第2話 運命のパーティと出会いました
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
ベアウルフと言う熊サイズの狼の魔物集団に見つかったハルクは森の中を走っていた。
町へ向かう方向とは全く反対側へ駆けているのだがそれは仕方ないだろう。
ベアウルフと言う魔物はCランク冒険者が3人がかりでようやく討伐が出来るレベルの強さを持っているのだ。
それが少なくとも3匹居たのだ。
こんなボロボロの短剣1本でまともに戦えば彼等の夜食に早変わりするのは目に見えている。
「いやだ、死にたくない・・・ハァ・・・ハァ・・・」
振り返る事もせずにただひたすらに森の中を適当に走る。
後ろからガサガサと草を揺らす音だけが奴等の存在を主張しておりハルクは音のする方向からただひたすら逃げていた。
しかし、突如その追いかけてくる音が聞こえなくなりハルクは木に手を付いて肩で息をしながら少し休む。
座り込めば逃げるのに遅れるので立ったまま休んでいるのだ。
「なんだか分からないけど・・・ハァ・・・ハァ・・・助かったのかな・・・」
ハルクはステータスが低い事もあり決して足が速いわけではなかった。
本来であればベアウルフから走って逃げられるわけも無いのだが幾つもの幸運がハルクに味方していたのだ。
ベアウルフが回り込んで包囲網を作ろうとした時に限ってハルクの逃げる方向が変化したり、背後から一撃を加えようとした時に限って落ちていた石や枯れ木に足を取られたりしていたのだ。
そして、ベアウルフがこの場から撤退したのが彼にとって一番の幸運であった。
そこは・・・縄張り内であったからだ。
「ケホッ・・・喉が渇いたな・・・でも水なんて無いし・・・はぁ・・・」
冒険者のパーティには基本的に1人は魔法が使える人物が居る。
それは魔法で水を出せるからであった。
飲み水を携帯しなくても良いというのはそれだけでとてつもないアドバンテージである、その為冒険者はパーティを組んで魔法を使える人物を必ず1人は入れているのだ。
ソロで冒険者をやっている人物はこの水を出す魔法が使えないと話しにならないほど常識である。
「これからどうするかな・・・ん?」
ベアウルフから逃げる為にかなり適当に走ったので帰る方向も分からなくなっていたハルクの耳にそれは聞こえた。
まるで誰かの悲鳴・・・
自分一人が行った所で何か出来る訳でもないがそこに誰か居る、それだけがハルクを動かした。
その声の方向へ進むと徐々に声が聞こえ始めるのと共に木々の隙間が広がっていくのを感じていた。
まるでここを通る生き物が押し退けて広がったような感じの木々に違和感を覚えながらもハルクはそこに辿り着いた。
「だ、誰ですか?!」
「盗賊・・・ではないようじゃな」
そこに居たのは血を流して倒れている男性、それを介護している女性、杖をこちらに向けて立ち上がっていた爺さんと魔法使いの女の子であった。
この出会いがハルクの運命を大きく変えることになるのである。
「だ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫な訳ないじゃないですか・・・」
介護をしている女性がハルクの言葉に睨んで反論する。
彼女の姿を見る限りヒーラーの様に見えるのだが意識の無い彼に回復魔法を使わないのか不思議に思っていると・・・
「ねぇ、貴方マジックポーションか薬草持ってない?」
「えっ?」
その言葉で理解した。
ヒーラーの彼女が男性を回復させようにも魔力も回復アイテムも切らしているという事なのだ。
だが・・・
「すみません、俺・・・パーティから捨てられて持ち物ってこの短剣しか無いんですよ」
「そんな・・・」
彼女の絶望した表情も仕方ないだろう。
男性の出血量からこのままでは長くないのは確実である。
かと言って町に戻るには遠すぎる、しかもこの辺りは魔物が・・・
そこまで考えた時にそれは聞こえた。
「ぐぅるるるるるるる・・・」
「ひっ?!」
「そんな・・・追い払えてなかったての?!」
まるで生えてる木を押し退けるように姿を現したのは全長4メートルはある巨大な熊の魔物『ベアマウンテン』であった。
そう、ここはベアマウンテンの縄張りなのだ。
だからこそベアウルフはハルクの事を諦めて去ったのである。
「くそっスズ!アベルを守れ!こいっワシが相手じゃ!」
「お爺ちゃん!私も戦うよ!」
スズと呼ばれた魔法使いの女の子が爺さんの横に並んで杖を構える。
だが一向に魔法を使おうとしない2人を見て気付いた。
全員魔力が尽きているのだ。
「くそっどうせ逃げてもどうしようもないんだ!やってやる!」
そう1人で叫んでハルクは二人の横に並んで立った。
「ハルクだ、戦闘はからっきしだが魔法使い2人よりかは体を張れる!」
「若いの・・・すまぬ、だがもうワシ等も魔力が・・・ん?」
「お爺ちゃん何か作戦は・・・ってえっ?」
魔法使いの2人が突然自分の手を見詰めて不思議そうな顔を向けた。
そんな2人の隙をベアマウンテンが逃すはずも無く走って距離を詰めてきた!
