第39話 ……ははっ

 伯爵の所での挨拶をしてから数日。本格的な旅の前にお試しと言うか、訓練的な意味も込めてリベルターレ王国を周る事になっているんだが、その準備をしてたんだよ。

 でも、俺知ってるんだ……国王とミアさんが協力して俺たちが成人したら挙式を上げさせるつもりだって。だから最後の目的地が王都なんだよね。

 まぁ国王からの条件に頷いちゃったからどうしようもないんだけど。あの中にはクロエと婚約、結婚って書いてあるからね。大金を借りる為とはいえ、よくあんな条件を呑んだもんだよ。それだけ焦ってたんだろうね。俺的にも大きなマイナスは無かったし。


 さて、気を取り直して。最初の目的地は国の南に位置するサリレと言う都市だ。海産物がかなり豊富で活気もあるから商人が沢山いるんだそう。サリレを治めてる辺境伯家も元々は商人の家系だったらしいし。

 選んだ理由は別に大層なもんじゃない。単にギルドにあった依頼でこの都市への物があったからだ。こっちに帰って来たのと同じ護衛以来だけどな~。


 ちなみに今は朝日が出て来て少し経ったくらい。現在は南の門へ向かっている途中だ。そこから準主要都市の一つを経由してサリレに行く。

 あぁそれと、旅をするなら色々と必要な物があるんだが、ミレナが空間属性を持ち、所謂アイテムボックス的な魔法が使えるので荷物はそこに収納している。だからこそ全員手ぶらだ。

 となると当たり前の様にステラたちはくっ付いて来る。ただし、今日はメンバーが違う。ミレナとクロエだ。ステラはちょっと前を歩いている。何かステラとミレナの二人と婚約した日の夜、三人で話し合っていた時にそう決まったらしい。当然の事ながら俺の意見は全くない。……既に諦めてるので問題は無いんだけど。




 待ち合わせ場所である南の門に着くと既に依頼主の商人が出発の最後の準備をしていた。準備と言っても馬車を引く馬の様子や馬車に異常が無いか確認してるだけだけどね。

 この商人は元々サリレの住人で、そこの商品を売る為にここに来たらしい。で、商品は売り尽くしたのでサリレに帰るのに護衛を依頼したそうだ。まぁ盗賊とかに襲われる可能性はあるしね~(実体験)。


「おはようございますフェルさん」

「おはよう。先日も思ったけどユート君の傍に居る娘たち、綺麗だねぇ。よっ色男」


 挨拶をしただけなのに何とも返し辛い事を言ってのける。この商人、商いの腕は確かなのだが、内面が結構残念な感じになっている。ちなみに男性だ。女性の場合はステラたちの対処に困る所だった。

 まぁそれは兎も角。俺たちが来たのでフェルは御者台に乗り、俺たちは荷台に乗る。ステラたちも定位置に着いた所で馬車は出発した。




 馬車がアルトネアを出立してから二時間ほど。特に盗賊とかのアクシデントが無いのは良い事なんだが、俺は三人からある程度の時間おきに代わる代わる膝枕をされている。

 何故か、と質問したのにニッコリ笑顔で何も答えてくれず、抵抗なんかしても意味が無いのでされるがままとなっている。力づくでされたら耐えれないし。


「~♪」


 今はミレナの番の様で、ステラとクロエは二人で仲良く話している。偶に聞こえて来る単語に夜這いとか、アプローチとか聞こえて来たんだが……気のせいだろう。そう思いたい。

 ミレナは撫でる手を止めず、外を見ながら凄いご機嫌だ。ミレナは、と言うよりもミレナも、と言うべきか。ステラもそうなんだが正式な婚約者となった為か、二人とも物凄いご機嫌なのだ。ステラの番の時も本人から熱い視線を常に頂いたくらいである。今も時々それがこっちに放たれるが。


「……本当に機嫌が良いよな」

「だって、長年の夢の一つが叶ったんだよ? それはもう機嫌だって良くなりますよ」

「……ちなみにその内容とは?」

「ユートくんのお嫁さん」


 物凄い限定的なのが来た。普通そこはお嫁さん、だけで良いだろうに。徹底して俺を狙って来る。ミレナさんは相変わらずの様だ。

 だが、問題はそこじゃなかった。怖いもの見たさで続きを聞いてしまったのが俺の背筋をさらに寒くさせてしまった。


「他には何があるんだ?」

「ん~やっぱりユートくんの子供が欲しい、かな」

「……そ、そうなんだ」


 ちょっと斜め上の回答過ぎて反応が……いや、精神年齢的にはミレナも三十くらいだし間違っては無いのか……?


