第8話 各々が動き出しました

「いや~はっはっはっ!まさか月の雫草が大量に用意できるなんて帰ってきて正解だったよ」


S級冒険者のギルガメッシュが嬉しそうにハルク達の横を歩いていた。

冒険者ギルドで月の雫草の話を知り飛びついたギルガメッシュと意気投合し一同は共にアーバンの道具屋へ向かっていた。

店の開店時間までギルガメッシュは冒険者ギルドで暇潰しとして仕事の手伝いをしていたらしいのだが・・・


(S級冒険者が事務仕事とかありえないだろ・・・)


とアベルは心の中で突っ込みを入れるが空気の読める男は口には出さない。

彼等が向かっているアーバンの道具屋、そこはこの町で一番大きな道具屋である。

スズの親友であるリッカの為の治療薬を売っているのがこの店であるので、町に戻ってきた一同は開店時間前に冒険者ギルドに売る分を持っていっていたのだ。

冒険者ギルドの新しい依頼が貼り出される早朝、その時間に合わせて町の道具屋は店を開ける。

それは依頼に出る冒険者が購入する時間帯に合わせてそう設定されていた。


「へぇ、お友達の治療薬の為にねぇ・・・くぅ、泣かせるねぇ」


スズの話を聞いてギルガメッシュは涙を浮かべながら手首で目を擦る。

現在のハルク達であれば治療薬を買うお金も治療薬の効果を高める月の雫草も在るのでリッカが元気になるのも時間の問題である。


「そう言えばギルガメッシュさんはアーバンの道具屋にどんな用事なのですか?」

「ん?あぁ実は今俺が受けている100年クエストがな、夢現の迷宮を攻略する事でな・・・今攻略中の725階をクリアするのに必要な物が在るんだ」

「それがアーバンの道具屋に?」

「いんや、3ヶ月ほど前にあの店のオーナーが調べていた物がどうやら俺の捜し求めている物みたいでな。商人ギルド経由で情報が手に入ったってわけだ」

「へぇ、凄い偶然ですね!」


和気藹々とハルク達はアーバンの道具屋へ到着しスズが治療薬を購入して直ぐに月の雫草で効果を上げる。

その様子を見ていた店主は驚きに目を疑いながらちょっと特殊な治療薬が月の雫草の効果で進化していく様子を目の当たりにしていた。

普通に購入すれば1本金貨数枚はする月の雫草を14本使用したところで遂にそれは完成した。


「これが・・・霊薬エリクサー・・・」


生きてさえいればどんな状態からでも使用された者を全開させると言う奇跡の薬である。

スズの親友リッカは不治の病であった。

その体を治すには霊薬エリクサーしか方法が無いと医者に告げられ誰もが絶望に落ちていたのにスズ達は奇跡を目の当たりにしていた。

もしあの森でハルクに出会わなければ・・・

もしあの森でベアマウンテンに全滅させられていたら・・・

考えれば考えるほど自分達がどれ程の奇跡の上に立っているのかを理解する一同はギルガメッシュの一言で我に返る。


「ほらっ早くお友達を治しに行ってやりな」

「そ、そうでした!行きますよ!ハルクさん!」

「えっ?おっ俺も?!」


何故かスズはアベルやテラではなくハルクの手を取って店を飛び出す。

その様子にホッホッホッと笑いながらテラが続きアベルとマリアは手を振ってそれを見送る。

店主が今だ唖然とした様子だったのでギルガメッシュとアベル達は月の雫草の群生地を発見し今後市場に大量に出回るという話をし始めるのであった・・・









一方その頃、冒険者ギルドに朝出勤の従業員達が出勤し始めていた。

夜勤の受付スタッフ達と引継ぎを行い業務を切り替える頃にこの町の初老ギルドマスターが重役出勤を行なう。


「ギルドマスターおはようございます!」

「うむ、おはよう」


TOPに立つ者があまり早くに出勤して他の従業員を焦らせないようにする気遣いと本人は言うが本当は低血圧なだけである。

事務所で夜に在った出来事の報告書に目を通しているギルドマスター、毎朝の作業を進めている所にその一方は飛び込んできた!


「大変です!近くの森にベアマウンテンの集団が現れてBランク冒険者達がボロボロの状態で帰って来ました!」


朝の受付嬢である彼女はその場に居る全員に聞こえる様に今受付で聞かされた話を報告する。


「そうか、仲間が1人犠牲になってまで知らせてくれたという訳か・・・緊急会議じゃ!担当は今すぐワシの部屋に集まれ!」

「「ハイッ!」」


群れを作らない単独でしか行動をしないベアマウンテンの集団行動、それが意味するのはその上位種か操れるほどの強力な魔物が存在しているという事。

一般常識となっているこの事はBランク冒険者が知らない筈が無い、と言う事は彼等はこの事を報告する為に仲間を犠牲にしてまで知らせに戻ってきてくれたのだとその場に居た誰もがそう理解していた。

まさかバーディ達が詐欺を働く為に行なった行動がこんな事になっているなんて本人は知りもしないまま事態は大きく動き出した。







「それでは、上位ランク・・・Cランク冒険者以上を参加させる緊急依頼を出す案で決定だ!」

「ハイ、ギルドマスター。依頼金は金貨1枚、更にベアマウンテンの討伐報酬には色を付ける形で今すぐ書類を作成するぞ!」


サブマスターが役職を持つ職員に指示を出し一同は素早く動き出す。

ギルドマスターは会議室に15分後に集まる冒険者達に今回の説明を行なって町の為に戦ってもらう事を決め話す内容を一気に纏める。

出勤したばかりのギルドマスターの長い長い一日が始まったのであった。

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