9-3.本当の決戦のときを迎えました。

 UD本部のテレビで人間界のニュースを見る。

 どこのチャンネルも、天道大学と聡明寮の爆発の話ばかりだ。


「やられたか……」


 視聴者提供の映像に切り替わると、再び緊張が走った。


『燃えあがる炎の中に、七人ほどでしょうか、人影が見えます。黒いマントのようなものを被っています。おそらく、犯人グループだと思われますが、詳しい情報は入っていません』


 俺たちは、犯人グループに仕立て上げられていた。


「厄介ですね。これでは記憶の操作も容易ではありません」


 ニュースで見られて広まってしまっては、森定さんの能力も対応しきれない。森定さんは頭を悩ませる。


 一方テレビの中では、コメンテーターとキャスターが議論を交わし始めていた。


『襲撃されたのが天道大学とその寮でしょ? これは確実に意図があるとしか思えませんよ。犯人グループは天道学園の関係者なのかどうなのか、学園に恨みでもあるのか。早く調べてほしいですね』

『そうですね。七人グループということで、またどこかを襲撃する可能性もありますね。学園の皆さんは、念のため避難の準備をしてください』


 この番組に限らず、どこも同じようなことを言っては国民を煽る。


「どうするんですか、ベルさん」

「そう、だな……。とにかくミカエルを探し出さないことには、手の打ちようがないな」


 何か方法はないのか。UD全員で頭を捻るが、良い案は早々浮かばなかった。


 その静寂を破ったのは、俺の手の甲から発せられる声、サンダルフォンとメタトロンだった。


『みなさん、ご無事ですか?』

「ああ。ミカエルは見つかったのか?」

『今UDの天国課の街を襲撃してる。あそこはでかいから、しばらく時間はかかるだろうよ』

『私たちもすでに到着しています。みなさんも急いでください』

「了解した」


 手の甲の光が消えるのを待たずして、渡さんの転移陣が床で光る。


「よし。ヴィアンとオリヴァー、ソネイロンはここで待機だ」

「了解」


 執行部隊と諜報部隊の面々は光に包まれ、燃え盛るUD天国課へと場所を移した。



「まだ全域には火が回っていない。分散して捜索しろ!」

「了解!」


 その命令のもと、俺とグレシル、合流したサンダルフォンとメタトロンの四人は、臨時拠点に向かった。

 そして、向かった先には、炎を上げる臨時拠点を背中に、門の前で待ち構えるミカエルの姿があった。


「まさか当たりを引くとはな」

「運命、というやつか」


 ミカエルは、お前に会いたかったぞ、と、小さく笑い声を漏らす。


 相手は敵意を剥き出しにしているようにも見えるが、今ここで戦ったところで勝ち目はないだろう。ひとまずは、他のメンバーに連絡して様子を見るしかない。


 グレシルが一歩出て、時間を稼ぐ。


「ミカエル、あなたは何が目的? なぜ人間界まで襲った?」

「そのうち教えてあげよう。まだ準備が完璧とは言えないからね」


 準備? 何をするつもりだ?