「ユートくん、今失礼な事を考えてなかった?」

「まさか。これからも頑張ろうって決意しただけだ」

「……ふふふ。頑張ってね、旦那様?」


 目を細めたミレナは艶っぽい声で囁いた。その頑張ろうって、自分自身への戒めのつもりなんだが。断じてそういう頑張るじゃない。ま、ミレナの場合はそこら辺も分かった上での言葉なんだろうね。さっきのセリフには許してあげます的なニュアンスが聞き取れたし。

 俺を起こしたミレナは寄り添って来て、こっちを向きながら目を閉じる。どう見てもおねだりの体勢だ。何をって? ……キスの事だよ。何か流れの一つとして定着したみたいでミレナとステラには最後にキスを、クロエにはハグをするのが決まりとなって来ている。

 ちなみに俺からしない場合は三人からのスキンシップとなり、ミレナとステラからはディープなものを、クロエからもそれに近い事をされる。


 なので俺からキスをする。絡めた指を軽くぎゅっぎゅっと握りながらご満悦のご様子。御者の方からは口笛が聞こえて来る。そちらを見るとフェルが俺を見てサムズアップを決めた。

 俺があまりしたく無い理由はこれ。人前じゃないなら何と言うか、構わないんだがそうじゃない時は遠慮したい。無意味に敵は作りたくないんだ。

 ただ、フェルは寧ろいちゃつくのを見るのが好きらしく、何回か前のステラとの時にそれを見てからは時折こっちを見る。あまり人通りが無いからこそ出来る芸当だ。


「……精神年齢とは言え、女の子に年の話はダメだよ? お詫び、期待してるね」


 最後に小声で釘を刺されてしまった。やっぱり読んでたのね。しかも最後にそれを持って来るという強かさ。いつも思うんだけど、凄いよね。

 ミレナはクロエと軽くタッチして、今度はクロエがやって来た。俺の隣に座ると腕を取って抱き締める。顔を赤らめながらも寄って来るクロエは可愛い。ステラ達と同じ様にクロエも積極的なんだが純粋な感じなのでほんわかする。




 とまぁそんな感じで馬車に揺られながら四日経ち、やって来たのは準主要都市のルトだ。ここで一日休憩と準備をする。

 ここでミレナにお詫びにデートのお誘いをすると受けてくれた。ステラとクロエは納得はしてるけど不満だ、と特にステラの顔に書いていたのでサリレに着いたらという事にして貰いました。当然ミレナもである。


「それでどこに行くの?」

「取り敢えず辺りを周ってみよう」


 ミレナと腕を組んで散策も兼ねて周りをぶらついてみる。服屋でミレナに似合いそうな服を見てみたり、露店で軽く食べ物を摘まみながら冷やかして回ったり。あとは見つけた広場で優しい陽の光を浴びながらのんびりとしたり。

 今はのんびりとしてるんだが馬車って乗ってるだけでも意外と疲れるからミレナはちょっと眠そうだ。


「少し寝る?」

「……うん。そうする」


 ミレナは流れる様に俺の膝を枕にしてすぅすぅと寝息を立てる。髪を梳くとくすぐったそうに身を縮こませた。ここ最近になってそう言うのを見ると自然と笑みが零れる。それも多分、婚約者になったからだろうなぁ。日本で言えば恋人って感じか?

 ミレナの気持ち良さそうな寝顔を見ると俺もミレナの事を好きなんだなぁって自覚する。まぁ、うん。三年もね、直球で好意をぶつけられたら普通はそうなるよね。俺の場合はステラからのもあった訳だし。こっちは五年以上な訳だけど。




 一時間ほど経った所でミレナを起こす。偶にしか見れないミレナの寝ぼけ眼姿に運が良かったと思いながらステラたちが止まっているであろう宿へ向かう。






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