第7話 ハルク達が冒険者ギルドに帰ってきました
時間は1時間ほど巻き戻る。
町の入り口で夜の番をしている兵士が最初にそれに気付いた。
「帰還石か?!」
町の出入りのチェック以外に、冒険者が町へ帰還石を使って帰ってきた時の対処を行なうのが門番の仕事である。
大抵は大怪我を追った状態で使用し逃げ帰ってくるので応急処置を行なった後、医者の所へ届けるのが彼らの仕事である。
「直ぐに準備をするぞ!」
魔力が集まり使用者達が転移してくるまで少し時間が掛かる。
これは転移した先に誰かがいたりする場合を避けるための猶予でもあるのだが兵士達にとっては応急処置の準備時間でもあった。
急いで担架と消毒液、止血剤や包帯が用意されている救急箱を準備して転移してくる者達の前で待機する。
さながら日本の救急の様に訓練された彼らの動きは素早く魔力の変動を完治してから僅か20秒ほどで準備を完了していた。
「お前達大丈夫・・・みたいだな?」
だが兵士達が彼らの姿を見て緊張の糸が切れるのは一瞬であった。
そこに居たのはハルクを初めとした6人のパーティで両手や首に大きな袋を装着しており怪我をしている様子が無かったのである。
「ほっほっほっ久々に使ったが本当に楽なものじゃのぅ」
テラが笑いながら町まで一瞬で帰ってきた事を喜ぶ。
その言葉に本当に無事に帰ってこれたのだと感動するハルクは涙目になっていたりする。
「お騒がせしてすみません、怪我人は居ませんので安心して下さい」
アベルがリーダーらしく門番にそう告げて冒険者カードを提示して町の中へ入っていく。
彼等が向かったのは勿論冒険者ギルドである。
目的は言わずと知れた全員が限界まで持っているそれの売却であった。
「すみません、素材の買取をお願いします」
嬉しそうにスズが述べ夜中だというのに彼等の姿を見た冒険者達はざわざわと騒ぎながらその光景を見ている。
そして、受付嬢の目の前にドサッと置かれた袋を開くとその場に居た誰もが息を飲む声が聞こえた。
「えっ・・・」
受付嬢も言葉に詰まり目の前のそれに目を疑う。
それは希少価値の非常に高い花、月の雫草だと一目で分かったからである。
そして、受付嬢は視線を他のメンバーに向ける・・・
「もしかして・・・それ・・・全部?」
月の雫草は非常に小さい、スズが手にしていた袋1つでも1000本は確実に在るのが分かった。
しかも冒険者にはアイテムバックと言う荷物を収納できるマジックアイテムを持っている者も居る。
その中にも大量に入っているのだとしたら・・・
「ちょっちょっと待って下さい!今、上の者を呼びますから!」
職員が慌てて上司を呼びにいくのも無理は無かった。
月の雫草は買取だけでも1本で銀貨50枚は確実な高級品。
2本で金貨1枚だと考えれば置かれた袋1つで金貨500枚、一軒家を余裕で買った上に半年は遊んで暮らせる額である。
それが見えているだけでも15袋、更にはアイテムバックの中にも大量に在るであろうからとんでもない額に達するのは誰でも直ぐに分かった。
「あの・・・みんな見てますが・・・」
ハルクは気が気でない、高価な品を周りに居る者達に凄く見られているのだ。
だがアベルが陽気な感じでハルクに伝える。
「気にするなって、今俺達を襲えばそいつの冒険者生命はそこで終わる事になるのは簡単に分かるからな」
その言葉でハルクも思い出す。
一定額以上の金額に付いてはギルドで預かりも行なってくれるのだ。
しかも高額預金者にはギルド側から街中での護衛警備も付けてくれる。
額面にしてパーティで金貨150枚以上預けたらの話であるので一般人には馴染みの無い話であるが高名な錬金術師等を保護する為の措置である。
特にこのギルド側の護衛の力は凄まじくAランククラスの元冒険者が街中限定で守ってくれるのだ。
そういったあれこれを行なっている間に上司と思われる男性がやって来て後に続いた職員総出で一気に持ち込んだ月の雫草の検品に入る・・・
「素晴らしい、新鮮で魔力のしっかり篭もった一級品が28054本!全部金貨1枚で買わせていただきます!」
「金貨1枚?!全部で金貨28054枚?!」
それには幸運な条件が揃いすぎていた。
群生地には過去誰も手をつけていなかった為魔力が満タンまで溜まった状態で採取出来た事。
月の光が差し込んでいる夜明け前に採取出来た事。
ベアマウンテンの縄張りの為、他の生き物が荒らしていなかった事。
その結果がAランク冒険者の生涯年収クラスの報酬であった。
「あっ主任、そちらのハルクさんが受けている依頼がこちらの品を納品する依頼でしたので1本は金貨3枚換算になります」
「分かった。なら合計金貨28056枚ですな。いや~月の雫草は最近本当に本数が減ってきていましたのでこれで5年は持ちますよ」
主任と呼ばれた上司の方が嬉しそうに告げた。
その額を用意できるギルドも凄いが彼等の成果はこれだけではなかった。
そう、ハルクのスキル『加護の恵み』の幸運効果なのか彼等は見つけていたのだ。
「それと、もう一つ報告したい事があるのですが・・・実はこの月の雫草の群生地を発見しました」
「なるほど・・・それでこの本数ですか、いや~本当幸運でしたね」
「っで、生えていた一角だけ採取してきたのが今回のこの量なのですが・・・」
「・・・えっ?」
群生地の全てを根こそぎ回収してきたのかと思った主任は開いた口が塞がらない状態で問い返す。
アベル達が告げた言葉の意味を理解しかねているのだろう・・・
つまり・・・
「今後、俺らに指名依頼していただければ必要なだけ月の雫草を用意させてもらいますよ」
自信満々にそう告げるアベルの言葉にギルドの職員だけでなく冒険者達も耳を疑っていた。
月の雫草の価値を知る者からすればその言葉の意味は直ぐに理解できるだろう。
下級ポーションですら1本使えば中級に、2本使えば上級に、3本使えば欠損部位すらも治す特級ポーションに変化させられる月の雫草。
それが好きなだけ用意できる。
「それは本当か?!」
ギルド職員の中に1人体格の良い人物が混じっていると誰もが思っていたその人物が立ち上がり尋ね返してきた。
長い金髪と気配と声だけで直ぐにその場に居る誰もがその人物に気が付いた。
「ギルガメッシュさん・・・ですよね?」
ギルド職員に混じって月の雫草の検品を行なっていたその人物こそ幻のS級冒険者の100年クエスト挑戦者『ギルガメッシュ』その人であった。
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