第4話 恐怖で失禁した村娘の皮をかぶりし者

 俺は村娘を裏路地に引きずり込み、後ろから抱きしめるように村娘の口を塞いだ。

「ムグーッ! ングッ! ウウウ!」

 どうしてこうなった……。

 その理由は自明である。俺が全身黒ラバースーツにガスマスク姿で村娘に声をかけたからだ。

「ンウウウ……」

 しょわしょわしょわ。

 ガクガクとひざを震わせていた村娘は腰が抜けてしまったようで、そのまま失禁してしまった。

 立ち上るアンモニアの香りと湿気。

 後ろから密着していた俺の太ももまで村娘の小水で濡れてしまった。

 世の中には少女の失禁に性的な劣情を催す者もいるというが、俺には分からない話だった。

 うす茶色のスカートが股下から濡れてしまった村娘に対して俺は、かわいそうにと思う反面少し汚いなと若干引いてしまった。

 だが、少女の汚水で濡れてテラテラとぬめり光る自分の太ももを見て激しく劣情を催した。

 興奮し息が荒くなる。

 それを村娘はどう受け止めたのか、また彼女の背中に擦れるように硬くなる突起に何かを察したのか、最後の力を振り絞るように一層激しく暴れだした。

「ングッ、ンンーーーッ! ゲホッゲホッ!」

 説得はもはやできず、このままでは抑えきれないと察した俺は村娘の口を塞いだ手をほどき、彼女の右手に重ねる。

 じゅぱっ。

 その右手を軸にするように俺のラバースーツがめくれ上がり、一瞬で村娘の体を覆い尽くした。

 今度はスーツ化が完了するまで手を離さない。

 一度まるく膨らんだゴム質の膜がしぼんで、村娘の体にぴったりと巻き付く。やがてその体に溶けるようになじんでいき、村娘の表面と着ていた服だけを残してへにゃりと落ちた。

「すまない、見知らぬ少女。あとで解放するからしばらく我慢してくれ」

 俺は村娘の人皮を服ごと拾い上げる。

 そしてふと気づく。

 この村娘の皮を着たら村の中で怪しまれずに情報収集ができるのではないかと。

 彼女が着ていた服の方には穴が開いていないので、ひとまず村娘の皮だけを取り出して広げてみる。

 体格は俺よりも頭ひとつ分小さい程度。胸は平坦だったようでスーツ化しても形はあまり変わっていない。金髪の長い癖っ毛と同じく股のあたりに金色のささやかな茂みが見えた。

 もし俺が女児性愛者だったら興奮しているところだろうが、生憎と俺はラバーに包まれていない肉体にはあまりそそられないのだ。

「十代半ばぐらいか。酒場のようなところには入れなそうだ」

 もし大人の女性だったら酒場に行き色々な手段で情報を集めることもできただろうに、と思い至る。

 だがいたずらにスーツ化の被害者を増やすこともあるまい。

 俺はさっそく村娘を着ることにした。

「んっ、俺より一回り小さいのにちゃんと入るんだな」

 足から差し入れ、感覚を確かめる。穿いた部分は指先までちゃんと感覚があった。

 あまり乱暴にしないように丁寧に体を収めていく。

 頭まで入ってしまうと勝手に背中の穴が閉じた。

「おお、これは……」

 両手をひらひらと振って確かめてみるが、完全に少女の体になっていた。

 ジャジャーン! 頭の中でファンファーレが響く。

 口から出る声も高く、小鳥がさえずるかのごとく心地よく響いた。

「視線も高さに合わせて変わっている。本当にスーツ化した相手になれるんだな」

 見下ろせば平坦な胸も金色の茂みも自分の体としてそこにあった。

 全身を鏡で見てみたいが残念ながら手近には自分の姿を写せるようなものは無かった。

「股間の一物も無くなっているな。凹凸はどうなっているんだ……?」

 スーツを着る変身の効果を確かめたいが為に、失敬して股間をまさぐる。

「お、おお? ちゃんと指が入るぞ? 尻とは違う部分で体の中に指が入るのは不思議な感覚だな」

 もう少し詳しく調べようとした所で、頭の中に声が響いた。

「(……勇者よ……聞こえますか……えっちなのはいけないと思いま)」

「やあ、ミクさん。このスーツ化すごいな! 本当に着た相手になれるんだな!」

「(……えぇ!? ……あ、はい……異性の体をそこまで邪念なく弄り倒せるのはある意味称賛に値しますが……まわりの状況を確認するのです……)」

 ミクさんに指摘されてようやく気付く。

 俺は村の裏路地で村娘の体になり全裸で股間をまさぐっている。

 これはいけない。

 この姿を見られたとあっては、村娘を解放した後で彼女によからぬ噂が立ってしまうかもしれない。

 変態であるが紳士であると自負する俺にとって、他人の名声を傷つけるのは主義に反する。

「これは失礼した……。しかしどうだろう。薄茶色のワンピースで失禁してしまい、このままでは村の中を歩けない。服を乾かすために一時的に脱衣したという事にしておいては」

