第4話 特別相談部活動開始

 ホームルームを終えて教室を出ようとすると担任の星野杏先生に呼び止められた。

「ねぇ、花園君。今日から部活だって分かってる?」

 そう言われて俺は思い出す。今日から特別相談部とかいうのが正式に始まるのだ。

「勘弁して下さいよ。俺達はあの場にいるだけで吐き気がするんですから」

「君達の病気は一応分かってるつもりだよ?だからあえてそういう場に連れてって克服してもらわなくちゃ」

 マジかよ……。

「はぁ…。分かりましたよ。行きますよ…」

「じゃあ先生は他の人にも声をかけて来るからちゃんと部室に行くんだぞっ!」

 キャピンっと擬音がつくようなウィンクをして先生は教室を出ていった。

 ……先生もう三十路なんだからそんな事すんなよ…。

 だからいつまでたっても結婚できな…ヒッ!

 なんか先生がこっち振り向いだぞ。いい加減それ怖いからやめてくれよ…。

 俺は部室に行くために教室を出た。

 するといつものように妹の有紗が廊下で待っていた。

「悪いな。待たせちまったか?」

「いえ、大丈夫です。先生と何か話してたんですか?」

「あぁ。部活行けってさ」

「あぁ…部活ですか……」

「大丈夫だって。俺がついてるからさ」

「そうですね。ありがとうございます」

「よし。行こうぜ」




 県立咲乱高校の校舎は三階建てで1階に職員室、事務室と3年の教室。

 2回には実習室や生徒指導室、2年の教室がある。3階には1年の教室と音楽室などのその他の教室がある。てなわけで2年の教室からは生徒指導室ーー特別相談部の部室はめちゃくちゃ近いのだ。

 要するに俺が一番先にこの部室につくはずだ。

 いざ部室の扉を開くと、白髪の少女ーー確か月野つきの瑠樺るかとかいうやつがゲームをしていた。プレイ《P》スティング《S》ベータ《β》だ。俺も持っていて最高のゲーム機だ。

「……」

 とはいっても、何と声をかければいいか分からない。とりあえずここは無難に

「よ、よう。随分と早いな。それ何やってんだ?」

 と言っておこう。お、おぉ。昨日こいつらと話したおかけで大分すんなりと挨拶できたな。

 月野は刹那こちらを見ると、次の瞬間にはその目をゲーム機へと向けた。

「無視かよ……。相変わらずだな、月野瑠樺」

 すがすがしいまでの無視に一瞬自分が空気になったのかと思った。

 そういえば極度の人見知りだったんだっけ。

 俺だって、挨拶されれば返すことくらい出来るぞ。

「……違う。」

 月野はボソッと何かをつぶやいたが全く聞き取れなかった。

「……なんだって?」

「……その名は仮のものに過ぎない。我の真名は月夜の支配者 《クイーン・オブ・ムーンナイト》」

 さっきよりは声に張りがあるがやはり小声で何やら中二病的なことを言ってきやがった。

 やっぱり中二病患者だったのか…。

「……えぇと《クイーン・オブ・ムーンナイト》?

 長いからムーンナイトでいいよな。ムーンナイトは何のゲームをやってんだ?」

「……っ!」

 俺が話にのってやると一瞬驚いた顔をしたが、やがて口元に不敵な笑みを浮かべて嬉しそうに話してきた。

「ふっふっふ。我がやっているのは『デモンズイート』だ。」

「おぉっ!『デモンズイート』か!俺も好きだぞ!それ何だ?やっぱり最新のRebirthか?俺はその前作のEXPLOSIONが好きだぞっ!」

『デモンズイート』とはダンバイコナムという会社が発売しているチーム連携型ハンティングアクションゲームの事だ。7年前に初代が出てからシリーズ化されており、その中でも一昨年に発売された『デモンズイート2EXPLOSION』が一番人気が高い。俺も大好きでまさかここに同士がいたとは。俺は当然学校行く時以外は家に引き篭もっているわけなのでこのゲームはかなりやり込んでいる。

