくらい必要か分からないバーディは森での事を思い出し必要以上に購入していた。
そうして買い物をすませミストの元へ戻った時であった。
「おや?ミスト様!丁度良かった店が落ち着いたら探そうと思ってたんですよ」
店長のアーバンがバーディの横に居るミストを見つけて声を掛けてきたのだ。
その対応がバーディと違いすぎた事に当の本人であるバーディは怒りを露にしているのだが気にした様子も無くアーバンはミストの正面へ移動する。
「あっアーバンさん、自分に何か?」
「えぇ、実は3ヶ月ほど前に頼まれてましたアレの件で・・・」
そう言って周囲に視線を送るアーバン。
それは他の客に聞かせたくないと言う事であり、それを理解したミストは店の奥にある商談室へバーディと共にアーバンと移動する。
アーバンはミストだけ誘うつもりだったのだが、そのミストがバーディを誘っていたので仕方なく何も言わずに受け入れていた。
ゆったりとした高級そうなソファに座りアーバンが話し始める。
「実はアレの事をずっと調べていたのですが今朝方とある方からそれを買い取りたいとご要望がありまして」
「へぇ・・・それでどれくらいで?」
話を合わせるミストであるが実は何の話をしているのかさっぱり理解していなかった。
それもその筈、3ヶ月前に彼等がBランクになった地下遺跡を攻略した際に偶然に手に入れたそれを酔った勢いで、価値の有るものだと適当な事を言ってたまたま同じ店に飲みに来ていたアーバンに依頼をしたのだから・・・
「それが驚く事にその方はかなりの高額でそれを買い取るとおっしゃっているのですが・・・」
そこで話を切るアーバン、それはそうだろうここまで調べる際に商人ギルドに依頼を回していたので費用が掛かっているのである。
その為、報酬の提示を待っているのだ。
だがミストも先程バーディに手持ちだった銀貨を全て渡してしまっていた。
基本的に調べ物の報酬は範囲と期間で金額が変わる、今回の件であれば商人ギルドへの依頼と期間が3ヶ月であるので大体銀貨20枚が相場であった。
情報は金なのである。
「すまないが今手持ちが無くてな、それでどうだろう。その売値の1%では?」
ミストもこういう事にはそれなりに慣れていた。
道具屋がかなりの高額と言うのであれば金貨10枚以上と言うのが相場だ。
であれば銀貨10枚とちょっと位であろうと予想しての事であった。
「良いのですか?!」
「あぁ、それで詳しい話を聞かせてもらえるか?」
ミストは机の上に置かれていた契約陣に手を置いて話す。
これは店での商談の際に約束を口約束で終わらせない為の魔道具であった。
今回の件で言えばミストはアーバンから詳細を聞かせてもらうのと欲しがっている客に会わせる事を条件に約束をしたのだ。
もし手元に無くても後から金を払えば良いやと軽く考えていたのだが・・・
「ありがとうございます。それでは、買い取りたいとおっしゃっているお客様はアレに金貨6000枚を提示されておりました」
「・・・金貨6000枚?!」
叫んだのはミストではなくバーディであった。
それだけ在ればパーティを再構築させるどころか暫くは遊んで暮らしても大丈夫である。
だがそれと共にミストの中に物凄い嫌な予感が駆け巡っていた。
ただでさえアーバンの話を聞いて客を紹介されれば手数料として金貨60枚を支払わなくてはならなくなったからでもあるが・・・
「それで、アレは今お持ちで?」
「・・・すみません、ちょっとアレってのに幾つか心当たりがあり過ぎて・・・」
ミストは必死に自分の宿屋の部屋に置いてある過去に手に入れたアイテムを思い浮かべてどれか考え続けていた。
あちこちのダンジョンにも挑戦した彼等は勿論色々なお宝を手に入れて帰っていた。
その中でもミストは不思議な力を持ったアイテムを好んで収集していた。
大半は価値の無い物であるがきっとその中にはお宝が眠っている事もある。
そう考えて色々集めていた甲斐があったのかと喜びたいところであったが妙な胸騒ぎにヌルヌルした汗が背中を伝っていた。
そして・・・アーバンが口を開いて2人は絶句する事となるのであった・・・
「ほらっ地下遺跡の最下層で発見したとおっしゃっていた。この紋章が入ったボロボロのあの短剣ですよ!」
そう、それはミストが森の中で使い道が無いと思ってハルクに売りつけたあの短剣の事であった・・・
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