初等部 Ⅲ

第23話 冬の日

 魔女騒動から一週間が経ち、俺は無事に退院することが出来た。

 学校は事件について調べると共に、原因の追求、被害者の身元の確認などに追われているためしばらくの間閉鎖となってしまった。

 だからという訳では無いが俺は家の書斎に閉じこもり、必死に魔法陣についての本を探していた。

 父に聞くことも考えたのだが、現在は魔女について調べているために家に帰ってはこれないとの事でさすがに諦めた。

 そして書斎になら。ということで現在に至る。

 とは言ったものの、それらしきものは未だ見つからない。背が届かない高さの場所にあるのなら仕方がないが、届く範囲に置いてある本はまだ大量にある。諦めるのはそれからでいいだろう。本を足場にして高いところを調べるというのも考えたが、前世でラノベにお世話になったので本を足蹴に扱うことができずにそれはやめた。他に足場になりそうなものはなかったので将来調べるのもあり。ということでやめた。


「にしても……多すぎだろ!」


 少し前までは気にすることもなかったのだが、今になって見てみると書斎の本の量はかなりなものだ。

 確かに前は魔術があることに興奮して目の前のことしか目に入っていなかったが、冷静に見てみるとこんなにも本があることは異常だ。やはり父親が副団長というものはそういうものなのだろうか。であれば団長の娘であるエリカの家は…………考えるのはやめておこう。

 背伸びをして本を取る。赤い背表紙が目につく本だ。


「……黒魔術」


 痛い前世を思い出す。中学生の頃はこういうのにハマったっけ。たしか魔法陣をノートに書いて髪の毛を置いて…………思い出したら恥ずかしくなってきたな。


「これは読むのはやめておこう」


 赤い背表紙の本を元のあった場所に戻し、痛い記憶を忘れることにした。


「ていうかなんで黒魔術の本なのに赤いんだよ」


 本へのツッコミは誰に聞かれるわけでなく虚しく書斎に響いた。


 書斎に閉じこもって三時間が経過した。未だ進捗はなし。いや、それらしき本はいくつかあったのだ。だが、内容が難しく理解不能だったために少し読んでやめた。

 諦めずに読み進めた本もあったが、予想通り。というと少し悲しくなるが、俺には扱えるものではなかった。

 すぐに上達するなんてことはないって事だな。

 時刻は12時。ちょうど昼時だ。もうそろそろで――


「ロイ様?こちらですか?」


 クロトだ。昼食が容易できたということで呼びに来たのだろう。

 すぐに扉を開け、久しぶりに見た時は感動したものの一週間で慣れてしまったメイド服が目に付いた。

 紺色の髪を犬の耳のように振り、もしかしたら尻尾でも生えてるんじゃないかと錯覚するほどに嬉しそうな顔だ。


「今日はどんなご飯?」


「本日は私とノーラ様が作ったんですよ」


「おお!それは楽しみだ!すぐ行こう!」


 本を元の場所へ戻し、早歩きで戻る。今すぐ走って戻りたいが、以前に廊下を走って母さんにこっぴどく怒られた記憶があるため絶対にしない。

 後ろについてくるクロトを置いてかないように注意しながらも、大広間までやってきた。

 既にテーブルの上には料理が用意されていた。


「お兄様!早く食べてくださいっ」


 可愛い妹の催促があったため俺はすぐに席につき、その料理を味わうことにした。


「うん、美味しいよ」


 隣に座った妹の頭を撫でる。ニコニコせずにはいられないという様子のノーラにこちらも笑顔になる。


「いいお嫁さんになれるな!」


「うん!お兄様のお嫁さんになりますっ」


 先よりも飛びっきりの笑顔で答え、兄としては最上級の嬉しい言葉を言ってくれるノーラに感動しながらも、クロトに催促されすぐに別の料理に手をつける。


「あ、これクロトが作った料理だね」


 ほぼ毎日食べていればクロトの料理の味付けはわかる。俺の好みに寄せてきてくれているからわかりやすいのだ。


「うん、安心する味だよ」


 それだけ伝えるとどこか不機嫌になったクロトは頬を膨らませて何かを訴える目でこちらを見つめる。


「ごめん、ちょっと意地悪したかっただけだよ」


 すぐにクロトの頭に優しく手を置く。すぐに笑顔に変わり、尻尾を振る。

 クロトは満足したのか、厨房の方へと戻っていった。


 昼食をとり終えた俺はもう一度書斎に戻り、魔法陣についての本を探す作業を再開した。

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