第9話 特訓しましょう
「…………っ!!」
魔法を連発して発動しすぎたせいか魔力切れによる頭痛と目眩が激しい。
意識が朦朧とする中出現した次の的に向かい、6級魔法『
放たれた魔法は始めた当初よりも弱々しく的へたどり着き、当たった瞬間に砕けて散った。
地面へと手を付き、ゆっくりと寝そべって空を仰ぐ。空と言っても上にあるのは屋根の枠組みだけで、綺麗な青空はどこにもない。
「ロイくん!?大丈夫ですか!?」
後ろで見守っていたアイリス先生が駆け寄り、応急処置として魔力を補給するためのポーションを飲ませてくれた。
現在俺は学校内にあるトレーニングルームにてアイリス先生の指導のもと魔法の練習を行っていた。
ここに至る経緯を簡単に説明するならば、『俺には才能がなかった』の一言に尽きる。
事は数時間前に遡る。
※ ※ ※ ※ ※
「ロイ様っ、お次は移動になります」
ふわふわとした黒よりの紺の髪を揺らし俺の席へと近づいてきたのはクロトだ。
昨日クロトとエリカが起こしたあの喧嘩のおかげでクロトの主である俺が恐怖の対象に入れられたらしく、見事にクラス内にて孤立するという盛大なスタートミスをした。
それはクロトもエリカも同じようで、クラスメイトから頭一つ抜きん出ている二人はどうもクラスに馴染めないらしく、孤立してしまった。
二人はそのことに対して何かを思っている様子はなく、今朝目を合わせただけでまた喧嘩になりそうなくらいだ。反省という言葉を知らないようだ。
「えーっと、次の授業は……」
「魔術Ⅰですね。場所はトレーニングルームです」
学校に来て初めての魔法の授業だ。
クラスメイトの実力というものが初めてわかる、ということもあり少し緊張してしまう。
1年生の教室前廊下ということもあってか、人通りの少ない廊下をクロトと並んで歩く。
少しだけ気になって辺りを見渡してみたが、あの目立つ金色の髪はどこにも見えなかった。
「誰をお探しで?」
横から俺の様子を見ていたクロトから鋭い視線と冷たい声音が飛んでくる。
やはりクロトはエリカの事をよく思っていないらしく、俺が少しでもエリカを気にする素振りを見せたらこのように少し怖くなる。
俺としては単純に、孤立してしまったエリカのことが心配なだけなのだが、クロトは何を勘違いしているのか俺がエリカと仲良くしたいと思っているようだ。
エリカの様子からして仲良くなるのは骨が折れそうなのでやめておくが、流石に孤立している相手のことは気になってしまう。
俺自身が孤立するということは慣れているのだが、どうも他人が孤立するのを見るのは嫌ならしい。
それに今の俺に関しては完全な孤立という訳では無い。その点が前世よりイージーモードだ。
だが、エリカは違う。
俺のように従者がいる訳でもなく、元からの友達がいる訳でもない。
そう、クラスでたった一人、取り残されてしまったのだ。
そんな俺の心配をよそに、エリカは既にトレーニングルームにいた。
やはり一人だった。
「エリ――――」
声をかけようと思い名前を呼んだ瞬間に足を蹴られた。
すごく速い攻撃だったので誰かはわからないが、後でクロトとは話し合う必要がある気がする。
「はいっ!皆さんちゃんといますね?」
クラスメイトたちの背中で見えないが、どうやらアイリス先生がいるらしい。
時折、ぴょんぴょんと跳ねているアイリス先生の白い髪が見えている。
「今日は応用魔法の基礎となる魔法についてやりたいと思いますっ」
そう言って説明されたのは『
これは昨日クロトとエリカが使用していた魔法だ。
これを使えば自身の能力の向上、攻撃力の上昇、魔力の増加、魔法攻撃力の増加などなど色々な恩恵を受けられる。
ただ、ここで一つの問題が生じた。
俺は現状6級魔法、それも初歩的な
いかに四元素全てを使えようが、力が、才能が足りていなければ意味が無い。
俺以外のクラスメイトは悪戦苦闘しながらもなんとか使えるようにはなったようだ。
そしてこれから継続時間を伸ばそうという授業へと変わる。
俺はまるでできない。
クロトやエリカは当然のように出来ている。二人は互いにどれだけ長い間使用できるか勝負をしているらしく、そんな中クロトに水を差すことなんてできない。
やはり一人でやるしかないのだ。
「……っ」
魔法のイメージをして発動させてみるがどうも体に馴染まない。
体に身につく透明な服のようなものをイメージしたのだがそれではダメなのだろうか。
クラスメイトの中にも俺と同じように出来ない連中はいたのだが、時間がたつにつれて徐々にその数は減っていき、最終的には俺だけになった。
