第3話 ハルクの能力が判明しました
「う・・・ううん・・・俺は・・・はっ?!」
寝込んでいた男性、アベルが意識を取り戻し飛び起きた!
だがそこに在ったのは自分のパーティメンバーが料理をしている光景であった。
「あっ?!アベル気が付いたのね?!」
「マリア・・・俺達助かったのか?」
「えぇ、彼のお陰でね」
そう言ってマリアがハルクを呼ぶ。
なんだか良く分からないが妙にテラとスズに気に入られたハルクは簡単なスープが入ったコップを手にアベルに近付いてきた。
「あっ意識が戻ったんですね!良かった」
「君が助けてくれたらしいね、本当にありがとう」
「いえいえ、僕なんか何もしてませんよ。むしろ僕の方が助けられたと言うか・・・」
「ほっほっほっアベル元気そうで良かったワイ、どれ彼の事を紹介する為にもそれを飲んでみるとえぇよ」
そう言ってハルクから手渡されたアベルの分のスープを見詰める。
一体これが何だというのだろうか?いつもパーティで野営をする時に口にするそのスープはいつも通りの香りであったのだが口にした瞬間にアベルは驚きに目を見開いた!
「美味い!?いや、いつもと同じ味な感じなんだがなんだろう・・・なんか凄く美味いよ!」
「じゃろ?どうじゃアベル、彼はハルクと言うのじゃがな・・・」
アベルが起きるまで道中の話をハルクはアベル以外のメンバーに話していた。
ギルドの依頼を受けた冒険者パーティを森の中で首になった事、所持金も所持品も全て巻き上げられ持たされたのは全財産と引き換えに渡されたボロボロの短剣だけであった事、普段からパーティに酷い扱いを受け続けていた事・・・
「そうか・・・君も大変だったんだな」
「いえ、僕は何も出来ないんで・・・」
「それは違うぞ少年!」
テラが顔を突っ込み話に割って入る。
そして、嬉しそうにアベルに語りかける。
「どうじゃアベル、彼はどうやら自分の能力に気付いておらんようなのじゃがお主は分かったじゃろ?」
「あぁ・・・今もヒシヒシと感じているよ、ハルク君と言ったね?君の能力は・・・」
一方その頃、ハルクを森の中で追放したバーディ達はベアウルフの群れに襲われていた。
「くそっ次から次へとしつこいなこいつ等!ミシッドしっかり盾役やれよ!」
「はっはい!」
ミシッドが1人前に出て盾を構える!
タンクは全員の前に出て正面からの攻撃をその身で受け止めるのが仕事なのだ。
「狼どもよワシの魔法を喰らうといいぞい!バーストフレア!」
魔道士のクリムがミシッドの後方からベアウルフの群れに爆裂魔法を放つ!
着弾と同時に魔法は爆発し2匹のベアウルフを巻き込んだ!
その光景にミシッドは驚いた。
それは当然であろう、左右の敵を中央にひきつけてそれをタンクが押さえ仲間が攻撃するのがパーティの基本戦術なのだ。
だがクリムの魔法でいきなりベアウルフは左右に割れてしまった。
しかも・・・
「おらっ!お前は俺の獲物だ!」
シーフのミストが左のベアウルフの群れに飛び出したのだ!
シーフの役割は敵を撹乱して挟み撃ちを避けたりする立ち回りをする物なのに一直線に敵に向かって駆けていったのだ。
「おら!!!」
今度は反対側にバーディが駆け出す。
タンクを放置して前線の敵の群れに飛び込むとか作戦もなにもあったものではなかった。
そして、当然短剣しか持っていないミストはベアウルフに囲まれ身動きが取れなくなっていた。
反対側ではバーディがベアウルフに剣を突き刺したまま後方へ魔法を放ち囲まれないように戦っているのを見てミシッドはミストの元へ駆け出す。
割り込むように突撃して道を開こうとしたのだ。
だがそこにクリムの魔法が飛んでいく!
「もう一度吹き飛べ!バーストフレア!」
「うがぁああああああ」
魔法はミストの近くに着弾しミストごとベアウルフを吹き飛ばす。
その光景にクリムは驚く!
当然である、普段であればミストはその魔法が着弾前に包囲網を突破しているのだ。
だがミストの動きが悪かった為に魔法の余波に巻き込まれてしまったのだ。
「やばいっ!」
生き残ったベアウルフが倒れたミストに向かって襲い掛かろうとしているのを見たミシッドは無理やり盾をミストとの間に差し込み一撃を防ぐ!
