第5話 飛鳥恵美梨のデート大作戦〈前編〉
「それで貴女の依頼はその好きな人に告白する手伝いをしてほしいという事ね?」
花蓮先輩がそう淡々と告げる。
特別相談部の活動開始日に星野杏先生によって連れてこられた同じ特別相談部の部員である飛鳥恵美梨の依頼はこうだ。
好きな人がいる。しかしその人はサッカー部の先輩で話したのは1回くらいでほとんど面識がないらしい。
だからまずその人に自分の事を知ってもらいあわよくば告白するまでこぎつけたいとの事だ。
「というか先輩、随分とやる気ですね」
「何を言ってるのかしら。わたしはただ早く帰りたいから仕方なく飛鳥さんの相談にのってあげているだけよ。勘違いしないでちょうだい」
「だったら生徒会の方もやる気を出してくれているとありがたいのだけどなぁ…」
「先生。何かおっしゃいましたか?」
「いいえ。別に。あはは……」
俺も先生と同意見なんだけどな…。
まぁとにかく飛鳥の依頼を早く終わらせちゃおう。
「じゃあ土曜日デートに誘って、そこで告白しよう。それでいいよな?」
「はぁ?なに勝手に決めてんの?それに土曜日とか早すぎるし。馬鹿じゃないの?」
「じゃあ諦めるか?こういうのは勢いが肝心なんだよ。当たって砕けろ、っていうだろ?」
「……」
飛鳥は
「分かった。土曜はそれでやってみる。その代わり失敗したらアンタの責任だかんね?」
「はいはい。分かってるよ。じゃあデートプランとか俺達で考えとくからお前は大船に乗ったつもりで土曜を待っとけ」
「……アンタ達、友達もいないんでしょ?それなのにデートプランとか考えられるわけ?」
「大丈夫だって。俺達に任せとけ!」
「何その自信…。腹立つんですけど。まぁいいわ。任せるわ」
「じゃあまずはお前と先輩の情報を教えてくれ。そしてそれを踏まえた上でデートプランを考えるから」
「アンタにしてはまともな考えね」
「まぁ基本だからな」
それから俺は飛鳥の好きなものや趣味などアピールポイントなどを聞き、そしてサッカー部の先輩の情報も聞き出した。
その日の夜、俺は土曜日のデートプランについて花蓮先輩と電話で話していた。
『あなた本当にデートプランなんて考えられるの?』
電話越しでも花蓮先輩の声は相変わらず冷たい。でも今はそれに慣れているので全く不愉快にはならない。逆に先輩らしいとさえ勝手に思ってしまう。
『大丈夫っすよ。俺は有紗と何回もデートしてるんですから』
『……はぁ。そんな事だろう思っていたわ。今回のは妹とデートするのとは全く違うのよ?』
『でも同じようなもんですよ。それに俺はこういうの結構得意なんですよ。なんとなくだけど』
『なんとなくって……。まぁいいわ。あなたに任せるわ』
『分かりました。ではおやすみなさい』
『えぇ。おやすみなさい』
……ふぅ。やっぱり電話は緊張するな…。
「兄さん。私も手伝いましようか?」
有紗が俺の部屋に入ってきた。俺らは一応部屋は別れているが大体、有紗が俺の部屋に入って来て俺の部屋で一緒に過ごしている。
「ん?大丈夫だ。」
「そうですか……」
「ん?どうした?」
何やら有紗の元気がない。
「いえ、最近の兄さんは楽しそうだなって……。やっぱり私といるより特別相談部の人達といる方がいいのかなって…」
「何言ってんだよ…。そりゃちょっとは楽しいとは思ってるよ。俺の憧れみたいなものだったからな…。でも一番はお前だぞ。お前が一番俺の事を分かってくれているし、一番お前を愛してる。だから心配すんな」
俺は有紗の不安を取り除くため頭を撫でてやる。こいつは心配なのだ。
こいつにとって俺は唯一の存在だと思う。
だから俺が他の人に取られるんじゃないかって心配してるんだ。
でも大丈夫。俺はお前を見捨てたりなんて絶対しないからな。
そしてその日は俺のベットで一緒に寝た。いつもは自分の部屋で寝ているのだが、しょうがない。こいつの不安を取り除くには一緒にいてやることしか出来ないからな。
翌日の放課後。俺は昨日考えたデートプランを飛鳥に教え、俺達は陰から飛鳥を見守る形にした。
サッカー部の先輩は
といってサッカー部のエースらしい。
けれどうちの学校はどの部もそんなに強くないので、土曜日はたまたま休みだったらしい。それで飛鳥が誘った所、快くのってくれたみたいだ。
そして土曜日に向けて詳しく相談しあった。
そして土曜日がやってきた。
