第4話 凄い物を見つけてしまいました
森の中で時間の感覚が無い一同であるが現在居る場所がベアマウンテンの縄張りだった事で他の魔物が近寄ってくる気配が全くしなかった、その為ここで一度野営を行い体を休めて翌日町へ帰還する事に決めていた。
「さっきまで寝させて貰っていたから俺が見張りをやるよ」
リーダーと思われるアベルが名乗り出て簡易的なテントの様な物に入るマリアとスズ。
テラとハルクは寝袋の様な物を用意して横になる。
「俺の寝袋だから気にせずに使ってくれ」
アベルにそう言われて感動で涙を流しそうになるハルクであったがテラからの・・・
「パーティメンバーなんじゃから気にせずに使うといい」
の一言で涙腺が崩壊したハルク、それを見てスズがテラに怒るなんて事もあったが一同は体を休める事が出来た。
そして、2時間ほどしてアベルとテラが入れ替わる。
勿論ハルクは寝たままであったのだが本人の希望と言う事でアベルは声を掛けた。
「ハルク君、一応交代の時間だけど・・・」
「ん・・・あっすみません今起きます」
「いや、別に休んでくれていても良いんだけどね」
「そうはいきません、ぱ・・・パーティですからね」
寝起き顔で嬉しそうにそう告げるハルクに笑みを見せてアベルは寝袋を交代した。
その後、テラとハルクは他愛無い話をしながら時間を潰していく・・・
「それでな、ワシの孫娘のスズには大親友のリッカって娘が居ってな・・・彼女の治療薬の為にワシ等はここに来ていたのじゃ」
「もしかして・・・月の雫草ですか?」
「ほっほっほっ流石に有名じゃからな」
月の雫草、それは他の薬と調合するとその効果を何倍にも引き上げる特殊な草である。
回復関係ではその効果を強め、毒に関してもそれを強化する為にかなり価値のある物なのであった。
どんな効果の薬にもその効果を及ぼすのに加え非常に採取が難しい事からかなりの高価なのも特徴であった。
「特に今年はその数が非常に少ないらしくてな・・・」
そう告げるテラは遠くを見詰めていた。
ハルクはテラの言葉に頷いていた。
丁度その時であった。
「ん?どうしたスズ?」
「ちょっと・・・」
「ほっほっほっ気をつけるんじゃぞ」
「ん・・・」
ハルクにチラッと視線を向けるスズ、自分がトイレだと知られるのが恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてそのまま草むらの中へ入っていく・・・
音が聞こえるのを避ける為にいつもより遠くへ行こうと考えスズは草を掻き分け進んでいく・・・
「もぅ、意識しているつもりなんだけどな・・・」
独り言を言いながらもハルクの人柄に惹かれ始めているスズは微笑みながら進んでいた。
初恋と言うわけでも無いのだが今まで感じた事も無い感覚に包まれているスズ・・・
気付けば明らかに奥へ行き過ぎていたのだが草むらを抜けた時にそれを見て驚き声を上げた。
「う・・・そ・・・ちょっちょっと皆来てー!!!」
スズの大声に驚きハルクとテラは立ち上がり寝る直前であったアベルも立ち上がろうとするのだが・・・
「アベルは寝ているマリアの守りを頼むぞい、ハルク君行くぞ!」
「はいっ!」
そう言って二人は草を掻き分けスズの行った方向へ進み続ける・・・
そして、草むらを抜けた先に出て二人は共に驚き立ち尽くした。
そこに在ったのは一面青い花が咲き乱れる光景であった。
「こ・・・これはまさか・・・」
「うん・・・どうやら本物みたい・・・」
スズとテラは驚きながらゆっくりとハルクの顔を見る・・・
そう、テラはハルクに先程話したのだ。
孫のスズの大親友の病気を治す為に月の雫草が必要なのだと。
スズの目的を知ったからなのかは分からないがハルクの能力の効果でスズは偶然にも発見してしまったのだ。
月の雫草の群生地を!
月の雫草の価値を上げている一番の理由はその採取量が非常に少ないからと言う事があった。
この草は瘴気と酸素の濃い場所で夜通し月の光が当たり続け天敵が居ない場所にしか生えないのである。
偶然にも彼等が居る場所はベアマウンテンの縄張りで他の魔物がこの地域に入ってこないと言う幸運がこの光景を作り上げていたのだ。
「お爺ちゃん、ここ・・・」
「うむ、マジックアンカー!」
マジックアンカー、それは自分にしか分からないシンボルをその場所に残す魔法である。
これを使用しておくとその場所の位置が離れていても分かるのである。
「すぐに2人を呼んでくるね!これだけあれば」
「うむ、帰還石を使用しても全然問題にならんわい!」
帰還石、それは使用すれば周囲に居る生物を全て製造された町の位置口にまで転送する事が出来るアイテムである。
非常に高価で緊急事態にしか使えないのだが周囲に居る生き物を巻き込んでしまうので魔物から逃げるのに使えば町に魔物を呼び寄せる事になってしまう。
その為に魔物の瘴気が在る場所では使用できないのである。
その後、起こしたマリアとアベルも加え彼等は持てるだけの量の月の雫草を搾取して帰還石を使用するのであった・・・
一方その頃、森の中を進むバーディ達は森を抜けるまで後1時間程のところまで来ていた。
度重なる魔物の襲撃に唯一まともに戦えるバーディが一人奮闘しミストはバーディが囲まれないように敵を誘導する。
足を怪我しているミシッドは魔力の切れたままのクリムを盾で守ると言う形を取っていた。
「くそっ!なんで魔力が回復しないんだ?!」
「バーディ!そっち1匹抜けた!」
「なにやってるんだ!くそっ?!」
今までと違い少しは連携的な行動を取ってはいるのだがそれでも熟練度が圧倒的に低いのでまともに機能していなかった。
間違い無くミシッドだけであればバーディとミストは見捨てて逃げていたであろう。
だがクリムの魔法は非常に利用価値が高く魔法使い自体が人数が少ない、今見捨てても代わりが見つかる可能性は非常に低いのだ。
文句を言いながらも明らかに隠したの魔物相手に徐々に疲労を溜め続けていた一同は命かながら2時間程を掛けて森を抜けた。
「はぁ・・・はぁ・・・とりあえずこのまま町に戻るぞ」
「あぁ・・・そうだね、もう早く横になりたいよ・・・」
バーディとミストがフラフラと歩きながら町を目指す後ろからミシッドはヘロヘロなままのクリムに肩を貸して歩いていた。
反撃する手段が殆ど無い二人は前衛の2人よりも明らかに多くの怪我を負っていた。
それを気にした様子もなくバーディは我先に町を目指して進んでいく・・・
しかし、この後彼らに訪れる悲劇をまだ誰も知らないのであった・・・
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