第15話 水泳部と練習試合本番

翌日、日曜日。練習試合当日ーー

「ハァーー」

 俺は有紗と一緒に朝から学校に来ていた。

 今日は先日、椿亜蓮の依頼ーーメンバーが足りないから練習試合に出てくれ、という依頼を受けており、その本番というやつだ。

 そういえば、恵美梨のやつ大丈夫かな?一応昨日は泳げるようになったけど、本番と練習じゃ全然違うからな…。

「おはよう」

「ん?」

 水着に着替えてプールサイドに行くと、恵美梨に話しかけられた。

「ねぇ、選手受付ってどこにあんの?」

「……よう。今日はビキニじゃないんだな」

 昨日はビキニを着ていたが、今日はちゃんとしたスクール水着だった。

「はぁ?昨日はプライベートでプールに行ったんだからビキニなのは普通でしょ?それともアンタ、アタシのビキニ姿に惚れちゃった?……キモいんですけど…」

 ……な、なに!?

「そ、そんなわけねぇだろ。誰もお前の水着なんて興味ねぇよ」

「……あっそ…」

 ……ちっ。なんだよ。

「おはよーっす!」

 俺達が言い争いをしていると、今日の主役ーー椿亜蓮のご登場だ。

「今日は本当にありがとな」

「皆さん、おはようございます」

 椿の後ろから出てきて、俺達に挨拶をしてきたのはもう1人の水泳部員の女子だろう。

「初めまして。私は水泳部、副部長のあおいめいです。本日は私達のためにご足労そくろういただき、本当にありがとうございます。」

 副部長さんは赤いフレームのメガネをカチャリとかけ直し、礼儀正しくお辞儀してくれた。

 大きな2つの桃が、今にも張り裂けそうなくらいピチりとした水着に釘つけになりそうだ。

「あら、紅蓮君。あまり女性の胸部ばかり見ていてはダメよ。見たいならわたしのを見なさい」

「か、花蓮先輩!?」

 いつの間にか来ていた花蓮先輩は昨日と同じ競泳用水着を着ていた。隣にはリオン先輩もいる。

「やっぱり兄さんは変態ですね。昨日も飛鳥あすか先輩の谷間をジロジロと見てたのにまだ見たりないんですか?」

 ていうか何故、俺はこんなに責められているんだ!?

「部長、何故こんな変態さんを呼ばれたのですか?」

 だから俺は変態じゃないって!思春期真っ盛りの高2男子なら誰だって見ちゃうって。

「まぁまぁ。オレもまだよく知らないけど、悪いやつじゃないよ、こいつは」

 ……本当によく知らないくせに何言ってんだよ…。

「……はぁ。もう勘弁してくれよ…」

 今まで有紗と2人だけで過ごして来たから、もう、話すの疲れたよ…。

「どうしたんだ?疲れたような顔をして。本番はこれからだぞ」

 ……くそっ、何も知らない能天気男め。

「では皆さん、もう少しで始まりますので準備をお願いします」

 葵先輩に言われ、俺達はそれぞれが泳ぐレーン並び始めた。

 第1レースは花蓮先輩と椿、それに相手チームの2人が泳ぐ事になった。


『スタート!!』


 パァン!!


 スタートの合図と共に、銃声が鳴り響き、選手達が一斉に泳ぎ始める。

 相変わらず並外れた記録をたたき出し、1位でゴールした花蓮先輩。2位は、さすが水泳部の部長と言うべき椿。

 相手チームと大差でゴールした2人はやはりすごいと思った。


 その次は俺と葵先輩の番で、結果は1位は相手チームで葵先輩は2位だった。

 俺は水泳の大会なんて初めてで緊張してしまい、4位になってしまった…。

 皆にかっこ悪い所、見られちゃったな…。


 そして最後のレース。泳ぐのは椿と恵美梨。

 基本、泳ぐのは1人1回だが、1人だけ2回まで泳いでもいいらしい。

 スタートの合図と共に選手が一斉に泳ぎ始める。

「花園はなぞのさん、本日は本当に助かりました。感謝致します」

 恵美梨が心配で泳ぎを見ようと思っていた所、葵先輩に話しかけられてしまった。

「あ…どうも……」

「先程も彩風さんとお話をしていたのですが、冷たくあしらわれてしまって……」

「そ、そうですか…」

 この人、何故か畏かしこまった言い方をするから、凄く話しずらい……。

 俺がそんな事を考えていると、妙に周りがざわめいてきた。

 どうしたのだろうと思っていると、

「……花園さん、あの方 溺おぼれているように見えませんか?」

「…ぇっ!?」

 葵先輩に言われ、プールの方に顔を向けると、恵美梨の姿が見えず、本当に溺れているようだ。

 やっぱり昨日1日では完璧に泳ぐ事は出来なかったらしい。

「なっ……!?」

「飛鳥さ…!?」


 ドバンっ!!


