第9話 ギルドマスターは勘違いをしてしまいました

大会議室で冒険者達に説明を終えたギルドマスターは一度自室へ戻ってきていた。

30分後に再び依頼を受理したCランク以上の上位ランクの者を再び大会議室に集めて今回の作戦を伝える。

それまでの間に残っていた夜の報告書に目を通し今日の予定を出来る限り調整しようとしていたのだが・・・


「なに?!ギルガメッシュが来ているだと!?」


報告書に真夜中に町にSランク冒険者のギルガメッシュがやって来てアーバンの道具屋が開店する時間まで事務所に居た事が書き記されていた。

何年か前から現在彼が受けている100年クエスト関連で町を訪れる事があったので彼はこの町ではかなり知られる顔となっていた。

そして、今回の緊急事態にSランク冒険者の助力が得られればかなり助かると言うのは子供でも分かる話である。


「おい!誰かアーバンの道具屋へ行ってギルガメッシュに今回の依頼について話て来てくれないか!」


ギルドマスターの部屋の入り口に待機していた事務員はその言葉に頷き事務所の方へ連絡を回す。

先程までとは打って変わり明るい表情のギルドマスターは確信していた。

ギルガメッシュならば他のSランク冒険者と違い町の為に戦ってくれる!

だからこそこの危機をきっと乗り越えられると信じていたのだ。


「よし、それでは続きを・・・っとそう言えば仲間を失いながらも報告をしてくれたBランク冒険者達はどうしている?」

「はい、報告によりますと別室にて仮眠を取っているという事になってます」

「そうか、構わん!その者達はきっと体を休め終わったら参加してくれる筈だからゆっくり休ませるように伝えてくれ」

「畏まりました」


仲間の仇を取る為にきっとその者達も戦ってくれる事だろう、今はゆっくりと体を休ませてやろうとギルドマスターはギルガメッシュの件で余裕が出来ていた。

そして、更に続けて読んだ報告書に驚きを見せる!


「なんだと?!森の中で月の雫草の群生地を発見し今後の安定供給の目処が立っただと?!」

「あぁ、今朝方の件ですね。何でもその冒険者達が持ち込んだ大量の月の雫草は最高ランクの物でギルド予算の半分を注ぎ込んで買取を行なったとの事ですよ」

「なに?そうか・・・それは少し不味いかもしれないな・・・」


ギルドマスターはそれでも笑みを更に強めていた。

月の雫草が大量に用意できるとなれば多少の無理も出来るのだ。

なにせ低級ポーションが月の雫草1本を使えば中級ポーションに変化する。

擦り傷を治す程度の傷薬が打撲や切り傷を癒す回復薬になるのだ。

しかしながら問題はギルド予算の半分を使ってしまったという事である。

今回の依頼の件で更にギルド予算を注ぎ込む事は決まっている、ある程度のギルド予算をプールしておかないと不測の事態に対処が出来なかったりするかもしれないのだ。

幾ら緊急事態とは言え通常業務も平行して行なわれるのだ。


「先程のギルガメッシュを呼びに行く者はもう出たか?」

「いえ、この後出発するようです」

「なら伝えてくれ、ギルドで保管している月の雫草の3分の1をアーバンの道具屋へ売却するようにと」


ギルドとは違い道具屋へ出来れば月の雫草を流すのは本来であれば避けるべき事である。

例に漏れず月の雫草は回復薬に使えばその効果を高める、だが毒草等に使用すればその毒の効果を高める働きもあるのだ。

その為道具屋などで流通させると暗殺者等が手に入れてしまう可能性が非常に高くなるのだ。

だが今は非常事態、そして長年町で営業を続けてくれているアーバンの道具屋を信じてギルドマスターは売却の話を即決していた。

これで予算の方も何とかなると大きな溜め息を吐いて天井を見上げる。


「まさに町が生き残る事を神が望んでいるかのような流れだな・・・」


突然発生した大災害とも言える危機、それに合わせて来日したSランク冒険者、そして月の雫草の群生地の発見。

まるで神がシナリオを書いているかのような流れに小さく笑うギルドマスターは最後の報告書を手に取った・・・


「最後の最後にこれか・・・」


そこに書かれていたのはバーディ達の保険金詐欺の件であった。

大きな溜め息を再び吐いてギルドマスターは事務員に問う。


「この最後の報告書の馬鹿共はどうした?」

「はい、少々お待ち下さい・・・現在は別室にて処罰待ちで軟禁状態にあるようです」

「そうか・・・ちなみにこいつ等は上位ランクか?」

「はい・・・(えっとCランク以上は上位だからBって事は・・・)上位ランクみたいですね」

「そうか・・・(Cランクになったばかりの馬鹿共の起こした事か・・・だが今は少しでも戦力が欲しい)よし、そいつらの処罰は保留だ。返金と規約通り10%の罰金、それで今回は手を打って今回の依頼に協力するように話を進めろ」

「分かりました。あれっ?えっと・・・どうやらこの者達は別室で処罰待ちにも関わらず眠りこけているみたいです」

「ふざけるな!叩き起こすように伝えろ!」

「はっはい分かりましたー!」


そう言って事務員が事務所へ駆けて行く・・・


「・・・っという事なので今すぐ叩き起こしてこの依頼の件を伝えて!」

「はぁ・・・分かりました」


つい先程ゆっくり寝させておけと告げられたばかりなのに今度は叩き起こせとギルドマスターからの連絡で事務員は不思議そうな表情を浮かべたままバーディ達の居る部屋へ向かう・・・

毎日の報告書、その中にはなんと言う冒険者パーティが成果を上げた。ではなくこんな事がありましたという形で記載されていた為にギルドマスターは大きな勘違いを招いていたのだ。

ギルドマスターの中では仲間を失って情報を持ち帰ったBランク冒険者達、ギルガメッシュというSランク冒険者、月の雫草の群生地を発見した冒険者達、そしてCランクと思われる詐欺を働いた馬鹿な冒険者達の4組が全部別々のグループとしてインプットされていた。

まさか最初と最後の冒険者達が同じ者達だとは夢にも思わないままギルドマスターは立ち上がり自室を出る・・・

これから町の存続を賭けた戦いに赴くと言う決心をしているギルドマスターの頭の中は一つの事で一杯に成っていた・・・


(月の雫草、海辺の町で売られている海草から抽出したエキスと大量に混ぜ合わせる事で強力な育毛剤を作れる!!!)


今回の件で町が助かったらギルドマスターは薄くなりだした自身の頭髪を再生させられるかもしれないと考えていたのだ!

その為にも今回の戦いは負けられない!

気合十分のギルドマスターの姿を見た職員達は誰に言われた訳でもなくギルドマスターに対して敬礼を行なうのであった・・・

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