 俺の頭には疑問しか浮かんでこない。


「UDに関連する施設のみを襲撃している。どんな意図?」

「だから、そのときが来たら教えますって。もしかして時間稼ぎのつもりですか? そんなことしても、私に勝つのは不可能ですよ」


 時間稼ぎもお見通し、というわけだ。様子見もここまでか。


 そのとき、ミカエルの腕が何かを捉えた。


「隠れても無駄ですって」

「ちっ!」


 存在を消して蹴りかかっていたベルさんだが、もはや能力も通じなくなり顔を歪める。


「効きませんって」


 ミカエルが両手を高く挙げると、その手のひらから炎が放射され、火柱が天高くそびえ立つ。


「ドラっ!」


 火柱はミカエル目がけて急降下していた青龍を貫き、矛先はさらに空で円を描く。


「——っ!」


 円周上にいた明日太の幻影はことごとく消滅し、軽く火を浴びた本物が俺たちの後ろに着地する。


「今度は私から」


 ミカエルは一度姿勢を低くし、あの高速で移動して狙いを定める。

 だが、俺たちも前の戦闘から何も学んでないではない。


「リヴァイアサン!」

「ああっ!」


 鉄で武装されたリンさんの拳がミカエルの頬を捉え、ぶつかったあと呻きながら後退る。

 超高速で当たれば、当然ダメージは大きい。


「ユキナガ、後ろ!」


 再び消えたミカエルは、次は俺の後ろに姿を現すが、グレシルの指示に従えば簡単に対処できた。

 腰からナイフを取り出して後ろに振りかざすと、刃先はミカエルの手の甲に突き刺さった。そこから間髪入れず、今度は逆の手で銃を取って後ろに向かって引き金を引く。


「ぐっ……!」


 うめき声は耳元から下へと流れていき、足元でミカエルが崩れる。


「ユキナガ、離れろ!」


 遠くからベルさんの声が聞こえ、急いでミカエルとの距離を取る。

 その直後、俺のいたところには光が点滅し、たちまち爆発が起こった。


「この攻撃……、ウリエル……!」


 見上げれば、上空から白い羽を広げたウリエルが、次発の準備をして急降下してきた。


「総員退避!」


 俺たちはミカエルを中心に飛び退けてさらに距離を取る。ウリエルが、ミカエルのもとに着地するものだと思っていたからだ。

 しかし実際の着地点は、ミカエルとは少し離れていた。

 それどころか一発目の爆発はミカエルを巻き込んだらしく、消え散った爆風の中から出てきたやつの服や髪は、ダメージを負ってボロボロだった。


 もっと言えば、準備していた次発のターゲットはミカエルだ。


「どういうこと…?」


 その行動はラファエルでさえも疑問に思う。


「私たちに力を貸してくれるそうです」


 ちょうどその答えを持って空から降ってきたのは、ウリエルと対峙したいたサンダルフォンとメタトロンだ。


「力を貸してくれるって、話が見えないんだけど」

「あとで彼が話してくれるでしょう。それより、今はミカエルをどうにかしないと」


 話はあと。全員の視線がミカエルに集まり、完全にやつのアウェイになった。


「どうしてだ、ウリエル……! 私に忠誠を誓ったのではなかったのか……!?」


 ミカエルは傷ついた身体を庇いながら、ゆっくり近づいてくる。

 いよいよ一人になり、表情には寂しさも窺える。


「結局、私を助けてくれるやつはいないということか……。仕方ないな。あとは私一人でするしかないよな」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいた。身体を開いて、オオカミのように天高く雄たけびを上げる。


「さて、最終決戦にでもしましょうかね!」


 ミカエルはまた高速移動で消え、スウの後ろで踵を振り下ろす。

 その踵は召喚された玄武の甲羅に直撃し、スウはの化け猫の手で弾き飛ばされ、そのスウを俺がキャッチする。


 動きの止まったミカエルの脇腹に、存在を消していたベルさんの足がめり込み、数メートル先の木で再び動きを止める。


「まだ終わってませんよ!」


 一度膝を震わせたが、それほど効いてはいない様子だ。

 その反動なのか、さっきよりも一段と速度を増す。


「アスタロト!」

「はいっ!」


 見えないやつ目がけて明日太の幻影が何十体と突っ込んでいき、たまらずその場で足を止めた。


「邪魔で——っ!」

「リヴァイアサン!」

「ふっ!」


 明日太を振り払おうとしたものの、地面からせり出した巨大な岩の剣に跳ね飛ばされ、空高く打ち上げられた。


 グレシルの未来予知でミカエルの行動を読み、他のメンバーに伝えては攻撃を当てていく。


 ミカエルがふわりと浮き、その近くでウリエルの手が光を放った。光は暗くなった空でキラキラと輝いてミカエルの周りを飾り、そして轟音とともに真っ赤に染まる。


 あとから聞けば、ラファエルがいつの間にか、天国課のミカさんにドームの設定を夜にしてもらうようお願いしたらしく、それだけでウリエルの光と炎は、その威力を何倍にも膨れ上がらせてミカエルを包んだ。


 ミカエルは、爆風から煙を突き破って地面に落ちた。


「まだ警戒を怠るな。死んではいないだろう」


 ベルさんを先頭に、動かなくなったミカエルへと近づいていく。


「ふふふふ……。ははは……」


 外傷は十分深かったが、死に至る痛手ではなかったようだ。

 仰向けで寝転がって、なんとも覇気のない笑い声を出す。


「まだ続ける気か?」


 ベルさんは俺が渡した銃の銃口をミカエルの頭に当ててしゃがみこむ。


「いや、もうやめておこう。そんな気力は残っていない……」


 銃口を放すと、また笑って目を閉じた。


 しかし、そこで気を抜いてしまったのが間違いだった。

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