「ちくしょ!やらせるかよ!」
そう叫んでハルクはベアマウンテンの前を横切るように走り抜けた。
自分の方へ誘導して距離を取らせようとしたのだ。
だが次の瞬間ベアマウンテンの体が爆発と共に横へ吹っ飛んだ!
「ファイアーボール!」
「エアショット!」
爺さんのファイアーボールとスズのエアショットが重なりファイアーボールを加速&強化してベアマウンテンに横からぶつかったのだ!
その様子に2人は唖然と固まっていた。
「何してるんですか!?追撃を!」
ハルクのその言葉で慌てて爺さんは呪文を唱え始める。
だがエアショットの魔法で魔力が尽きたのかスズはその場に座り込む。
2人で同時に違う魔法を重ねる事で強化した攻撃魔法を放つコンビネーションが使えない事に苦しそうな顔を見せる爺さん。
だが最後の力を振り絞って杖を前に叫ぶ!
「ストーンニードル!」
地面が大きな針というかもはや槍となってベアマウンテンに向かって飛んでいく!
だがそれを横へ動いて避けようとし始めた。
「動くなって言ってるだろ!」
言ってない、ハルクは勝手にそう叫んで手にしていたボロボロの短剣をベアマウンテン目掛けて投げつけた!
本当に奇跡であった。
偶然にもハルクの投げた短剣は弧を描いてベアマウンテンの上の枝に突き刺さったのである!
この木が偶然にも木材腐朽菌と言う細菌によって中が空洞になっていた。
そこに僅かな切れ込みが入り先端まで伸びている葉や枝がその重さに耐え切れなくなりそこでポッキリと折れてしまったのである!
「グァアアアアアアア!!!!」
突如鞭の様に折れた枝がベアマウンテンの顔面を捉え一瞬ひるませた。
そこに爺さんの使用したストーンニードルが突き刺さったのだ!
横腹よりも背中に近い部分に刺さったその土の槍は手が届かず脊髄を少々傷つけたのであろう。
ベアマウンテンは暴れながら倒れこみ動こうと四苦八苦するのだが立ち上がる事も適わなかった。
「やったのか?!」
ハルクは横腹が痛むのを手で押さえながらのた打ち回るベアマウンテンを無視して爺さんとスズの元へ近付いた。
二人共魔力が枯渇して立ち上がる事も困難な様子であるがハルクが近付いてきた事で爺さんは杖に体重を預けゆっくりと立ち上がった。
「これは・・・やはり・・・しかし・・・何にしても若いの、ハルクと言ったか?」
「あっはい、ハルクです」
「そうか、ワシはテラと言う。おぬしのお陰で本当に助かった。礼を言わせて貰う」
「スズも・・・本当にありがとうございます」
そう言う二人が頭を下げている光景に慌ててハルクは止める。
「ちょっと待って下さい、お二人共そんな畏まらないで・・・それより」
そう言ってハルクが視線をやる方向に2人は気付いて一緒に近付く。
地面に横たわる男性の横で涙を流している女性に爺さんが口を開いた。
「マリア、治癒魔法使うんじゃ」
「テラさん・・・私はもう魔力が・・・今倒れるわけには・・・」
「落ち着いて自身の残り魔力を感じ取ってみなさい」
そう言われたマリアは両手に魔力を込めると・・・
「嘘っ?!なんで魔力が???いや、でもこれなら!」
そう言って横たわる男性に両手を向けて・・・
「ヒール!」
回復魔法であるヒールを使用した。
本来このくらいの大怪我であればハイヒールを使わなければならないのだが魔力が足りないからヒールを選択したのであろう。
しかし、その場に居た誰もが驚きに目を疑う事となった。
「嘘っ?!私が使ったのはたんなるヒールよ!?」
ヒールは本来擦り傷や小さな怪我を治療するだけの魔法で何度も使えば止血にも使えなくは無いという魔法である。
だがマリアの使用したヒールは男性の全身の怪我を徐々に塞いでいったのだ。
そのまま爺さんのテラは視線をハルクに向けて問う。
「お主一体・・・いや、今は止そう・・・仲間が助かりそうじゃ本当にありがとう」
そう言って再び頭を下げられたハルクであるが走り疲れたハルクはその場に突然倒れこんでしまうのであった。
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