待ち合わせ場所は市内の駅で、結城先輩が来るのは10時。
俺達はその30分前に集合し、今日の事について念入りに話しあった。そして俺達は飛鳥を残し物陰に隠れて結城先輩が来るのをまった。
そして待ち合わせ時間の15分前になって結城先輩がやってきた。
「ごめん、待った?」
飛鳥は結城先輩の声を聞いた瞬間、顔を真っ赤にして緊張しだした。
「い、いいえ。今来た所ですよ。あ、あのっ今日は忙しい所来て頂いてありがとうございます」
「いや、大丈夫だよ。たまには息抜きもしたいと思ってたとこだったからさ。ん?今日はいつもと違うね。私服だからか。凄く可愛くて俺、そういうの好きだよ」
結城先輩は爽やかな笑顔で飛鳥の私服を褒めた。
…まぁこれは事前に調査済みなのでこうなってくれないと困るんだが。
飛鳥は褒められて茹でダコのように顔を真っ赤にしてる。
そりゃ嬉しいだろうな。好きな人に私服を褒められるってのは。
「あ、ありがとうございます…。」
「じゃあ行こうか。今日はどこ行くの?」
「あ、はい。今日はアタシが考えてきたのでそれでいいですか?」
「うん。全然いいよ」
そして2人のデートが始まった。
飛鳥の好きな店に行ったり、結城先輩の店に行ったりして2人共楽しめるデートプランになってるはずだ。
俺達はそれを見守る形で尾行してる。
「先輩、2人が動き出しました。後をつけましょう」
「紅蓮君……本当に尾行するの?」
「なんかこういうのやってみたかったんですよね。それに先輩だって楽しそうじゃないですか」
先輩は最初こそ渋ってたものの今は楽しそうに目をキラキラしている。
「…まぁね。いつも彩風財閥の令嬢として習い事や稽古ばかりやらされてたからこういうのはわたしも憧れてたのよね」
「やっぱりですか。今日はバレない程度に楽しみましょう!」
「……わたし達が楽しんでどうすんのよ…。ほら、わたし達も移動するわよ」
飛鳥達は5階建ての大きな洋服屋に入った。ここら辺で一番大きな店で、品揃えもよくここで大体のものは揃ってしまう。
俺も有紗の服を選ぶ時にここで買っている。
俺達もバレないように後をつける。
しかしいざ洋服屋に入ると尾行の事を忘れて、服を見るのを楽しんでしまった。
「見ろよ、有紗。この服とか似合うんじゃねぇか?最近勝手なかったし、もう高校生なんだからもっとおしゃれしないとな」
俺はピンクのフリフリが付いたワンピースを飛鳥に見せた。
「兄さん。わたしはこっちの方がいいです」
有紗は白のワンピースを持ってきた。
「それもいいと思うけど、これなんかどうかしら」
花蓮先輩も有紗の服を選んでいる。
「先輩はこことかよく来るんですか?」
「あなた、わたしを誰だと思ってるの?彩風財閥の令嬢がこんな庶民的な所で服を買うとかありえないわ。わたしはうちの子会社の所でオーダーメイドで服を作ってもらってるの。わたしのためにね」
「やっぱり先輩ってお嬢様なんですね…。ムーンナイトとかはどうしてるんだ?」
やっぱりあまり話さない月野に話を振った。
「我はいつもこの服装だから買い物とかせぬわ」
「お前、いつもそれなのか?可愛いんだからもっとおしゃれしろよ…」
「か、可愛い!?き、貴様よくもそんな恥ずかしい事を堂々と!」
月野は顔を赤くしてオロオロしている。何だかこういうのを見るとちょっとイタズラとかしたくなってしまう。
「何照れてんだよ?俺は本気だぜ。お前は俺の中でもトップクラスに可愛い!」
「そ、そんなに褒めるでないっ!だったら貴様が我の服を選ぶが良い、クリムゾンよ」
「クリムゾンっ!?」
「そうだ。我の眷属にふさわしい名だろ?」
「紅蓮でクリムゾンか…。なかなか上手いな」
「……兄さん」
「ん?何だよ、有紗」
有紗がまた不機嫌そうな顔を睨んでいる。
「……また私を無視してその子と楽しそうにお話してる…」
「だったらお前も混ざればいいじゃねぇか。こいつも花蓮先輩も案外いいやつだぞ。お前も仲良くなれるって」
「そうよ。有紗さん。わたしが可愛い服を選んであげるから」
「……私は兄さんに選んで欲しいんです」
「じゃあわたしも紅蓮君に選んでもらおうかしら」
「クリムゾン。我の服も選んでくれ」
……あぁもうっ!3人でいっぺんに来ないでくれぇぇっっ!!
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