「ロイくん、どうですか?」
アイリス先生が俺の様子を見ていたのか声をかけてくれた。
今までも何度かこちらに視線を向けていたのだが、周囲の生徒に声をかけられていたようで、俺のところに来るのが遅れたらしい。
先生は俺に対して肩を落とすことは無かった。
副団長の息子として学校内からは俺への期待がかけられていただろうに。
先生は俺の事を『出来ない子』だとは思わなかった。
が、そんな先生のような人間だけで世界が構成されているのならどれだけ生きるのが楽だっただろうか。
聞こえてくるのはクラスメイトたちの冷ややかな声だ。
失望、嘲笑、侮蔑、その声にはそれらが含まれているように感じられた。
「副団長の息子なのに」「従者の方が強いって……」「大したことないな、あいつ」と言った声が俺の耳に響く。
思わず心を閉ざして目を背けたくなる。
が、それを許さなかったのはクロトだ。
「黙りなさい。私の主を馬鹿にするのは許しません。ロイ様はあなた達が考えている程弱い方じゃない。ロイ様は決して諦めることはしません」
エリカとの勝負を放棄してクラスメイトへとその怒りをぶつける。
いや、怒りと言うよりかは呆れに近いのかもしれない。
「……ロイくんっ!先生と一緒に特訓しましょう!!」
先生は周りの声をかき消すように声を出して俺へと提案してきた。
周囲の目は気にしない。
自分のやりたいようにやる。
できないことはできるまでやる。
私はあなたを見捨てない。
アイリス先生がそう言っているのがわかった。
ならば答えは一つだろう。
※ ※ ※ ※ ※
そんなことがあり、現在俺はアイリス先生と放課後の特訓タイムを使って6級魔法の練習をしている。
いきなり
ということで6級魔法でも初歩である
始めた当初はしっかりと形を保った手のひらよりも少し大きめの雷鳥が3匹飛んでいたのだが、時間がたつにつれて数が減っていき威力もなくなった。
「少し休んだらもう一度ですよっ」
ベンチに腰掛け魔力切れを良くしようと安静にする。
先生は用意してくれた水筒を飲み、喉を潤す。
クロトには先に帰ってもらい夕飯の準備をしてもらうことにした。
「残ります」と言って聞かなかったのだが、なんとか押し通し帰すことに成功した。
「魔力切れの感覚は覚えておいてください。どんな予兆が現れるのか、というのは大切なことです」
隣に座ったアイリス先生が丁寧に説明をしてくれる。
しっかりと説明されたことを一回で頭に叩き込み、忘れないよう気をつける。
少し休憩し、調子が戻ってきたのでもう一度練習へと戻る。
「では先程とは少しだけ魔法を変えてみましょう」
「魔法をですか?」
「いえ、正確には魔法自体を変えるわけではありません。そうですね、少し見ていてください」
そう言ってアイリス先生は奥に立ってある的に両手を向ける。
アイリス先生の体と変わらないほど大きな魔法陣が目の前に浮かび上がる。
通常、魔法陣というのは2級魔法以上に使用する安定性を向上させるための技術だ。それを6級魔法に使う。その意味は見ていればわかった。
「
先生の手から放たれた鳥は一匹。
しかし、その大きさは普通のものとは比べ物にはならなかった。
先生の体と同じ、いやそれ以上の大きさの雷鳥が目の前の的に向かって一直線に飛んでいく。
的に当たると同時に視界が眩い閃光に包まれ、目の奥に痛みを感じる。
視界が開けた頃にはそこにあった的は黒焦げになり朽ちた。
朽ちて灰となった木の香りが鼻腔をくすぐる。
それは俺が知る魔法の威力ではなかった。
「この技術を使えればロイくんもみんなと同じ……それ以上に強くなれますよっ」
使い終わったアイリス先生は子供のように愛らしい笑顔でそう教えてくれた。
「わかりました……!!俺、やってみます!」
諦めることなんて出来るはずがない。元より諦めるつもりなんて微塵もなかった。
期待なんて知らない。他人の評価はどうでもいい。
俺は俺の事をちゃんと見てくれる人達のために頑張ることにする。
「そうです、その意気です。『才能の差は努力と経験で埋められる』。これは私の恩師の言葉ですが、その通りだと思います。結局は当人のやる気次第。才能を言い訳に逃げることは何よりも弱いことです。ロイくんは弱くなんてありませんよ」
前世では散々逃げてきた。
今世くらいかっこよく生きてやろう。
こうして俺とアイリス先生の特訓の日々は始まった。
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