第7話 強制ストリップの巻

 ザァッと俺の周囲の人が引いた。

 広い人の輪の中心で立つ俺に例の幼女サキュバスが目を付けた。

「ほう。ようやく現れたか、転生者。しかし何とも面妖な出で立ちじゃのう」

 宙に浮いた幼女サキュバスが嘲笑を含んだ笑みで俺を見下ろす。

「冥途の土産に教えてやろう。私は魔王四天王のひとり。『銀粧玉』パロディア・ニヴォサ!」

 幼女サキュバス、パロディアはバサッと4枚のコウモリ翼を広げて誇示する。

「魔王……四天王だと?」

 四天王なんていう概念がこの世界にも浸透しているという事に驚愕する俺。

「(……勇者よ。貴方の知識に合わせてこの世界の言語を翻訳しているだけですので、そこは気にするところではありません。魔王に仕える4人の将軍とかその程度の意味です)」

「なるほど、元の世界で通じる単語がよくあると思っていたらそういう事か」

 急に話しかけてきたミクさんに答える俺だったが、パロディアは見逃さなかった。

「何を一人でしゃべっておる。もしやキサマ、"ヤツ"と喋っておるのか?」

「ヤツ?」

「この世界に転生者などという異物を送り込んでいる邪神のことよ。キサマもヤツに騙されておるのじゃ。可哀想にのう」

 フッとパロディアの姿が消えたかと思うと、俺の真後ろに現れて俺の頭を抱くように掴んだ。

 そして俺の耳元に語り掛ける。

「聞こえるかァ、邪神よ。この世界の事はこの世界の者で決着するべきなのじゃ」

 パロディアはまるでミクさんの事を知っているかのようにささやいている。

「残念じゃったのう、邪神。キサマが今まで送り込んだ転生者はすべて私の魅了で骨抜き。ただの肉人形として毎晩可愛がっておるわ」

 パロディアによるとこれまでにもミクさんはこの世界に転生者を送っているらしいが、そんな話はもちろん俺も聞いていない。

 心の中にわずかにミクさんへの疑念が沸き起こる。

「ふふふ、小僧。動揺しておるな? どうじゃ、邪神は何か言っておるか?」

「(……勇者よ……耳を貸さないで)」 

 ミクさんはパロディアの言葉を否定もしない。

「……ふぅーむ」

 俺が戸惑っている事に満足そうなため息をついたパロディアは、俺のガスマスクに手をかけた。

「さあ、もう茶番は仕舞いじゃ。その怪しげな仮面を剥いでやろう……。フォース・ストリップ!」

 パロディアが唱えると、俺の身を包んでいた全身黒ラバースーツとガスマスクが何の抵抗もなく剥がれ落ちてしまった。

「これも私の"技能"じゃ。どんな相手であろうと私の前では文字通り丸裸よ」

 クックック、と満足げなパロディアの翼が器用に俺を絡め取り、強引に仰向けの状態で地面に押さえつけた。

「これでキサマの短い旅も終わりじゃ。なに、怖がることはない。私の城で新しいコレクションに加えてやるわ」


 ああ、最初の村でいきなり幹部登場。これは負け確定イベントってやつか?

「(……いいえ……その者の言う通り……ここで負けたらあなたの旅は終わりです)」

 そ、そんな。あまりにも早すぎじゃないか。

 月をバックに怪しく微笑むパロディアが馬乗りになって俺の胸や腹にぬらぬらと舌を這わせていく。

「全身を覆っているから大層醜い男ではないかと思ったら、平凡だがなかなか引き締まった体をしておる。これは美味そうじゃ」

「ラバースーツを着るために体型を維持しているからな」

 パロディアの舌攻めに耐えながら俺は気丈に振る舞う。

「なんと。あの黒い服を着るために? 面白いやつじゃ」

「ヘッ、ああいうのが一着いくらすると思っているんだ。太ったら着れないだろ!」

 前の世界で生前は新社会人2年目だった俺の懐事情だ。体型が変わるたびに新調などできなかった。

「ククク、だがこっちの方のガマンは良くないぞ。キサマとてこの私の魅了にかかれば……」

 パロディアの舌がゆっくりと下腹部の方へ降りていく。

「……キサマ、何故じゃ」

 パロディアの舌がピタリと止まる。

「キサマ、なぜエレクティオしておらンのじゃッ!」

 怒りで体が震えるパロディア。悔しいのだろう。俺がパロディアの魅了を至近距離から受けてもあまりにも無反応だったから。

「パロディア。君はまっ裸じゃないか」

 俺はあまりにも当然なことを指摘する。

 そう。普通。あまりにも普通のことだ。

「当然じゃろう。これからキサマとまぐわうのじゃから」

「体が見えすぎている。想像の余地が全くない。そんな生身で俺の妄想を上回れるものかッ!」

「なん……じゃと……ッ!」

 ハッと目を見開くパロディア。

 強引に事を運ぼうと改めて俺に馬乗りになった。

 そこで俺はとっさにパロディアの手を取った。


 ぎゅぱっ。


 一瞬で俺のラバースーツがパロディアを包み込む。

「何をしたキサマ! 離せ!」

 俺はつないだ手を離さない。

 俺の腹の上で黒い球体が出来上がり、しぼんでパロディアの体表面に張り付いた。

 そしてそのままラバースーツがパロディアの中に溶けていき、最後にはパロディアの体がスーツ化してペラペラになる。

「なんじゃ、この身体は! 力が入らぬ!」

 ペラペラの体になっても騒ぎもがくパロディア。

「さすが四天王。スーツになっても意識が残っているのか」

 感心しながら俺は体を起こし、パロディアの皮をめくる。

 背中にはちゃんとパッカリと縦にさけた穴があった。

「な、何をするつもりじゃ? ま、まさか。やめろ! そんなところからっ! 無理無理! 入らぬ!」

 俺は騒ぐパロディアを無視して片足を突っ込む。

「やめて! そんなの無理! 裂けちゃう! おねがい、私の中に入ってこないで!!」

 ズボッ

 パロディアの背中の穴から、まずは片足を入れてみる。

「あああぁあぁ、入ってるぅ」

「そうそう、お前を永遠に皮にしておくこともできるみたいだし、試してみようかな」

「ひぎぃ、やめて! そんなことしたら消えちゃう! 私が消えちゃうからぁ!」

 皮のまま暴れようとするパロディアの中に、足を、腕を突っ込んでいく。

「ほら、あとは頭だけだぞ。最後に言い残すことはあるか?」

「もうダメ、死んじゃう! 死んじゃう! アーーッ!」

 装着完了。

 俺がパロディアの皮の中に頭を入れると、背中の穴が勝手に閉じた。

「ふぅ。体格差のせいもあってなかなかキツくて気持ちよかったぞ」

 手足を振って確かめてみる。ちゃんと、先ほどまで目の前にいたあの幼女サキュバスことパロディアの体に入ることができたようだ。

 だが、頭の中にミクさんとは違う声が聞こえてきた。


「(絶対に許さんぞ、転生者ァ……!!)」


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