 俺は咄嗟にプールの中へと飛び込み、恵美梨目掛けて無我夢中で泳いだ。

 ーー何やってんだよ、あのバカ…!!

 恵美梨は水中で懸命に足掻いていたがやがて、ゴパ…!!と音を立てて息を吐き出し、思いっきり水を飲み込んでしまったようだ。

 俺は彼女の腕を掴むと必死になって水面に向かって泳いだーー。


「ぶはーー!!!」


 俺は何とか恵美梨を水面から引き上げることが出来たようだ。


「おおーーすげーー!!」


 その場にいた選手達が一斉に歓声を上げた。

「大丈夫か!?」

「私、先生を呼んできます!」

 椿と葵先輩も駆けつけ、先生を呼びに行ってくれた。

「兄さん!飛鳥先輩、無事なんですか!?」

「分かんねぇよ、結構水を飲み込んだみたいだけど」

 椿が恵美梨の顔に近づき、

「……息をしてない!?(うそ)」

「何い!!?」

 その場にいる全員、驚いた声を上げる。

 すると椿は俺の肩にポンっと手を置き、

「ん!?」

「花園…人工呼吸だ!」

「はぁああああ!?」

 突然何を言い出すんだ、お前は!!

 それに本当に息をしてないのか!?

「時間がないっ!早くっ!」

「そ、そうだなっ……」

 ーーおおお!!マ…マジか…!!マジなのか…!!

 いやいやだって人工呼吸ってそんな…。こんな公衆の面前でか…!?いやしかし今、緊急事態であって一刻をあらそうっつーか…。

 ……よしっ!本人は後で謝ろうっ!

 行くぞ…!!

 覚悟を決めて恵美梨の顔に近づいていくと

 彼女は突然、パチッと目を開けた。

 ……ぇ!?

「…な、何をやってのよっアンタはぁあぁあ!!」


 バチンッ!!


 と恵美梨の平手打ちが俺の頬に当たり、俺はそのまま気を失ったーー。




 気が付くと、俺は更衣室のベンチの上で寝かされていた。

「ようーー。気がついたか?」

 目を開けると、椿の声がした。

 どうやら椿が俺を運んでくれたらしい。

「……どれくらい気を失ってた?」

「んー5分くらいかな」

「…そうか……」

 そんなに長い時間は立っていないようで少し安心した。

 まぁ、ビンタをくらっただけだしな。

「そういえば恵美梨は?」

「あの後、事情を話したら素直に更衣室に戻ったよ」

「……ていうか、お前…よくも嘘をついてくれたな…」

「悪い悪い。まさか本当に人工呼吸しようとするとは思わなかったからさ」

 椿は腹を抱えて笑い出す。

「……はぁ。面白がってんじゃねぇよ」

「本当に悪いと思ってるよ。でもお前がそこまで恵美梨の事を大切に思ってるなんてな」

「…ちげぇよ。勝手に体が動いただけだよ」

「分かった分かった。今度奢るからさ」

「…いらねぇよ」

 ……ったく…。お前のせいで恥をかいちまったじゃねぇか…。

「本当にお前ってやつはーー、まぁいい。皆のとこに戻ろうぜ」

「あぁ!」

 俺は急いで制服に着替え、更衣室を出た。

 するとちょうど、女子達も更衣室から出てきて俺達の方を睨にらんでいる恵美梨が見えた。

「……さっきはごめん…」

「…別にいいわよ。椿のせいなんだから」

「そ、そうか…」

 恵美梨は少し頬を紅潮させ、いつものようにプイっと顔を逸らす。

ーー良かったぁ……。恵美梨はあまり怒ってないみたいだ。

「とりあえず、飛鳥さんが無事で良かったです」

 葵先輩は1歩前に出てメガネをかけ直すと、

「本日は、多少アクシデントもありましたが、無事練習試合を終わらせる事が出来て本当に助かりました。心から感謝致します」

 深々とお辞儀をするとプールサイドから出ていった。

「俺からも礼を言うぜ。本当にありがとな」

 椿も礼を言い、花蓮先輩の方をチラッと見ると、花蓮先輩と目が合うが花蓮先輩は直ぐに顔を逸らしてしまった。

 やはりあの2人は何かあるんだろうな…。

 椿は少し顔をゆがませると、悲しい顔をしてプールサイドを出ていった。

 その後、俺達も各自車や自転車などを使って自宅へと戻った。




 そして俺はこの日、よほど疲れたのかいつもよりぐっすりと眠る事が出来たーー。

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