第6話 飛鳥恵美梨のデート大作戦〈後編〉

 飛鳥恵美梨の依頼、好きな先輩に告白するためのデート作戦決行中、俺達はとある大型洋服店でちょっとした騒ぎを起こしていた。

「ちょっとみんな落ち着いて!飛鳥見失っちゃうから!」

 俺が有紗の服を見てたら他の皆も俺に選んで欲しいと詰め寄ってきているのだ。

「……そうね。こんなことしてる場合ではないわ。追うわよ!」

 ……ホント先輩は自由だな…。俺達は急いで先輩の後を付きながら飛鳥を探した。

 しかしいくら探しても店内にはいなかった。

 次はカフェで昼食だったのでそっちに行ってるだろうと洋服屋から10分歩いたおしゃれなカフェに行くと、思った通り2人は食事をしていた。俺達もバレないように少し離れた所に座り昼食を済ませる。

 2人は楽しそうに食事をし、やがて店を出た。

 俺達も後をついていく。

 そして2人は電車に乗り1本先の駅で降りた。

 この近くには大きいアミューズメント施設があり、そこで残りを過ごす予定だ。これまでは順調だ。あとはムードを作り出すだけ。

 飛鳥達はカラオケにボーリング、テニスやサッカーなどのスポーツと色々と遊んでいた。

 俺達もちゃっかり遊んでいて、花蓮先輩が持ち前の才能を発揮し、スポーツでは花蓮先輩の圧勝だった。この人成績優秀なのにスポーツも万能とかスペック高すぎだろ……。




 2人は施設を堪能したらしく建物を出て行った。

「結城先輩。今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」

「そうかい?僕も今日は楽しかったよ。ちょっと疲れたからどっかで休もうよ」

「いいですね。どこにしますか?あっ近くにいいお店があったんでそこにしますか?」

 飛鳥がそう提案すると結城先輩は今までに見た事のないような奇妙な笑を浮かべた。

「何言ってるんだい?休むって言ったらホテルだろ。ほら、行こうよ」

 そう言って飛鳥の手を掴む。

「ホ、ホテルですか?でもアタシそこまで……」

「大丈夫。僕に任せて」

 結城先輩は飛鳥の手を強引に引っ張ってホテルに連れていこうとする。

 ……これはまずい!助けなきゃ!

「ちょっと結城先輩!飛鳥が嫌がってるじゃないですか」

「……ん?誰だ君?」

 結城先輩は一気に不機嫌な顔になり、俺を睨んでくる。

「俺はそいつと同じ部活の仲間です。本人が嫌がってるんで話して下さい」

「今は僕と彼女のデート中なんだ。君は黙っていてくれたまえ」

「そ、そうよ!アンタには関係ないじゃない!それに何でここにいるわけ!?ま、まさかずっとついてきたんじゃないでしょうね!」

 飛鳥まで声を荒らげている。

「確かに俺達はこの前知り合ったばかりでこんな事言える立場じゃない。でも関係なくはないだろっ!俺達は同じ部活の仲間なんだ!」

 俺は飛鳥に本音をぶちまける。

「俺はっ!ちょっとの間だけしかお前らと会ってないけど!それでも俺は、お前らが大好きなんだ!やっと俺にも居場所が出来たんだって、そう思えたんだ!だから俺は大切仲間を傷つけようとしているあんたを許せない!」

 これは本当だ。今まで父さんと有紗しか信じられなかったが、ここ数日こいつらといるのがとても楽しかった。こいつらなら信じられるんじゃないかってそう思ってる。

「……うるさいな…。いきなり怒鳴って一体何がしたいんだい。それに、君。まるでこうなる事を分かっていたみたいだね」

「…えぇ。あなたの噂は聞きました。彼女がいるにも関わらず複数の他の女性と肉体関係を持っているという、とても聞き捨てならない噂をね」

 俺が尾行をしようと言い出したのはこれが理由だ。以前、結城先輩のこういう噂を聞いていたのでこうなるんじゃないかと予想していたのだ。

「……そ、そんな…。そんなわけないっ!だって先輩凄く優しくてっ!だからそんな事するわけ……」

 飛鳥は現実を否定するように俺に怒鳴ってきた。

「……多分本当だ。きっと今までずっと隠して来たんだろう。この時のために」

「せ、先輩…。本当ですか…?」

 飛鳥は信じられないような顔をして恐る恐る先輩に聞く。

「…本当だよ」

「……っ!」

 先輩はニッコリと笑い、飛鳥はものすごく驚いた顔をしている。

「……ていうか何笑ってんだよ、結城先輩!あんたは最低だっ!」

「騙される方が悪いんだよ」

 俺は頭に来ていた。やっと友達になれそうな奴をこんな野郎のせいで汚されそうになっていたんだから。

 俺は無意識のうちに先輩に向かって拳を振り上げていた。そしてその拳は我慢されることはなく先輩に向かって振り下ろされていた。

「……ぐはっ!」

 先輩はうめき声を出して後ろに吹っ飛ぶ。

「…飛鳥、逃げるぞっ!」

 俺は飛鳥の腕を掴んでその場を逃げる。

「ちょっとっ!そんなに引っ張んないでよ!」

 飛鳥は文句を言いながらも俺と一緒に走って行った。





 俺達は花蓮先輩達と合流して電車に乗った。

「何なのよアンタ達っ!尾行なんかして、最低!」

 飛鳥は席に座るや否や俺達を罵倒した。

「俺はお前を心配して…。」

「……ふんっ!助けたてくれたことは感謝してあげるわ。それから……し、心配してくれたことも……。でもっ!もう2度とこんな事しないでよねっ!」

 飛鳥はそっぽを向いてしまったが俺達に感謝しているんだと伝わった。

 ……やれやれ。世話の焼ける奴だ。

 その後はみんな無言で過ごした。

 しかし電車を降り、駅前で別れる時になって、

「きょ、今日はありがとうね。その……いろいろと」

 いきなり飛鳥が行った。

 少し頬を紅潮させながら、

「……アンタのおかげて助かったわ。ちょっとだけだけどアンタを認めるわ。花園」

「……どうせなら名前で呼んでくれよ…」

「それは嫌。アンタの名前、アタシの幼馴染みと同じ名前だし、だけどアンタなんかと全然比べものにならないくらい優しいんだから」

「そ、そうかい…」

「そうよ。じゃ、バイバイ」

 早口で言って飛鳥は踵を返し駅前の駐輪場の方へと軽い足取りで行ってしまった。

「わたし達も帰りましょ」

 花蓮先輩に言われ、俺達も駐輪場へと向かうのであった。





家に帰ると俺はご飯も食べずにそのまま眠ってしまった。

そして俺は昔の夢を見たーー。


金髪碧眼の小さな女の子。

俺は小学校に入る前、近所で知り合ったその子と毎日のように遊んでいた。

保育園で馴染めなかった俺にとってその子は救世主のようだった。

いつも明るく俺を引っ張ってくれる、そんな少女だった。

俺はいつか彼女に恩返しがしたい、そう思っていた。

しかし、父さんの転勤の都合でその街から引っ越す事になった。

俺はその子に別れを言うのが辛くて、何も言わずにその街を出た。

今になってはその子の顔も名前もよく思い出せないが、その子に救われたことは忘れていない。


俺は起きるといつの間にか涙を流しぽそりと呟いていた。

「また、会えると言いな」

と。

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