だが突き出した盾を持つ腕を別のベアウルフに噛み付かれてしまう!
「うぎゃっ?!こ、このぉ・・・」
直ぐにミストが助けに入ればなんて事は無かったのだが倒れこんだまま動きを見せないミスト、仕方なくミシッドは盾を手放し噛み付いているベアウルフの顔面に腰の短剣を突き立てた!
「ギャインッ?!」
脳天を突き刺した事で絶命したのであろう、噛み付いたまま動かなくなったベアウルフの口を無理やり開けて引き剥がそうとした時に後ろから更に足を噛み付かれる!
「うわぁっ?!」
「馬鹿!なにやってるんだよ!」
そこに反対側のベアウルフを全部倒したバーディがやってきて近くに居たベアウルフ元とも魔法と剣で倒していく・・・
結局バーディが残りを全て片付けて戦闘は終わったのだが・・・
「お前タンクだろ?!全く使えないヤツだな!」
「いや、待って下さい!今のは・・・」
「言い訳はきかねぇよ!くそっ今のでなんで魔力がもう切れてんだようくそっ!」
その言葉にミシッドは唖然とする。
自分は怪我をしているにも関わらずバーディは魔力が切れている。
そして、それは少し離れた所で辛そうに座り込んでいるクリムも同様であろう。
つまり怪我を治す治療魔法が一切使えないという事なのだ。
それは当然であろう、ベアウルフ相手に広範囲爆裂魔法を2発も放ったのだ。
そして、目の前のバーディも後先考えず自身の強力な魔法をポンポンと放っていたのだ。
「ちっとりあえず討伐部位だけは取っておくか・・・」
本来なら解体して素材を取りたいところなのだがその部位を理解しているのはミシッドだけである。
そのミシッドの怪我を考えると解体がまともに出来る筈は無いのだ。
仕方なくミシッドはパーティの道具袋を開いて中から治療薬を取り出そうとするのだが・・・
「えっ?止血剤すらも・・・無い?」
「はっ?止血剤?そんなん入れてたら持てる荷物減るだろ?そんな傷とりあえず中の布でも巻いておけば良いよ。直ぐに魔力が回復して治療魔法使ってやるから」
「はっ?」
バーディのその言葉にミシッドは唖然とする。
本来魔力と言うのはしっかり体を休めた時に徐々に回復していくものである、それが直ぐに回復する訳が無いのだ。
だがここで言い返してハルクの二の舞は勘弁して欲しいと考えたミシッドは言われた通り布を巻いて傷口を塞いでおく・・・
「ちくしょー!てめぇクリム!なんで俺ごと魔法をぶっ放したんだ?!」
「い、いや・・・お前さんいつもワシが魔法を放ったら直ぐに退避してくれてたから・・・」
「あんなんいきなりやられてそんな事出来るかってんだ!それとお前もだよ!何で俺の盾にならないんだ?!」
脳震盪的な状態から回復したミストがブチ切れて怒鳴り散らし始めた。
そんな余りにも御粗末な状態ながらこれ以上騒ぐと魔物を呼び寄せてしまうとバーディの言葉で一同は町を目指して歩き出す・・・
「君の能力は多分・・・幻と言われてる『加護の恵み』だよ」
「加護の・・・恵み?」
「そうじゃ、ワシも文献でしか見た事は無いのじゃが、その能力を持つ人間は仲間に様々な特殊効果を発揮すると言う・・・」
「仲間に特殊効果?」
「えぇ、そうね。アベルが助かったのも貴方のお陰なのよ」
マリアが会話に割って入り、そこにスズも加わる。
「分かっているだけでも・・・様々なステータスアップ、HP&MP自動回復、スキルの強化、そして幸運じゃろう」
その言葉に全員が頷いた。
ハルクの能力、それは自身ではなく仲間に対して様々な特典を与えるものであった。
魔力の尽きたテラ達の魔力が魔法を再び使える様になるまで回復したり、テラの放った魔法が運よく当たるようにハルクの投げた短剣に奇跡を起こさせたり、魔法の効果を強めたり、料理のスキルを強化して作った物が普段よりも美味しくなったりしていたのだ。
「どうだろう、ハルク君はパーティを追放されたんだよね?良かったらさ、ウチに入らない?」
アベルのその言葉に一同は喜び、ハルクは嬉し涙を流すのであった。
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