「(……貴方の元の世界の一般的な価値観としては、全裸よりはマシかと思います。その世界ではどうかは言えませんが)」

「ううむ。これは元いた世界の価値観についてもミクさんに教えてもらう必要がありそうだ」

 俺はとりあえず股間が濡れた服を着て、ある程度乾くまで暗い黒い森の入口に戻ることにした。


「なかなか難しいな。全身黒ラバースーツのままでは怯えられてしまうし、スーツ化した相手によっても調査できる範囲が制限されることもある」

 ラバースーツを脱ぐという選択肢はもちろん無かった。

 村娘の姿の俺が森に向かっていると、二人の男が縦に並び何かを運びながら村の方へと歩いてきた。

「おっ、ジョージーさんとこのコリーちゃんじゃねえか。どうした、またお漏らしして村のガキどもにいじめられたか?」

 先頭にいた男はこの村娘(コリーと言うらしい)と面識があるようで豪快な笑みを浮かべて気さくに話しかけてきた。

 見た目にも粗野な風貌。体格は元の俺の二回りほども大きいだろう。短く刈り込んだ頭よりもボリュームのある堅そうな髭が口のまわりを覆っていた。

 片手には長い筒のようなものを持っている。おそらく、猟銃だ。

 とりあえず俺はコリーちゃんになりきって話を合わせる。

「お、おじさん、こんにちは」

「オイオイオイ。オジサンだとぉ?」

 男のこめかみがピクリと動く。しまった。対応を間違えたか?

 男は俺の肩をバシッと叩いた。結構痛い。

 俺が身構えていると男はニヤリと口角を釣り上げた。

「オニイサンだっていつも言ってるだろぉ? ガッハッハ!」

 男はまんざらでもなさそうな態度でのっしのっしと俺の横を通り過ぎて歩いていく。

 そして気付くが、男は木の棒に獣を吊り下げて歩いていた。

 それは、俺が脱ぎ捨てたあの角が生えたオオカミのような獣だった。

 俺がそれを見ていることに気付いた後続の男がこっそり声をかけてくる。

「オヤカタが後で家に来いってさー。久々に大物が獲れてゴキゲンなんだー」

「大物って、これ?」

「そうさー。誰が残していったのかわからないけど、森の入口に縛られてたところをオヤカタが仕留めたんだー。今夜はご近所さん呼んで宴会だぜー」

「ふうん、そうなんだ。わかった」

「じゃーなー。服が乾いたら戻っておいでよー」

 男たちは得意げに獣を運んで村の方へと消えていった。

 俺があの場所で縛って脱ぎ捨てた獣は、今夜のご馳走として命の役目を終えるらしい。

 合掌。


 俺は暗い黒い森の入口に戻った俺は改めて服を脱ぎ、近くの湖でまるごと洗うことにした。

 股間だけが濡れているから漏らしたと思われるわけで、全身が濡れていたら湖に落ちたという言い訳もできる。

 それに単純に臭かったし。

 俺は服を絞って広げて天日で乾かしながら、今後のことを考える。

「わかったことがある。

 この村娘の名前はコリー。おもらし癖がある。よく村の少年たちにいじめられているらしい。

 オヤカタは猟銃を持っていた。狩猟が生活の一部なのだろう。

 そして今夜は宴会がある。人が集まる。

 情報収集が進むかもしれない。

 だが、コリーが普段はどういう言動なのかが分からない。ので、うかつに人前に出られない」

 俺が悩んでいると、またあのミクさんの声が響いた。

「(……勇者よ)」

「おっ、ミクさん。何か良い情報が?」

「(……あ、いえ、すみません。今の状況とは特に関係ないのですが)」

「うん?」

「(……先ほどはちょっと突っ込みが追いつかなくて伝え忘れていたのですが、レベルアップのお知らせです)」

「レベラッ?」

「(……その少女の体を着たときにファンファーレが流れたでしょう? 流しましたよね私)」

「ああ、あれか。え、手動なの」

「(……勇者よ……貴方のラバースーツは一定量のスーツ化を行ったため経験値がたまりレベルアップしました。ラバースーツ容量が+0.1されます)」

「ラバースーツ容量」

「(……現在のラバースーツ容量は1.1です。貴方の元の体格の1.1倍までの相手をスーツ化できるようになりました)」

「スーツ化って容量制限あるの?」

「(……はい。容量オーバーの相手はスーツ化できません。また、自分より小さい相手をスーツ化しても経験値は貯まりにくいのでご注意ください)」

「経験値制なんだ。わかりました、教えてくれてありがとう」

「(……貴方の旅の一助となれば幸いです)」

 通話終了。

「スーツ容量か……レベル上げしておいた方が良いのかな」

 体格差から考えると、今の俺ではさっきのオヤカタを取り込むことはできないだろう。猟銃を使えたら森の中でも戦えそうなのだが。

 まぶしいぐらいの日差しの中で服が乾くまでの間、俺は村娘の体のまま全裸で日光浴をした。


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