「ふっふっふ。貴様よく分かっているな。やはりEXPLOSIONが全シリーズで最高の作品だ。」

「だよなっ!なんだお前結構話せるじゃねぇか」

「貴様もな。いいだろう。貴様を我が眷属に迎え入れてやろう」

「……なに言ってるかよく分かんないけど、これからよろしくな、ムーンナイト」

「こちらこそ頼むぞ。我が眷属よ」

 俺達は熱い握手を交わした。

「……兄さん。何やってるんですか?」

 声の方を見ると有紗が珍しく怒ったような顔をしていた。

「おう、有紗。別に忘れてたわけじゃねぇぞ?」

「いいえ。絶対に私を無視して2人だけの世界に入ってました!……この裏切り者」

「おいおい、どうしたんだよお前。そんなキャラじゃないだろ。」

「……ふんだ。私以外の女性の手なんか握っちゃって…。」

「別に握手しただけじゃねぇか。それに俺はお前のもんだぜ。そしてお前は俺のもんだ。だから握手ぐらいで嫉妬すんな。な?」

「……それなら別にいいですけど」

 有紗は恥ずかしいのかプイッと顔を逸らした。

「……何を騒いでるのかしら。少し静かにしてもらえるかしら。」

 突然声がして振り向くとそこには腕を組んでいる生徒会長の彩風あやかじ花蓮かれん先輩がいた。

「……先輩。生徒会の方はいいんですか?」

「私は生徒会にいたんだけど突然星野先生がやってきて無理矢理連れてこられたの。全く、強引なんだから…」

「……先輩もですか?俺もなんですよ」

「あら、あなたは…確か花園はなぞの紅蓮ぐれんとかいったかしら」

「はい。先輩も大変ですね。別に友達なんかいらないのに…」

「えぇ。全くだわ。ほらわたしって可愛いから、昔から近づいてくる男子はたいていわたしに好意を寄せてきたわ。その反面、わたしに近づいてくる女子はたいてい敵意を向けてきたの。今もそう。友達なんて今までいなかったし、そしてこれからも…」

 そう言う先輩の顔は悲しそうにどこか遠い目をしている。

「俺、ぶっちゃけ言うと有紗以外の人って興味ないんで、俺となら仲良く出来んじゃないっすか?」

 ……何を言ってるんだ。別に仲良くしたいわけじゃない。

 ただ、悲しそうにしている先輩の顔がどこか昔の有紗そっくりの顔をしてたからーー

「本人を目の前にして随分の言いようね。

 ふふ。いいわ。そういうとこ嫌いでわないから下僕としてなら仲良くして上げても良いわよ?」

「……どんだけ上から目線なんだよ…。まぁよろしくな、彩風先輩」

「えぇ。よろしくね、花園君ーーいえ、紅蓮君。わたしの事も花蓮でいいわよ」

「……っ!いや、いいっすよ…」

「いい?わたしが呼んでいいって言ってるだから素直に呼びなさい!」

 そう言う先輩の顔は赤くなっている。

 ……ったく仕方ないな…

「……花蓮先輩…」

「……よろしい」

「そういえば、もう1人のやつ来ないですね…」

「そうね…。でもそろそろ来るんじゃないかしら」

「そうっすね…」

 俺達は何だか気まずくなって会話が途切れてしまった。仕方ない。普段有紗以外の人間と話す事なんてないし、初対面の人と会話が続くわけなんてないのだ。

 それは花蓮先輩も同じだろう。

「……そういえばあなた妹以外の人とは話せないのかと思ったわ」

 しびれを切らしたのか花蓮先輩が話題をふってきた。

「まぁ話せないことはないっすよ。ただあまり会話は続かないっすけど…。俺より有紗の方がダメなんですよ。現に今も黙って俺の事睨んでるでしょ?」

 俺は目線を有紗の方に向ける。あいつはどうも俺が他の女性と話しているのが気に食わないらしい。

 有紗は俺と父さん以外の人と話すことなんてないわけだから当然俺は嫉妬とかはないわけだが…。




「入るよ〜」

 ここでやっと先生がやってきた。

「先生、遅くないですか?わたし達を呼んどいて何をやっていたんです?」

「まぁそう怒らないで、今日は記念すべき相談者第1号を連れてきたんだから。ほら、入って」

 先生に促されて気まずそうに俯きながら入ってきたのは昨日俺達と共にこの部に入らされた飛鳥あすか恵美梨えみりだった。

「……先生。別にアタシはこいつらに相談することなんて…」

「何言ってんの。困った事があったら助け合うのが仲間でしょ?」

「だから仲間じゃないし…」

「何を騒いでるのかしら。いいから座りなさい」

 花蓮先輩が飛鳥に席を勧める。

「……ふんっ!」

 しかし飛鳥は偉そうに腕を組んで勢いよく座り込んだ。

 今の席順は机の左から月野、花蓮先輩、俺、有紗の順で並び、そして花蓮先輩の正面に飛鳥が座っている。

「わたし忙しいのだから用があるなら早く言ってちょうだい」

 ぶっきらぼうに言いながらもちゃんと聞こうとしてるあたり素直じゃないなぁと俺は心の中で思った。

「ほら、飛鳥さん言っちゃいな」

 先生に促されるもしばらく黙って俯いていた飛鳥だったが突然顔を上げて顔を真っ赤にしてその悩みを吐き出した。

「アタシ好きな人がいるのっ!」

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